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第97話 襲いかかる魔の手と崩落

「まさか勝った気でいるつもりじゃないですよね……?」


 焦るどころか、逆に余裕を見せ始めるアブラ。


「は? それはどういう……」


 突然余裕を見せ始めたアブラに訝しむ悠斗は問い詰めようと考えたその瞬間、後方から悲鳴が聞こえてきた。


「きゃああああ!」


 悠斗は急いで後ろを振り返ると、アブラの兵がいつの間にかナルシャを人質にとっていた。


「おっお兄ちゃん……」


 戦闘中は危ないからと後方に下げていたのが仇となったのだろうか。

 なぜ、どうやって? という疑問が頭の中を過るが、それよりもナルシャが人質にとられてしまったことで激昂する悠斗。


「てんめぇぇぇぇぇぇぇ!」


 激昂した悠斗は、ナルシャを取り戻そうと動こうとするのだが。


「おっと、これ以上近づくと危ないですよ?」


 アブラの兵がナルシャの首元に剣を近づけて悠斗の動きを止めた。

 歯を強く噛み締めて自身を睨みつけている悠斗の顔を見たアブラは、童心に還ったかのように愉快な笑い声を上げる。


「貴方もそんな表情ができるんですね。中々愉快な気持ちになれましたよ!」


 煽る様に話すアブラを見ては腸が煮えくり返る悠斗。

 冷静さを欠けそうになるものの、深く深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

 何とかアブラの隙きを突こうとリーエルに手で合図を送ろうとするのだが、その隙きを見逃さないアブラ。


「おっと、下手に動かない方がいいですよ? そちらが攻撃をしかければ、こちらは大きな被害を被ることになるでしょう……しかし!」


 アブラは兵に指示を出すと、ナルシャの首元にある剣を彼女の首に当てる。

 ナルシャの首が少し切れて、紅い血が流れ地面にポタポタと雫のように落ちていく。


「余計なことをすればこちらは余って手を滑らせしまい、彼女の首に傷がつくかもしれませんね」


 アブラの言いたい事が分かったのだろうか、悠斗は合図をしようとした手をおろす。

 リーエルの顔を見るのだが、彼女も悔しそうな顔をしながら首を横に振る。

 現時点でナルシャを無事に救う手段が思いつかないのだ。


 不意打ちでみずてっぽうを放つとしても、兵の数は多くて誰かが身代わりとなるだろう。

 その間にアブラは兵に指示を出してナルシャの首をその剣で斬り落とすかもしれない。

 だからこそリーエルは首を横に振ったし、そんな彼女の態度を見て悠斗は理解してしまった。

 今の自分達にはどうすることもできないと――。


 アブラはそんな悠斗達を見ては上機嫌でどこか楽しそうにしている。

 悠斗を更に煽るよう、嫌な笑顔へ表情をしたまま口を開く。


「貴方に散々煮え湯を飲まされてきましたが、こうして立場が逆転すると気持ちがいいものですね?」


「くっ……!」


「さて、この少女はこのまま預からせていただきますね。それではまた……」


「待て!」


 悠斗は焦り声を上げるがアブラは一度も振り返らず、ナルシャを連れて来た道を戻っていく。

 悠斗は急いで追いかけようとするのだが、突然地鳴りと激しい揺れに見舞われる。


「なっなんだ!?」


「……!? 悠斗、早く伏せるのじゃ!」


 いち早く異変に気付いたリーエルは悠斗に向かって叫び声を上げる。

 悠斗はリーエルに言われた通りふじことリーエル、そしてミラを抱きかかえて彼女達を守るようにうつぶせになる。

 それと同時に激しい爆発音と共に悠斗達をふきとばした。

 爆風に身体ごと飛ばされた悠斗はそのまま壁に激突。


「がっ……!」


 受け身をとる暇もなく背中から勢いよくぶつかった衝撃で、体中から空気が抜ける。

 そのまま重力に従ってズルズルと地面に倒れていった。

 ただ、幸いにもふじことリーエルとミラだけは悠斗が抱えて守っていたので、無事であった。


「んっ!」


「悠斗!?」


「ダーリン!?」


 ふじこ・リーエル・ミラは悠斗に声をかけたのだが、気絶しているのか起き上がる気配はない。

 先程の衝撃で意識を失ってしまったのだ。

 さらに追い打ちをかけるように揺れはさらに激しさを増す。

 先ほどの爆発の影響なのか周囲は絶え間なく揺れて、天井が今にも崩れそうになっていた。


「ヤバいのじゃ! ふじこ・ミラ、悠斗を引っ張っていくぞ!」


「んっ!」


「わかったのだ!」


 幼女三人は力を合わせて引っ張っていくが大人の男、しかも装備の重量もあって中々動かなかった。


「うぬぬぬぬ、このままじゃ全員生き埋めになってしまうの……そうだ! ミラよ、ちょっと大人の姿になって悠斗を背負うのじゃ!」


「その手があったのだ! っといいたいのだけど、魔力がスッカラカンなのだ!」


 テヘッ☆ っと可愛いポーズで決めているミラの緊張感のなさを怒鳴ってやりたい気持ちがあるリーエルだったが、それどころじゃないので敢えてスルーを決める。


「魔力なら問題ないのじゃ。ふじこ!」


「んっ!」


 いまだミラに対しては少し人見知りをしていたのだが、悠斗が気絶してしまって彼女自身も勇気を振り絞った。

 ミラの手をギュッっと握ってミラに自身の魔力を注ぎ込むふじこ。


「おっおお! これならいけるのだ!」


 ふじこの手からどんどん大きな魔力が注ぎ込まれ、()()だか自然と自身に馴染んでいく感覚に驚くミラ。

 降ってきた疑問の答えを探る時間もないため、頭の中に出た疑問を他所にどけて魔力を練る。


「変身なのだ!」


 掛け声と共に強い光に包まれたミラは、ニョキニョキと大人サイズに変化していった。

 変身を遂げたミラはすぐさま悠斗を背負っていくのだが。


「おっ重いのだ~……」


 大人の姿になったからといって、悠斗が軽くなったわけではない。


「少し我慢せい! よし、ふじこ。わしらも急ぐぞ!」


「んっ!」


 大人の姿になったミラは悠斗を背負い、リーエルとふじこは急いで脱出を図る。

 瓦礫となった天井の一部が降り注いでいくが、それを適格にリーエルとふじこがみずてっぽうで打ち壊していく。


「間に合えなのだーーーー!!」


 必死な顔をしたミラは通路の奥へ飛び込んだことで、なんとか崩落から免れた。

 それと同時に、変身も解けて元の幼女姿に戻る。


「つっ疲れたのだ~……」


「アブラと言ったか……あやつ、絶対に許さぬのじゃ……」


「んっ!」


 幼女三人組はなんとか悠斗を背負って、無事に生還を果たすことができたのだった。

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