第93話 天真爛漫幼女
祭壇のような所をよく見ると、深紅に輝く紅い髪をした幼女が横たわっていた。
近づいてみると、祭壇で横たわっている幼女は気持ちよさそうにすぴーっと鼻息を鳴らして熟睡しているようだ。
悠斗が手を伸ばそうとした途端バチリと音が鳴り、見えない何かが悠斗の手を阻む。
「うわっ!」
突然のことに驚いた悠斗は手を擦りながら後方へ飛びのいた。
「大丈夫か悠斗!?」
心配するリーエルの言葉に悠斗は。
「ちょっと痺れただけで問題ないぞ」
そう言ってすぐ前方で眠っている深紅に輝く紅い髪の幼女を見て。
「それにしても、ここで幸せそうに寝ているのが火の大精霊ってことでいいの」
「うむ、久しく見ておらんかったが火の大精霊で間違いないようじゃ……が、本当にこやつは封印されておるのか?」
訝しむリーエルがそう言うのも不思議じゃない。
すやすやと幸せそうに幼女は寝ている。
更には何を言っているのか分からない寝言も口にしているからだ。
リーエルは火の大精霊に向かって手を伸ばす。
「触れないしビリビリするぞ?」
そう言って悠斗はリーエルの行動を止めようとするのだが。
「わかっておるわ。ちょっと確認したいことがあっての……」
リーエルは恐れずに手を伸ばすと、やはり彼女の手はバチリと音が鳴って見えない壁に阻まれる。
痺れた自身の手を見たリーエルは、そのまま何かを辿るように視線を右に移す。
「ふむ、あれか……」
そう言ってリーエルは角にあるオブジェへ向かってみずてっぽうを放つ。
「おいっ!」
悠斗の言葉で止まることもなく、オブジェに向かったみずてっぽうは抵抗もなくあっさりと崩れ落ちた。
「勝手に物を壊すな!」
がくがくと肩を揺らされるリーエルは。
「あわわわ。ちっ違うのじゃ! あれが封印の原因なのじゃ」
「本当か?」
「本当じゃ! 自分の契約精霊を信じるのじゃ!」
訝しむ目をしている悠斗を見て、リーエルは目をウルウルさせるも不満そうにしている。
「うぐっ!」
胡散臭い感じはしつつも、契約精霊であるリーエルを信じなかったことに少々の罪悪感は感じる悠斗。
「はあ……まあ壊してしまったもんは仕方がないし、一つや二つ壊れても誤差みたいなもんだろ」
全然誤差ではないのだが、そこまでリーエルが自信を持っていうのだからと信じることにした。そんな悠斗の顔を見てリーエルは留飲を下げた。
「もっと契約精霊であるわしのことを信じるのじゃ。のう、ふじこ」
「んっ!」
「それじゃやるかの……ふじこ、そっちの二つは任せるぞ」
「んっ!」
一言返事したふじこはコクリと頷くと、左側の角に二つある謎のオブジェに向かってみずてっぽうを放つ。
リーエルも残りの一つに向かってみずてっぽうを放った。
残ったオブジェもふじことリーエルのみずてぽっうであっさりと崩れ落ちる。
「ふむ。これで大丈夫のはずじゃぞ。試してみよ」
そう言われた悠斗はもう一度手を伸ばしてみるが、何かに阻まれることもなくなった。
予想通り封印装置であったことを当てたリーエルは鼻高々だ。
「ふむ、これで問題解決じゃな」
リーエルはそう言って、今でも気持ちよさそうにスピーッと寝息を立てている幼女の頬を突く。
それでも起きることはなく、鬱陶しそうに手を払うと。
「〇※▲∀◇なのだ~……むにゃむにゃ」
言葉にならない寝言を放つと、そのまま夢の世界へまた旅立ってしまう。
「むにゃむにゃとか言いながら寝ている子って実在するんだな……」
悠斗の感想はそれ以上でも以下でもない。
ナルシャは両膝を地面についてお祈りしているのだが、悠斗はそんな気分にはならない。
ただ気持ちよさそうに寝ている幼女にしか見えない悠斗はリーエルに問いかける。
「大精霊ってこんな奴ばっかなのか?」
リーエルが自身の神殿に書いていた文章を思い出してしまった。
威厳もくそもへったくれもない印象しか悠斗は受けていない。
リーエルは自身がやっていたことを無かったことにしているのか、それとも忘れているのか「失礼な奴じゃな」と文句を言いながら当然のように答える。
「そんなわけないじゃろう。単にこやつがぐーたらしとるだけじゃ」
リーエルは寝ている火の大精霊を呆れつつも、自信満々な表情で悠斗の顔をみては。
「わしはしっかりと大精霊しておったじゃろ。の?」
謎の自信に満ちているリーエルを見て、悠斗は無言で返すことにした。
そんなリーエルはめげずに片目を何度も瞑ってはアイコンタクトをしている。ナルシャの手前そうしておきたいのだろうか。
もう時すでに遅しだろ……と思う悠斗であったが、なんとか捻り出した言葉「おっそうだな」であった。
そんな二人の隠れたやり取りに気づくこともなく、純真な目をしたナルシャはよく状況が分からずに首を傾げている。
ナルシャを置いてけぼりにしつつも、悠斗とリーエルはコントを繰り広げられていた。
こうして騒がしくしていても起きてこない火の大精霊をみて、さすがに我慢の限界が来たのかリーエルは寝ている火の大精霊に向かってみずてっぽうを放つ。
「早く起きるのじゃ」
「あぶぶぶぶ――」
さすがにリーエルのみずてっぽうを顔面で受けてはぐっすりと寝ていた火の大精霊も起きだした。
「なっなんなのだ……?」
周囲を見渡すと知らない顔が二人に知っている顔が二人、そして一匹の魔物。
久しぶりに見る知り合いの顔を見た火の大精霊は。
「あれっウンディーネちゃん? なんでこんな所に?」
頭をコテンと傾けている火の大精霊を見てリーエルは。
「久しぶりじゃの。そのセリフはそっくりそのまま返すのじゃ」
「えっとね~。ここに閉じ込められちゃったからなのだ! ウンディーネちゃんこそ何でここにいるの?」
「お主を助ける為に決まっているじゃろ。それに久しく会っておらんかったからあいたかったのもあるのじゃ」
ちょっと照れながら話すリーエルに、火の大精霊は天真爛漫な笑顔で。
「わーい! ウンディーネちゃん大好き! ぼくも会いたかったのだ!」
そう言うと、火の大精霊はリーエルに抱きついた。
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