第89話 迷いの十字路を抜けた先
「戻っても進んでも脱出できぬとは……どうしたものかの……」
リーエルが愚痴をこぼし始めたため、一行は進行を止めた。
順調に進んでいた悠斗達であったが、脱出できない迷路に迷い込んでしまったのだ。
ジメジメした熱風が悠斗達の肌を凪いでいるのもあり、動くのも億劫になっている。
戦闘であればある程度なんとかなると思っていたのだが、こうして路頭に迷っては頭を使う行為に不慣れであるのであった。
だからというわけではないが、休憩という意味も込めて、悠斗は一度休むことにした。
「とはいえ何も考えずに進んでも体力奪われるだけだしな……ふぅ……」
悠斗の言う通り、闇雲に歩き回っても解決せずに体力が消耗するだけなのだ。
だからといって解決策が出るわけではない。
「そうじゃの……何か手がかりでもあるとよいのじゃが……ってなんだか暑くないかの?」
「暑いよね……ってふじこちゃん!」
ナルシャが同意し始めた所、ふじこは我慢ができなかったのか服を脱ぎ始めた。
「こらこら。暑いからといってこんな所で脱ぐんじゃない!」
悠斗は「……ったく」と言ってふじこのポーチからハンカチを取り出してリーエルに濡らしてもらう。濡れたハンカチで熱を逃がす様にふじこの首元を拭いてやる。
気持ちよさそうにしており、ふじこは落ち着いたみたいだ。
「しばらくこれを首に当ててろ。少しはマシだろ?」
コクリと頷いたふじこみて一息ついた悠斗。
なお、乱れたふじこの服はナルシャが整えてやった。
しかし、ふじこが暑くて服を脱ぎたくなるほど、遺跡内の温度は上がっていた。
「んだけどマジで暑いな……っあ!」
遺跡内から流れてくる温かい熱風を鬱陶しく思っていた悠斗だが、何かに気づく。
「どうしたんじゃ? 悠斗」
リーエルは何かに気づいた悠斗を見ると、彼はは十字路の右を指して。
「いやさ、部屋全体が暑いっているよりも、なんだか熱風がこっちの方から流れてるだろ?」
「うむ……あ~なるほど」
悠斗が言いたいことを察したリーエルはニヤリとする。
そんな二人の顔を見合わせたナルシャは「えっ? えっ?」と理解はできていない様子。
「んっと……どういうこと?」
頭をコテンと横に倒したナルシャは疑問をそのまま悠斗へぶつける。
「風が通っているということは、通路の先に道があるということ。つまり、この温かい熱風が通っている方向へ進んでいけば先へ進めるんじゃないかなって」
「さすがお兄ちゃん!」
悠斗の閃きに過剰反応するナルシャ。
彼女に褒められたことで、鼻を高くした悠斗を見ては呆れるふじことリーエル。
二人の視線が目に刺さり、悠斗はリーエルへお伺いを立てる様に声をかける。
「って思ったんだけどさ、リーエル先生はどう思います?」
溜息をつくものの、悠斗の迷推理はあながち間違ってはいないのではと考えたリーエル。
「うむ、可能性はあるの……それに」
「それに?」
「ここは火の大精霊のやつが封印されておるのじゃろ? じゃったらこの熱風自体があやつのメッセージかもしれぬの」
「メッセージ?」
「うぬ。封印されておるということは、あやつは自力で脱出できないのじゃろ。じゃからこうして力を漏らして誰か助けを呼ぼうとしている可能性はあるの……」
リーエルは小さい声で「まあそんなに頭が閃くやつではなかったはずじゃがの……」とつぶやいたのだが、悠斗は既に聞いていなかった。
「よし、さっそく行ってみようぜ!」
「まっここで立ち止まっても仕方ないからの……」
そう言って熱風が来ている方向を頼りに十字路を進んでいくが、またしても十字路に辿り着く。
しかし、少し変化があった。
「お兄ちゃん、これ見て!」
ナルシャが悠斗の袖を引っ張った。
「ん? 何もない……あっ!」
「そう、私が付けた印がないの!」
どうやら悠斗の迷推理もあながち間違ってはいない可能性が出てきた。
今まで通った十字路には必ずナルシャがつけた目印があったからだ。
「それもこれもナルシャが印を彫ってくれたじゃの!」
「そっそんなこと……エヘヘ」
リーエルの褒め言葉に照れるナルシャ。
悠斗からは頭を撫でられ、恥ずかしそうにしているが満更でもない様子。
「んじゃこの調子で進みますか!」
「んっ!」
「うむ!」
「うん!」
元気になった一行は先へと進むことにする。
もちろんナルシャは印を彫るのを忘れず縦に二つ刻む。
こうすることで、何度目の通路なのかを記録しているのだろう。
調子よく進み、ナルシャが壁に印を彫る回数が10回目に達した時だ。
どうやら十字路を抜けることができたのか、細い通路が段々と太くなった。
幅広になった長い通路の左右にはいくつもの支柱が立っていた。
なんとなくだが、空気が変わるのを感じる悠斗。
これはリーエルがいた場所と似た空気だった。
「正解っぽいな……みんな、気を引き締めろ」
そう言ってふじこ達三姉妹が頷いたのを確認した悠斗は慎重に進むが、魔物は一匹たりとも出てこない。
そんな長い通路を進んでいくと。
「これは……」
ついにたどり着いたのか、見上げる程に巨大な扉。
そして、その扉を守護するかのように立っている石で創り上げられた巨大な石人形が守護するように仁王立ちしている。
「なんか嫌やな予感がするな……お前らはちょっと待ってろ」
そう言ってふじこ達を後ろで待たせたまま、悠斗は一人で巨大な石人形に近づいていく。
「気を付けるのじゃぞ」
リーエルの言葉に手を振ってこたえた悠斗は、警戒しながも近づいていくのだが動く気配はない。
「俺の考えすぎか?」
至近距離で見上げても、巨大な石人形は黙ったまま。
今度はペタペタと触ってみるが動く気配はない。
「はあ~なんだ、ただの見せかけか……てっきりゴーレムみたいに動くんじゃないかと思ったぜ」
悠斗は巨大な石人形に背を向けて、ふじこを呼びつけようとした。
「お~い、大丈夫だぞ!」
そういって両手を上に上げて振っているのだが、彼女たちが動く気配はない。
「あれ? 聴こえてないのかな……おーい!」
今度はさっきよりも大声を出してみる。
すると、リーエルは指を指して何かを叫んでいた。
「…………ろ」
「ん? なんだってー!」
「馬鹿者ー! 後ろを見ろ後ろー!」
リーエルの大きな焦り声が聞こえてきた。
いやな予感がした悠斗はゆっくり振り返ると、動く気配がなかった巨大な石人形はいつの間にか右手を握り、今まさにその巨大な腕を悠斗めがけて振り下ろそうとしていた。
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