第91話 赤いゴーレム
「これは……余裕じゃね?」
リヴァイアサンの時ほど危機感を覚えない悠斗は、余裕を感じ始める。
それと同時に内心『フラグを建てたか……?』と後悔も始めた。
悠斗の内心など露知らないふじことリーエルは後方から援護を続ける。
今度は無数のみずてっぽうをゴーレムに向かって放った。
しかし、やはりゴーレムは全身に赤いラインを奔らせると熱を放出させて無効化させる。
「ちっ……やはり防いできよるか……」
愚痴るリーエルとは反対に、悠斗は笑っていた。
「いや、ナイスだ。ふじこ・リーエル!」
ゴーレムと悠斗との間に蒸発した霧で視界が埋まる中、動きを止めたゴーレムめがけて悠斗は突っ込んだ。
霧に視界を塞がれたのはゴーレムも同じだが、悠斗は違う。
霧の中から微かに赤く光る場所が見えるからだ。
その場所目掛けて悠斗が持つ巨大な両手剣。その剣先が赤く光る場所を目掛けて進んでいく。
霧の中から突如現れた悠斗の攻撃に、ゴーレムは初めて隙きを見せる。
悠斗の剣は確かにゴーレムの体目掛けて突き進んだのだが、僅かに横へ擦れる。
だが、完全に外れたわけではなく、ゴーレムの体を確かに削った。
「クソっ……だけど攻撃は通るな」
攻撃が通るのを認識した悠斗は、突き刺した勢いを止めることはせず体を回転させる。
「うらぁぁぁぁ!」
悠斗の体重も乗せた回転斬りは勢いよくゴーレムへ向かうのだが、それを左手で強引に掴んだ。
「なっ!」
これが生物であれば何かで受け止めるか、もしくは避けるだろう。
手で受けてしまえば、最悪体ごと両断されてしまう。
しかし、ゴーレムは無機物で構成されている。更には痛みを感じないため、こういった強引な手法を取ることができるのだろう。
掴まれた両手剣を、なんとかゴーレムから振りほどこうと力を入れるのだが動かない。
悠斗とゴーレムでは力の差がありすぎるからだ。
「ぐぎぎぎぎ!」
歯を食いしばって動かそうとするものの、ピクリとも動かなくなった悠斗の剣。
ゴーレムは剣を握っている悠斗ごと持ち上げると。
「うわわわわ!」
そのまま悠斗を叩き付けるかのように、壁へとぶん投げた。
「悠斗!」
悠斗の危機を察してリーエルは咄嗟に魔法を発動させる。
壁と激突する前に悠斗との間に弾力のある水玉を出現させて衝撃を殺す。
悠斗の体は壁に激突することもなく、リーエルが出現させた水玉によって受け止められた。
「助かったよリーエル」
「行き急ぐでないぞ、悠斗」
リーエルの言葉に、再度気を引き締める悠斗。
ゴーレムの方へ視界を向けると、距離をかなり離されていた。
悠斗と距離が開けたゴーレムは詰め寄るでもなく、されど元の守護位置に戻ることもなく近くの壁へ移動した。
「何を……!?」
ゴーレムは近くの壁側にある大きな支柱を掴むと、強引に引っ張って引き抜いた。
「おいおい、それがお前の武器ってことかよ……」
大きな支柱を軽々と持って、悠斗の方へ向かう。
悠斗へと距離を詰めたゴーレムは、その支柱で叩き潰すかの様に真正面に振り下ろす。
これにはさすがの悠斗も避けざるを得ない。
「こんなの受けきれるわけないだろ!?」
ゴーレムに文句を言うが、もちろん聞き入れるわけがない。
逃げに徹するしかない悠斗を見たリーエルは。
「わしらもやるぞふじこ!」
「んっ!」
ふじことタイミングを合わせて、みずてっぽうを放つ。
だが、そのみずてっぽうの向かう先はゴーレムではなく持っている支柱。
ただの建築物でしかない支柱は、ゴーレムみたいに塞がれることもなく呆気なく崩れ墜ちる。
「ナイス!」
しかし、ゴーレムは無くなったのなら補充すればいいの精神なのか、また新しい支柱を引っこ抜いていく。
「なんか無駄に数があると思ったらそういうことかよ!」
引き抜いた支柱を持って、再度悠斗へ攻撃をしかけてくる。
「そっちがその気なら……リーエル!」
「任されよ!」
悠斗の合図で、ゴーレムが支柱で悠斗を叩きつける前にその支柱を壊す。
「何度だって壊してやるよ……ふじことリーエルが!」
ゴーレムが支柱を引っこ抜く度にふじことリーエルはみずてっぽうを放って壊していく。
幾度目かの応酬うを繰り広げる中、リーエルはゴーレムが支柱を振り下ろそうとしたタイミングで支柱を壊す。
突如振り下ろそうとした支柱が壊れたことで体勢が崩れるゴーレム。
「そこだっ!」
体勢が崩れたその隙をついて、悠斗は攻撃を仕掛けた。
狙うは胴と左腕の付け根部分。悠斗はそこを目掛けて剣を振り下ろす。
振り下ろされた剣は狙い所に的中し、胴と左腕を断ち切ることに成功した。
「これで終わりだ!」
一気に終わらせようと考えた悠斗は追撃を試みるのだが。
「悠斗、離れるのじゃ!」
後方からリーエルの注意が入り、剣はゴーレムに当たる直前で止まる。
「ん?」
悠斗が動きを止めた途端、ゴーレムから赤いラインが全身に奔る。
何故だか嫌な予感がした悠斗は後方へ下がろうとする。
しかし、それよりもゴーレムの変化が早かった。
全身に奔ったと思った赤いラインは、全身に色付けするようゴーレムを染め上げていく。
赤く染められた真っ赤なゴーレムの目が怪しく光ると。
『GORRRRR』
ゴーレムの咆哮は全てを拒絶するかの様に熱波を放出させる。
「ぐぅ……」
剣を盾にして直撃を防ごうとする悠斗であったが熱波の威力は強力で、悠斗を軽々と吹き飛ばす。
「ぐわぁぁぁぁ!」
吹き飛ばされるもなんとか空中で体勢を整えて、剣を地面に突き刺し勢いを殺していく。
「痛てて……」
ダメージを最小限に抑えた悠斗はおもむろに剣へ目をやると。
「とっ溶けてる……!?」
ふじことリーエルの魔力で変質した水色の大剣は、先ほどの熱波で形が崩れていた。
「わしとふじこの魔力に干渉する程とは……!?」
ふじこの魔力と大精霊の魔力で形成された大剣を崩す程の威力に、さすがのリーエルも驚いた。
リーエルとふじこは慌てて魔力を注ぎ、水色の大剣を元の形に戻す。
「助かる、ふじこ・リーエル」
「んっ!」
「気にするでない。今度はこちらがお返しをお見舞いしてやるのじゃ!」
自分達の力作である水色の大剣を崩されたふじことリーエルは怒り心頭。
そんなふじことリーエルとは対象に心配そうなナルシャ。
「お兄ちゃん……」
「心配すんな」
悠斗は心配そうに見つめてくるナルシャの頭を撫でて安心させると、うさこに話しかける。
「うさこ、こいつらを頼むぞ」
『きゅ~!』
ホーンラビットのうさこに何ができるとは思わないが、うさこも気合十分。
「行ってくる」
そう一言残し、立ち上がった悠斗は赤く染まったゴーレムへ向かう。
しかし、ゴーレムは悠斗の方へ向かわず、立ち止まったまま右手を振り上げる。
「何を……!?」
振り上げられたゴーレムの右手が炎に包まれていくと、その拳を地面に突き刺した。
突き刺されたゴーレムの右手から地面に亀裂が奔り、悠斗の元へ伸びる。
伸びた亀裂をなぞるように炎も勢いよく伸びていく。
炎の亀裂となり、悠斗を飲み込むように襲いかかった。
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