おふとんとおれ。
おれがお母ちゃんのおなかの中にいたときは、ほとんど動かなくて、お母ちゃんはよくお医者さんに 「生きてますか?」 と聞いてたらしい。
すると、お医者さんが 『エコー』 っていうのでおれの顔を見て、 「穏やかな顔してますねぇ」 ってコメントするんだって。
それでお母ちゃんは今でも言う。
「あんた、おなかの中が気持ち良すぎてずっと寝てたんやもんな」
うん、なんか、覚えてる気がするぞ。
だって、おれは、 お ふ と ん が 好 き なんだ。
おふとんに頭までくるまって、ゴロゴロしていると、あったかくてホワホワして安心して、いい気持ちになる。
おれがおふとんにくるまってると、お母ちゃんはいつも、 「おなかの中にいたころを思い出すんやろ」 と言ってくるから、たぶん、おふとんの中とおなかの中は似てるんだ。
おふとんは、ぶ厚いのじゃダメで、うすいのがいい。
夏じゃなければ毛布もいいけど、夏は毛布じゃ暑すぎる。
けど、うすいおふとんをテレビのおへやに持ち出すと、おかあちゃんはおこる。
うちはテレビのおへやでごはんも食べるから、「よごれるからやめて」 と言われちゃうんだ。
それでも、おれはまけない。
ミニテーブルを出して、下にぐちゃぐちゃに丸めたおふとんを入れて、上からもう1枚おふとんをかぶせる。
きちのかんせいだ!
したのおふとんの上に丸まって、かぶせたおふとんのすきまから、テレビをみる。
はぁぁぁ…… 最高。
いやされる。
ここで、アッチと 『あかちゃんごっこ』 をするのもいい。
あかちゃんになった方を、きちで寝かせて 「よしよし。あかちゃん、ねんねして」 って、お世話してあげるんだ。
あかちゃんって、いいな。
けど、あそんでそのままにしてて、お父ちゃんが帰ってくると、お父ちゃんはお母ちゃんの3倍くらい怒る。
お父ちゃんはおもちゃが散らかってるのがキライで、おふとんが出てるのはもっとキライなんだ。
おれにとっては、テレビの前におふとんがある光景こそ安らぐのに……
おとなって、むずかしい。
そんなある夜、おれは夢を見た。
めちゃくちゃ幸せ感があふれる夢だったから、うれしくなってお母ちゃんにクイズを出した。
「おれ、めっちゃいい夢みたよ! なんでしょう?」
「ええっ、それだけ? ヒントは?」
「なくても、お母ちゃんならわかるはず!」
「ええ~!」
うーん、うーん、と考えるお母ちゃん。
「鬼○の刃の炭○郎くんとゴハン食べてる夢」
「ちがうよー! それもいいけど、ちがう!」
「じゃあ、ベイブ○ードでお友達に勝った夢」
「全然ちがう! もっと、幸せな感じの夢!」
「うーん。お母ちゃんのおなかの中にいる時の夢……?」
うーん。
ちょっとちがうけど、まぁ、いいか。
「いちおう、せいかい! でも、ほんとうはねー……」
おれが本当のせいかいを教えてあげると、お母ちゃんはこう言った。
「つまり、今がいちばんしあわせってことかな?」
「うん、そうともいう」
おれが見た、めちゃくちゃ幸せな夢。それは。
おふとんにくるまれて、ねんねする夢。
これが、いちばんなんだぜ!