お父ちゃんは、うそつきだ。
とうとつだが、おれはカッコいい男を目指している。
お母ちゃんは忘れんぼだから、「カッコいい」 ということばを忘れて時々おれに 「かわいい」 という。
弟のアッチにも言う。アッチは 「カッコいいだ!」 と怒るが、それはアッチが間違っている。
アッチはかわいい。
そもそも、カッコいい男は 「かわいい」 といわれたくらいでは怒らないのだ。
おれも最近気づいた。
そして、カッコいい男の第一条件。
それは、なんといっても。
き ん に く だ。
とくにカッコいいのは、近所にいるおじちゃんからもらった、ほとんどはだかで、ぐっと腕をまげ、きんにくをみせた写真だ。
お母ちゃんは気持ち悪そうに 「えー……それ、すきなの?」 とか言っていた。
女だからきっと、このカッコよさがわからないんだ。
おれもいつかこんなきんにくになるぞ!
そう決意して、服をいさぎよく脱ぎ捨て、両腕をぐっとにぎりヘソの前に拳をもっていく。
アッチもまねをしている。
なんでもおれのまねをしたがるんだからな、こいつは。
いいぜ。
ふたりで、きんにくポーズだ!!
コツは、いっぱいお腹に力をいれて、凹ませることだ。
するとほら、胸のあたりに固そうなデコボコができる!
カッコいいぜ、おれ!
お母ちゃんにも見せよう。
「お母ちゃん、おれカッコいい?」
お母ちゃんはにこにことうなずく。
「すごくカッコいい!」
わかってるな。さすが、おれのお母ちゃんだ。
「きんにくさわらせてあげる!」
「どうもありがとう」
おかあちゃんがきんにくをさわる。
ちょっとくすぐったいが、我慢だ。
「かたいだろ!」
「うん、固いねー」
「すごい?」
「すごい!」
おかあちゃんはずっとニコニコしている。きっとおれにカッコいいきんにくがあって、嬉しいんだろうな。
お父ちゃんにもみせてやろう。
「お父ちゃん、おれのきんにく!」
「ぼくのきんにく!」
アッチと一緒に、きんにくポーズをとる。
お父ちゃんはチラリと見て言った。
「それは、ろっこつ。骨や。筋肉なんかないわ」
お父ちゃんは、時々、うそつきなんだ。