第85話 ゾンビーズ
うちの娘は世界最強。
そう思っていた悠斗であったが、ふじこにも弱点はあった。
「はあ……仕方ないか。ナルシャ・うさこ、ふじこを頼んだぞ」
「うん! 任せて!」
『きゅ~!』
「じゃあやるぞ、リーエル」
「うむ、任せよ!」
悠斗はナルシャにふじこを任せ、リーエルと一緒にゾンビと戦うことに決めた。
「数が多いな……リーエル!」
「分かっとるわい」
ゾンビの数は多く、悠斗1人だったら苦戦は強いられ、劣勢は確実であった。
しかし、リーエルが後方から援護をすることにより、戦況は悠斗が優勢になる。
「うらぁ!」
ゾンビは頭を潰せばいい。
何となくゾンビを扱った媒体からのイメージから頭を叩き割った。
頭を叩き割れたゾンビは、悠斗の想像通りそのまま崩れて倒れていく。
もちろん動く気配はない。
残るのは頭を潰した時の感触だけだ。
ゾンビ映画とかに登場するゾンビは、動きが遅くてノロノロ歩いている。
彼らに意思はなく、ただ生者を喰らうだけの存在。
映画のキャラクター達は心臓だったり肩だったりを攻撃するのだが、当然死ぬこともなくそのまま食べられてしまう。
最近は動きがかなり早いものまであるが、共通して頭を潰せば終わる。
幸いにも、悠斗達が相手をしているゾンビは動きが遅く、余裕のある戦いができていた。
何でいつも頭を狙わないんだろ……と思っていた悠斗は、ここに来て現代知識がついに役に立った! と余計なことを考えるぐらいには余裕がある。
対してゾンビ達は、正面から斬りつけている悠斗を目掛けて左右から襲いかかろうとするのだが、悠斗は避ける素振りを見せることはない。
といっても、ゾンビ達が挟み撃ちしてやろう! とか考えたわけでもなく偶然だし、その証拠に隙だらけだった。
そんな隙きを突いて大精霊であるリーエルは。
「甘いわい」
ふじこから供給された魔力を頼りにみずてっぽうを放つ。
みずてっぽうは狙いを外さず、正確にゾンビの頭を撃ち抜く。
悠斗はこうなることが分かっていた。
だからこそ自分の背中をリーエルに預けているのだろう。
アルマ達がいない穴は、相棒であるリーエルが埋めていた。
これはふじこにはできない契約精霊だからこその役割。
念の為に言っておくが、決してふじこが何もできないというわけではない。
悠斗の背中は精霊が、悠斗の隣で彼と一緒に戦えるのはふじこだけだろう。
彼らのコンビネーションにより、頭を潰されたゾンビ達は次々に倒れていく。
「よしっ狙い通り!」
しかし、ゾンビもやられっぱなしというわけではない。
人ではなくなり痛みを感じなくなったからなのか、自身の体がどんな状態になろうとも動き続け、リミッターを外した乱暴な攻撃はもの凄く威力があり、まともに喰らえばただでは済まない。
ゾンビの腕から振るわれる薙ぎ払いは、空気を斬り裂きながら音を鳴らして悠斗の体目掛けて迫っていく。
しかし、どうしても始動までもモーションが遅く、そこを意識すれば避けることは造作もない。
タイミングよく一歩下がって避けては、次の攻撃が来る前に頭を攻撃する。
通常の魔物であれば、仲間がやられると何かしら学習して対応してくるだろう。
しかし、ゾンビは魔物とはいえ死体。
既に死んでいるため学習することもなく、ただただ生者を同じ沼へ引きずり下ろす様に迫るだけだ。
悠斗の攻撃とリーエルのみずてっぽうで、的確に数を減らしていくゾンビ達。
「これならいくらいても楽勝だな」
悠斗が余裕を見せていたその時。
「悠斗、下がるのじゃ!」
リーエルが慌てて声をかける。
ゾンビはのけぞると、その姿勢を戻すと同時に口から何かを吐き出した。
「うおっ!?」
左腕につけられている小盾を構えながら下がる悠斗。
リーエルおかげで、何とかギリギリ避けることに成功したようだ。
小盾はゾンビの口から吐き出た何かが微かに付着したのか、何かの金属が溶けた時のような臭いを出す。
「腐食液かよ!」
小盾を見ると、ゾンビの口から出た腐食液がかかった所は少しだけ溶けていた。
「例え相手が弱いと思っても油断はするでない」
「悪い助かった……」
これは悠斗の師匠であるハインにも指摘されている悠斗の悪癖。
リーエルのお陰で無事に済んだとはいえ、一歩間違えれば危なかった。
悠斗は反省しつつ、気を引き締め直す。
ゾンビの攻撃を油断なく警戒しながらも、的確に頭を潰して数を減らしていく。
気を引き締めること数分後。
「これで終わりだ!」
最後の1体であるゾンビの頭を潰した悠斗。
「ふう……なんとかなったな」
一息ついた悠斗は剣を納めるとふじこ達を見る。
「怪我はないか?」
「それはこっちのセリフだよお兄ちゃん!」
「んっ!」
ナルシャもふじこも怒っているようで、先程の油断を指摘しているようだ。
「反省します……」
冒険者は油断した者から死んでいく。
だからこそナルシャもふじこも怒っているのだろう。
ホーンラビットのうさこにまでポコポコとタックルされている。
2人と1匹に怒られた悠斗を見て、リーエルは『これで少しは気を引き締め直すじゃろう』と考え、これ以上悠斗を攻めることはしなかった。
戦闘中にリーエル、そして戦闘後にナルシャとふじこに散々怒られた悠斗は、予想通り気を引き締め直して進むことにする。
度々出てくるゾンビを倒しつつも遺跡の奥へ進んでいくと、少し開けた部屋に出た。
周囲には複数の棺が並んでおり、少し空気が一変する。
「何だこの部屋……」
棺を通り過ぎ、部屋の真ん中まで進む悠斗達。
彼らを囲むように棺が並んでいる。
「何だか不気味だな……んっどうした?」
リーエルが下を見て顔を上げないことに不思議に思った悠斗は声をかける。
壊れたおもちゃのように顔を上げたリーエルは、ゆっくりと笑顔になっては。
「怒らずに聞いてくれるか?」
何かをやらかした子供の言い訳みたいな前置きをするリーエル。
「内容によるな……ほらっ言ってみろ」
「罠を……罠を踏んでしまったようじゃ……………………テヘッ☆」
リーエルの言葉が合図になったかのようなタイミングで、周囲にある棺が独りでに開いた。