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第83話 フーゴとアブラ

悠斗達の活躍により、無事アブラを退けることに成功する。


「たっ……助かったのか?」


 村人の誰かがそう言うと、沈黙は段々歓喜の声に包まれる。


 各々が喜び合う中、ナルシャは。


「もう……誰も連れて行かれないの?」


 ナルシャがそう言うと、フーゴは優しく抱きつく。


「もう……大丈夫じゃ」


フーゴが抱きしめた瞬間、彼女の心の中で何かが決壊したのだろう。


 彼女の瞳から涙が流れ、フーゴの胸を濡らしていく。


 ただ撤退しただけで、またアブラ達は来るかもしれない。


 それでも、この集落で誰も奴隷として連れ去られることがない日はこれまでなかった。


「今日はお祭りになるだろうな」


 その予感が的中するかのように、余所余所しかったウィクタムの人々は歓迎するかのように、悠斗達を集落の中へと招き入れた。


 集落の人間総出でお祭りの準備に明け暮れたその日の夜。


 集落の中はお祭り騒ぎだ。


 ふじこはナルシャや集落の子供たちに囲まれて、リーエルは集落中に水を配りまくったため、精霊様! と崇められている。


 そんな中悠斗は主賓席に座らされてフーゴと一緒にお酒を飲んでいた。


「うう……なんで俺だけ……」


「ほれっユート。カップが空になっておるぞ」


 空になったカップへまた並々と注がれる。


「さて、ユートは何か理由があってこの集落に来たのじゃろ?」


「あれっナルシャから聞いた?」


「ほっほ。聞かなくてもわかるとも。この集落の存在を知っておる者はそんなにおらぬし、それに知っていたとして――何もないからの……」


 フーゴはカップにわずか入っていたお酒を一気飲みすると、床に置いて悠斗に向き合う。


「――そうじゃな。この老いぼれが予想するに、火の大精霊様にお会いしたい……違うかの?」


 フーゴ爺さんの予想聞いて驚く悠斗。


「そんなに驚かんでも、ナルシャが話したんじゃろ」


 そう言って集落の子供たちに囲まれているナルシャを見て笑顔になるフーゴ。


「どうせ宮殿に行ったが、火の大精霊様の偽物に出くわした……そうじゃろ?」


「何でそこまで分かったんだよ!? まさか俺の考えてることが分かるような特殊な能力を持ってたり!?」


「ほほ。そんなわけないじゃろ。実はじゃな……」


 何かを考えたフーゴは、少し昔を思い出すような目をして、賑やかな集落を見る。


「少し……この老いぼれの昔話を聞いてくれんか」


 そう言って昔を懐かしむように語りだすフーゴ。







 当時、まだサウガダナン王国と呼ばれていた頃のことじゃ。


 スラム街で共に育ったわしとアブラは、言ってしまえば腐れ縁である。


 当時、やんちゃ坊主であったわしに対して、アブラやわしとは正反対に優しく笑顔の絶えない男であった。


 スラムにいたあの頃は、(まつりごと)へ関わることになるなんて考えもしなかったわい。


 他国ではありえないが、サウガダナンという国は少し特殊で、王政であるにも関わらず実力主義の国。


 貴族であろうが一般市民であろうと、例えスラムの住人であったとしても優秀な者はみな平等に国政へ関わることができたとされたのじゃ。


 そんなことができたのも、火の大精霊様がいらした為であろう。


 大精霊様は皆に優しいが、差別だけは許さぬ心優しい御方じゃった。


 あの方のおかげで、砂漠のど真ん中でも成り立ったと言える。


 貴族だろうがスラムの住人だろうが、大精霊様から見れば皆同じじゃからの。


 そんなとある日、どこでわし達に目を付けたのか今となってはわからぬが、運がよかったのだろう。


 王家の方々に拾っていただき、スラム街での生活から一転したのじゃ。


 最初は雑用係として仕え、そこから努力を重ねていく日々を送っていた。


 そんな日々を重ねていくと、いつの間にか(まつりごと)にまで関わることとなったのじゃ。


 もちろんわし達のことを嫌う者は多くいただろう。


 いや、嫌う者ばかりであった。


 そして、そんなわしらをよく思う貴族なぞおるわけがない。


 火の大精霊様がずっとわしらをずっと見ておられるわけがなく、見えない所で色々とされた。


 挫けそうな時もありはしたが、なんとか耐えて二人で支え合っていた。


 もちろんそれは拾ってくれた恩に報いるため。


 じゃから辛い日々であったが、充実した日々でもあった。


 そして時が経つにつれ、わしは王家のお子様がたの世話役として、アブラは精霊様と貴族の仲介役として務めていたある日のこと。


 アブラは同僚であるサーシャと呼ばれる女性と所帯持つこととなったらしい。


 その頃になると、わしとアブラが会う機会はめっきり減っており、いつしか疎遠になっておった。


 そんなある日のことじゃ。


 風の便りでアブラの妻であったサーシャという女性が突然亡くなったと知ったわしは、あやつの様子を見に行った時のことじゃ。


 真っ暗な部屋で死んだように座っている男。


 その表情からは生気をなくして、昔から見ていた優しさや笑顔もないただの抜け殻のような男になっていたのじゃ。


 それからというものじゃ、王国内で見知らぬ異国の人間が増えてきたのは。


 いつの間にか火の大精霊様がお隠れになった頃事件はおきたのじゃ。


 燃え盛る宮殿。


 死体の山と押し寄せる民衆に他国らしき武装した兵。


 血の海に横たわる王家の方々と謎の獣。


 そして……。


 血塗られた剣を手に持つアブラの姿。


 微かに息があったのだろう、王妃は胸に抱いた小さな子供。


 その子をわしに向けて。


「フーゴ……どうか、この子達を……」


 この言葉を最後に息を引き取っていった王妃のお姿。


「アブラ……なぜ…………なぜだぁ!」


 怒りがこみ上げるわしであったが、託された王家の赤子の顔を見て、生き残っている者達を連れ逃げ延びた。







「それからさらに数十年経ち、今に至るというわけじゃな……」


 フーゴは悠斗の哀しそうな顔を見て。


「なぜアブラのやつ王家から受けた恩を忘れて裏切ったのかは今でもわからぬ」


 フーゴはジェドの街がある方角の夜空を見て。


「もうあの頃を覚えておるのはわしぐらいしかこの集落にはおらぬ。怒りを忘れてはおらぬが、もうわしは疲れた……」


 悠斗は、微かにフーゴの頬から流れる雫を目にする。


「さて、少し脱線してしもうたの。火の大精霊様の存在を感じる謎の階段じゃったな……おそらくそこは火の大精霊様が封印されておる場所じゃろう」


「大精霊を封印?」


 そんなことが可能なのか? と上機嫌なリーエルを見る悠斗。


「うむ。なぜ、どうやってかは分からぬが、どうやらアブラが仕掛けたらしいと聞いたことがある。方法は分からぬがの……」


「封印か……困ったな……」


 リーエルみたいに、どこかにいるのであれば会いに行くことができたのだが、封印されているならば別だ。


「実は封印されておる場所に通じている所は宮殿以外にも別にあっての……しかし問題があってな」


「問題って?」


「魔物がわんさかおるからわしらには封印を解くどころか、近づくことすらできぬのじゃ……ここで一つユート殿に頼みがある」


「頼み?」


 フーゴは頭を地面つけながら悠斗に話す。


「恩人に向かって図々しいことは百も承知じゃが、危険を承知で頼む。火の大精霊様を解放してやってくれぬか」


 頭を地面につけて頼み込むフーゴを見て慌てる悠斗。


「フーゴ爺さん、頭を上げてくれよ!」


 フーゴの顔を上げさせた悠斗は。


「フーゴ爺さんが頼まなくても解放するさ! ……つってもできるかはリーエル次第だと思うんだけどな。それに一応精霊の契約者だし」


「……ありがとう……ありがとう」


 そう言って笑う悠斗の手を両手で掴みながら、感謝を言葉を述べるフーゴ。


 こうして、お祭り騒ぎが過ぎた次の日、馬車に乗った悠斗とふじこ・リーエルの3人は、ジェドの街を迂回して東の方へ疾走らせる。


 そこは、火の大精霊が封印されている場所に通じると言われる名を『イグニスケーラ遺跡』。


 火の大精霊を封印から解放するため、悠斗たちは動き出した。

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