おれたちのホワイトデー。
今日は、ホワイトデーだ!
昨日、お父ちゃんと一緒にプレゼントを買いに行ったから、おれにはわかる。
お母ちゃんをいっぱい、びっくりさせるぞ。
まずは、お母ちゃんの枕元に、おれからのプレゼントをおく。
クリスマスの朝に、サンタさんからプレゼントがきてると、めちゃくちゃ嬉しいからな!
そんな感じにしてあげるんだ。
お母ちゃんは起きたらまず、スマホをさわるから、スマホのとこにしとこう……。
だけど、今日に限ってお母ちゃんは、スマホの方に見向きもせずに起きてきちゃった。
「お母ちゃん、もういっかい寝て!」
「どうしたん」
お母ちゃんがベッドに戻ったところで、おれからのプレゼントを発見した。
「おお! ありがとう! ヒロくん!!」
……なんか予定と違うけど、まぁ喜んでるからいいか。
「あけて、あけて!」
「うん、ありがとうねー。このリボンいる?」
そのうち、弟のアッチが 「ぼくもプレゼントあるよ!」 と、小さなクッキーの箱を持ってきた。
「わー! アッチも! ありがとう!!」
お母ちゃんはやっぱり喜んでいる。
「ねえねえ、お母ちゃん、おれとアッチのと、どっちが嬉しい?」
「どっちも!!」
「えーダメ。どっちか!」
お母ちゃんは、おれにひそひそと耳打ちする。
「ヒロくんの方!」
ふっ、勝ったぜ!
そうだろう、そうだろう。
おれの方がアッチのクッキーより、箱も大きいし、中身だって、オシャレな貝がら形のふわふわのお菓子だからな!
「ねー。食べて食べて! おいしい?」
「おいしい!」
「アッチのとどっちがおいしい?」
お母ちゃんは、また、ひそひそと耳打ちしてきた。
「ヒロくんの方!」
やっぱりな。
「たくさんあるから、ヒロくんも食べなよ」
そうだな。おれも1個、もらおう。
……おお、これは! う ま い !
甘すぎないふんわりとした生地、ほどよいバターとレモンの香り……
おれ、いいの選んだ!
うまい!
もう1こ、もらおう。
……もう1こ。……もう1こ。
おれだけじゃないぞ!
ちゃんと、お母ちゃんにもあげているぞ!
「ぼくのクッキーもたべて!」
みれば、アッチはほとんどのクッキーを自分で食べている。
「アッチ、クッキー自分でたべちゃったなー!」
「いや、お母ちゃんも貰ってるよ。大丈夫」 とお母ちゃんがフォローする。
「ぼくのクッキーもおいちいでちょ!」
「うん、すごいおいしい!」
「お母ちゃんに、これもあげるね!」
アッチは自分がかじりかけたクッキーを、お母ちゃんの口に無理やり押し込んでいる。
まったく、仕方のないやつだ。
お昼すぎ、お母ちゃんは買い物に出かけた。
さぁ、この間に、プロジェクト第2弾だ!
パーティーのじゅんびを、お父ちゃんとするんだ。
ちゃんと昨日のうちに、お母ちゃんが好きな食べ物も聞いておいたぞ。
お母ちゃんが好きな食べ物は、おにぎりだ!
「まずはお父ちゃんがお手本をみせてやろう」
そんなの見なくても、知ってるぞ。
ラップにごはんを広げて、おかずを置いて、まるくするんだろ。
……あれ? おかずがはみでた。
「下手くそやなぁ」
なんだと。
でも確かに、お父ちゃんは上手だ。
きれいな形ににぎってる。
「これは、『たわらがた』 というんや」
「おれは、『さんかく』 にするぜ!」
お母ちゃんが作ってくれるおにぎりも、三角形だからな。
お母ちゃんはきっと、さんかくおにぎりが好きなんだ。
おれとお父ちゃんは、おにぎりをたくさん作ってお皿に並べた。
あとは、お父ちゃんが 『ボンゴレビアンコ』 というのを作って、お母ちゃんがみんなの飲み物を買ってきたら、パーティー開始だ!
よし。今のうちに日記を書いておこう。
おれは普段は日記など書かないが、今日は書きたい気分なんだ。
『きょうはホワイトデー!
おかあさんにプレゼント!
きょうはたのしかったです。
あとでおにぎりをいっぱいたべました』
よし、完璧だな!