第96話 いるはずのない者
「魂が消滅。つまり、永劫の死を迎えてしまうのじゃ!」
「なっ……なんだってーーーー!!!!」
リーエルから爆弾発言が飛び出した。
「えっちょっと……破棄することって……」
今からでもクーリングオフができないかと考えていた悠斗であったが、現実は厳しい。
契約した当の本人である火の大精霊はあっさりとこう答える。
「当然できないのだ!」
「じゃから待てと言ったのじゃ……」
はぁ……と悠斗を見ては小さな溜息をつくリーエル。
「そんなことは早く言ってくれよ!」
がくがくと肩を揺する悠斗であったが、リーエルは顔を背けて。
「し~らないのじゃ」
そう言うと少し不機嫌になったのか悠斗を無視してふじこの相手に戻った。
こうなったリーエルには話を聞いてもらえない。
「まあやっちまったもんは仕方ないし」
諦めの良い悠斗は問題を未来の自分に託すことに決めて自己紹介をすることにした。
「さて、改めて俺は三嶋 悠斗。よろしくな! そしてこっちがふじこ」
悠斗に紹介されたふじこは「んっ」と一言話すと悠斗の背に隠れてしまう。
「わしは必要なさそうじゃが一応の……。水の大精霊ウンディーネことリーエルじゃ。これからはリーエルと呼ぶがよい」
「はっ始めまして……わっわた……わたしはナルシャと言います、大精霊様」
一応自己紹介するリーエルに、ガッチガチに緊張しているナルシャ。
彼女の「始めまして」に疑問を覚えつつも、深く考えていない火の大精霊は、すぽっと頭の中から疑問を消して挨拶をする。
「ぼくは火の大精霊イフリート。よろしくなのだ! ダーリンとみんな!」
「はっはは……」
火の大精霊ことイフリートの『ダーリン』呼びに悠斗は苦笑しながら諦めた。
イフリートはリーエルの顔をじーっと見ると。
「ウン……じゃなくてリーエルちゃん……ってことは新しく名前つけてくれたの!? いいな~いいな~」
そう言ってイフリートは悠斗の裾を掴んでウルウルさせている。
まっそうなるよな……と呟いた悠斗は少し考えて。
「……そうだな。じゃあ『ミラ』でどうだ? 俺の世界にいたとされる四大天使の一柱ミカエル。支配していた元素は火。そこから引用したんだが……どうだ?」
イフリートは下を向いたままプルプル震えており、今にも感情が爆発しそうだった。
勢いよく顔を上げた彼女は目をキラキラさせて。
「すっごく嬉しいのだ! これからはミラって名乗るのだ!」
そう言って天真爛漫幼女こと火の大精霊イフリートと契約することに成功した。
喜んでる火の大精霊イフリートことミラの様子を見て一安心した悠斗、ふと疑問をぶつけてみることにした。
「それにしても、ミラは何でここで封印されてたんだ?」
「わかんないのだ!」
天真爛漫な笑顔でそう答えるミラを見て、悠斗とリーエルは同時に溜息をついた。
そんな中、ここにいるはずのない者の声がした。
「それは貴方が役に立たないからですよ」
複数の足音と共にやってきたその男はアブラ。
壁だったはずの所がいつのまにか開いており、その奥には階段が見える。
おそらくそこからやってきたのだろうと推測した悠斗。
アブラは多数の兵士を連れて悠斗達の前に来ると、悠斗の顔を舐めるように見つめる。
その表情から悠斗の考えを読み取ったアブラは不敵な笑みを浮かべて。
「ここは宮殿と繋がっていましてね……騒々しいと思って様子を見に来て正解でした」
そう答えると表情を一転。不機嫌そうな顔をしてアブラは悠斗を睨みつける。
「毎度毎度毎度……本当に貴方は邪魔をしてくれる……」
アブラが右手を上げると、兵達は武器を構えだした。
「さすがにもうウンザリですよ」
多数の兵に囲まれた悠斗は警戒を始める。
アブラの合図で多数の兵は武器の矛先を悠斗達に向けて、次の合図を待つ。
「やりなさい」
アブラの言葉を聞いた兵達は一斉に悠斗達へ襲い掛かる。
しかし、そんな状況でも天真爛漫な笑顔を変えていないミラは。
「ここは契約したばかりの僕ががんばらないとなのだ!」
そう言ってミラは悠斗の手を握ると。
「僕たちの力を見せてやるのだ!」
「おう! くらえ!」
契約した精霊の力を使おうと、悠斗は向かってくる兵に手をかざす。
相手は大精霊。その力を危険視している兵は動きを止めて防御体勢に変える。
ボッ……。
しかし、出てきたのはファイアーボールでも何でもなく、指先から100円ライターの様な小さな火が飛び出ただけ。
一瞬にして無音の空気が広がった。
「いっけね、俺って確か魔法素養がしょぼいんだった……」
「ダーリンはよわよわなのだ~あはは!」
「ははははは」
ミラと一緒に笑って誤魔化そうとした悠斗であったが。
「殺せーー!!」
「「「「うおおおおおおおお!」」」」
アブラの怒声と共に兵達の動きは再開する。
「まあそうなるよな……ってことで!」
「任されよ!」
ふんす! っといつもより気合が入っているリーエル。
ふじこと手をつないで魔力を供給したリーエルは、ふじこと一緒にみずてっぽうを周囲に放った。
向かってくる相手の顔面へ次々に当てて気絶させていく。
しかし、それでも増員は止まらない。
次々をアブラの背後から兵が流れ込んでくる。
みずてっぽうも百発百中ではなく、当然避けられる者も存在するため悠斗が相手にできる数は限られる。
だからこそ、その隙きを突いて彼以外の者に刃を向ける者も当然出てきた。
その中には女子供だろうと容赦しない者は術者……つまりふじことリーエルを先に倒そうと動く。
「うちの可愛い妹達に手を出してるんじゃねぇよ!」
それを見た悠斗は力任せに兵を押しのけると、ふじことリーエルの間に入って彼女たちを守る。
そうしながらお互いに不足している所をカバーしつつ立ち回る。
繰り返す内に、いつの間にか敵の数も減っていた。
息を整えて悠斗はアブラを見ると。
「アブラさん、俺はあんたと戦いたいわけじゃないんだ。ここで引いてくれるならこちらも手出しはしない」
アブラの手練はかなりの数が減っている。
このまま続けても同じ結果になるだけだと悠斗はそう伝えたかった。
悠斗自身は戦いたいわけじゃなく、向かってきた火の粉を払っただけだからだ。
だからこその発言であるし、どちらかが矛を収める必要がある。
剣を向けたままじゃ信用しないだろうなと思った悠斗は、行動で示そうとしたのか剣を鞘に納めた。
そんな悠斗の行動を見て苦々しい顔をすると一転、不敵な笑みを浮かべて悠斗を見つめる。
「まさか勝った気でいるつもりじゃないですよね……?」
焦るどころか、逆に余裕を見せ始めるアブラ。
「は? それはどういう……」
突然余裕を見せ始めたアブラに訝しむ悠斗は問い詰めようと考えたその瞬間、後方から悲鳴が聞こえてきた。
「きゃああああ!」
悠斗は急いで後ろを振り返ると、アブラの兵がいつの間にかナルシャを人質にとっていた。
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