おれと修行の日々。
2学期に入り、おれには新たな使命が、かされた。
お母ちゃんが言う。
「今日の九九はどの段? あんたまだ4の段 『ばら』 合格してないんか!」
「やる時間がなかったの!」
「ふうん。じゃあ4の段 『ばら』 はもういいな?
今日は6の段 『さがり』 と 7の段 『さがり』 中心にやるか」
「おう!」
そうだ。おれに与えられた使命。
それは 『九九のあんき』 なのだ!
おれは、1から10まで順番に上がる 『あがり』 はとくいなんだが、逆に、10から順番に下がっていく 『さがり』 は苦手。
(ちなみに、 『ばら』 は1から10までがランダム出現する。かけ算の答えを言うだけの 『おもて』 は大丈夫だけど、答えを見てかけた数字を言う 『うら』 はやっぱりちょっと苦手だ。)
でも、やるぜ!
「お母ちゃん、時間はかって! 10秒以内!」
「……なぁなぁ。それさー、ヒロくんの勘違いちゃうん? おとなだって 『さがり』 10秒以内は難しいで」
「だって先生が言ってたもん!」
「それは 『目標』 であって 『必須』 じゃないんじゃ……」
「とにかく、いるの!」
「はーい……」
お母ちゃんがしぶしぶ、ストップウォッチをセットした。
「5、4、3、2、1…… スタート!」
「しちとおしちじゅう、しちくろくじゅうさん、……」
すべり出しは順調だな。
今日こそは、クリアしてみせる!
…… だが。
「しちしちにじゅうはち」
「 ち ゃ う で 」
「ぁぁぁぁぁあああああ……!!!」
またまちがえた!
くやしすぎて、なみだがでちゃう!
『しち』 と 『し』 は似てるから、『さがり』 でよく、ごっちゃになっちゃうんだよ!!
「ぁぁぁぁぁぁあああーーー!」
もう、このくやしさと悲しみをいやすのは、ふかふかのおふとんにくるまれるしか、ないんやで!
おふとんの部屋にかけこんで、おふとんの中にうもれていると、お母ちゃんが 「あーよしよし、くやしいなー」 となぐさめにきてくれた。
「それなー、『なな』 で覚えさせたら良いのに。非効率やわー」
「それは言うな!」
九九では 『しち』 じゃなければいけないのだ!
「そもそも 『さがり』 なんてお母ちゃんが子供の時には無かったし、無くても困らなかった」
「それも言うな!」
それでも、やらなくちゃいけないんだぜ!
…… でも、でも。
なんかいやっても、ゴッチャになるなんて、おれは、なんてダメなヤツなんだ!
「ほら、誰でも最初からうまくはいかへんやろ? そんなん、何回も練習してうまくなるしかないやん。
炭○郎くんだって、呼吸が使えるようになるまでに、どんだけ頑張ったと思ってるねん」
「…………」
がんばって、水○斬りが使えるようになるんなら、そりゃがんばるけどさぁぁぁぁっ!
これ、九九だし。
それに、おれ、もうがんばってるし。
だれかさんみたいに 『おれだってせいいっぱい、がんばってるよ!』 って言いたくなるぞ。
だが、お母ちゃんはきびしい。
「修行あるのみ!
ほら、一緒に言うぞ。
しちとおしちじゅう、しちく…… コラ」
「……………………。」
「………… ええで。そこでそうやって拗ねてた方が、覚えられると思うんならそうしなさい。お母ちゃんは夕御飯つくるわ」
「………… やる」
「そうか、やるか! …… では」
お母ちゃんは、厳かに言った。
「全集中! 九九の呼吸、七の段 『さがり』 訓練開始じゃぁぁぁっ!」
………… だれのまね?
って、ツッコミ入れるのは、やめといてあげよう、と思った。
母より:
最近、なんか時間ないなぁ……って思ってたら、この宿題が毎日1時間程入ってくるんですよ……。
ヒロくんは、ヘナチョコ負けず嫌いなので、失敗する度に泣きながら、布団にくるまれに行くんですよ。
ついでに言うと、アッチがそばで真似して 「ちちとおちちじゅう、ちちくろくじゅうたん、」 とか言うのも気にくわないらしくて…… トゲトゲしてます。まじに。
なんでね。母としては、そんなの……
善○のじっちゃんになるしかないじゃないですか。あ、ネタ元は『鬼滅の刃』 (吾峠呼世晴、ジャンプコミックス) からです。