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第8話 はじめてのぼうけんしゃぎるど

 商人夫婦を見送った悠斗達は冒険者ギルドへ行く事にした。


 アルマ達は依頼完了の報告をする必要があり、悠斗は冒険者ギルドで冒険者登録をしようと思っていたので丁度いい。


 場所が分からなければ、このままアルマ達に付いていけばいいと悠斗は考えたのだ。


 ふじこが疲れているだろうし、悠斗自身も疲れているので早く宿を確保して休みたいのだが、先に宿へ行ってしまうともう外に出る気が無くなるだろうと自分自身が分かっていたのだろう。


 疲れている体に鞭を打ち体を動かす。


 目指す冒険者ギルドは街の東側で東地区の中にある。


 東の方へ歩いていくと周囲の通行人も冒険者風の男女が多くなってくる。


 もう日が落ちてきているのもあり、灯りがついた酒場らしきお店がいくつも並んでる所に、一際大きな建物が見えてきた。


 一階建ての平屋が多い中、この建物だけ2階建てになっていて、二回りも大きい。 これが冒険者ギルドの建物だ。


 建物自体は大きいが、幾度となく拡張工事が行われたのだろう形跡が見られる。


 王都にいる多くの冒険者を処理するのに必要に応じて拡張していったのだろう。


「すげぇーおっきいな」


 「なっ?」と手を繋いでるふじこに同意を促すのだが、無表情で悠斗の顔を見つめるだけだ。


「ほらっこんな所にじっとしてないで、早く入りましょ」


「あっすまんすまん」


 アルマに平謝りしながら前を歩く3人に付いていく悠斗とふじこ。


 しかしアルマ達は扉の前でピタッと歩みを止めて悠斗に振り返る。


「ん、どうした?」


「私達から離れないでね」


「おっおう……」


 「急にどうしたんだろうな?」とふじこと顔を見合わせる悠斗。


 アルマ達の言う通り離れずに付いていく。


 ドアを潜ると沢山の冒険者が話しており騒がしい。 周りの冒険者達は視線がアルマ達に集まり、その後後ろについて歩く悠斗とふじこに移っていく。 移っていくにつて次第にやかましかった声は静まり返った。


 静まり返るのも無理はない。 『戦場の戦乙女』はみな美人な為注目の的である。 そんな乙女達が男を後ろに連れて歩いてるのだ。


 しかもこの辺では見かけない風貌をしており、さらに子連れと来れば注目せざるを得ない。


 そんな事も露知らず何故急に静かになったのか、自分が何故注目されているのか分からない悠斗は少しビクビクしながらもしっかりとした足取りで付いていく。


 これがまさかラノベでよくある冒険者に絡まれるイベントの伏線か? などと悠斗は馬鹿な事を考えているが、口にはしない。


 周囲の視線を無視しながら歩いていくと、受付に到着する。


 受付には受付嬢らしき女性達ずらりと並び、絶え間なくやってくる冒険者達の応対をしている。


 どの受付嬢にも列ができていたのだが、一つだけ誰も並んでいない所があった。


 受付の端で暇そうに顎へ手を当てているおっさんがいる。


 綺麗な女性達が並んでいる中で完全に浮いているのだが、構わずアルマ達はおっさんの所へ向かう。


 もちろん誰もいないので並ぶ必要がない。


「クルヴィスさん、只今戻りました」


 クルヴィスと呼ばれた男はひげを生やしており、頭部はスキンヘッドでツルツル。


 体はガッチリしており現役冒険者にも負けていない。


 目だけで射殺しそうな風貌をしており、悠斗は内心『ヤクザかよ……』と思いビビっていた。


「おう、お前らか。 その様子だと無事に依頼は達成できたみたいだな」


「当たり前じゃないですか。 私達は『戦場の戦乙女』ですよ」


「駆け出しのヒヨッコ共の癖に生意気言いやがって」


 とは言うものの、クルヴィスは何だか若干嬉しそうである。


「これで私達もついに……」


「おう、めでたくGランクに昇格だ」


「「「やったーー!」」」


 歳相応にはしゃぐ乙女達。 それも仕方がない、彼女達はこれでも16~18歳の少女なのだ。


「これからお前らは駆け出しではない立派な冒険者だ。 先輩冒険者として恥を晒す様な真似はするんじゃねぇぞ」


「はい!」


「それで……後ろにいる子連れのお前はなんだ。 ここは冒険者ギルドであって孤児院じゃねぇぞ。 冷やかしなら今すぐ消えろ」


 クルヴィスはドスの利いた声で悠斗に語りかける。


 珍しくビビらずに、悠斗は決意をした目でクルヴィスに声をかける。


「始めまして、俺は悠斗って言います。 それでこっちの小さいのがふじこです」


 ふじこは無表情で見つめるままクレヴィスに何も話さない。


 変化が無いふじこを見て、クレヴィスは悠斗に顔を向けた。


「俺はこの王都でギルドマスターをしているクレヴィスだ。 それで子連れの悠斗さんが俺に何の用だ?」


「俺……俺、冒険者になりたいんです!」


「あ? 冒険者になりたいんですって聞こえたんだが、もう1回言ってくれるか?」


「俺、冒険者になりたいんです!」


 ギルド内が静かなにもあり、悠斗の声が響き渡る。


 誰から笑いだしたのか、静まり返っていた室内はクスクスとした笑い声が徐々に大きくなっていき、『ギャハハハハ!』とした下品な笑い声に包まれる。


 中にはこの空気に嫌気がさして出ていった者や、憐憫の表情をした者に悠斗へ軽蔑の視線を向けた者さえいる。


 しかしそれらは少数で大半は悠斗を馬鹿にしている者がほとんどだ。


「こっ子連れで冒険者って……腹が捩れる……」


「ヒーやめてくれ! 俺を笑い殺さないでくれ!」


「『冒険者になりたいんです!』だってよ! ガハハハハハハハ」


 益々増えていく冒険者達の馬鹿にした声に流石の悠斗も――キレた。


「うるせぇぇぇぇぇぇぇ! 冒険者になって何が悪い! お前らなんてすぐに追い抜いてやる!」


「何だってぇ……てめぇ……!」


 悠斗の発言にそれだけは看過できなかったのか売り言葉に買い言葉、一触即発の空気が流れる。


 もちろんケンカになると悠斗がボコボコになるのは目に見えてるのだが、それでも引けない時が男にはある。


 周囲の冒険者対悠斗……このままではギルド内が荒れる――事にはならなかった。


 一触即発の空気が流れる中『ドン!』と地鳴りでもしたかのような大きい音がなる。


 冒険者も悠斗も、そしてアルマ達もみんな音が鳴った方へ顔を向ける。


 悠斗達が顔を向けた先は、今にも破裂するのではないかと思うぐらい血管を浮かび上がらせたスキンヘッドの大男クレヴィスが睨んでいた。


「おい馬鹿共……そんなにケンカしてぇなら、俺が買ってやるからこっちへ来い」


「あっ俺明日早いんだったわ……」


「よし、飲みに行こうぜ~」


「うっ今日の冒険でやられたこの傷が疼く……」


「お前それ1年以上前の古傷じゃねぇか」


「ばっかやろう黙ってろ、いくぞ!」


 あんなに騒がしくしていた冒険者達は何かと理由をつけてギルドから出ていった。

冒険者という者は、危険を察知するのが生き残る基本なのです。




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