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第81話 お呼びでない者達

 リーエルのカミングアウト。


 正しくは「あれ? わし、何かやっちゃいましたか?」と言わんばかりのドヤ顔を決めており、ニヤニヤした笑顔が隠せていない。


 長い年月を地下で寂しく過ごすと、精霊といえどもああなってしまうのか……と考える悠斗。


「時間というものは、時に残酷だよな……」


 そんな悠斗の小さなツッコミも、今や彼女の耳には入ってこない。


 しかし。


「あはは。リーエルちゃんって()()()()()なんだね!」


 無垢な少女の言葉は、時として凶器にもなり得る。


 綺麗に言葉の刃がリーエルの胸に刺さったのを目撃してしまう。


「うぐぅ……! ――っとまあ信じられぬ話だと思うのじゃが、本当のことじゃし、悔しくないのじゃ……」


 そうはいいつつも、リーエルの目には涙が薄っすらと涙が垣間見えた。


 ちょうどそんな時、何やら外が騒がしくなる。


「長老様!」


 この集落に住んでいる子供だろうか、息も荒々しく、慌ててきたのだろう。


「落ち着けい。どうしたんじゃ?」


 子をあやすように、落ち着かせるフーガ。


「そっそれが……あいつらが!」


「何!?」


 村の子供が言っていた『あいつら』が何を指しているのかは悠斗達にはわからないが、フーゴはそれだけで察したのだろうか、厳しい形相をして外へ出た。


 フーゴの慌てようはただ事じゃないと思い、悠斗達も追いかける。


 集落の入り口まで追いかけると、遠くに馬車と護衛らしき人影が複数見えた。


「あれは?」


 追いついた悠斗はフーゴにそう問いかける。


「あれはおそらく……」


 そこから言葉が出てこない。


 フーゴの顔は険しく、口にするのも言い難いのだろう。


 そうこうしている内に、悠斗の肉眼でも確認できる位置まで近づいてきた。


「ん? あれは……」


 最近見たことのある風貌。


 1人はナルシャを売っていた奴隷商。


 そしてもう1人が……。


「確か……アブラさん?」


 宮殿で案内をしてくれた人物。


 しかし悠斗が彼を怒らせてしまい出禁にされたのだ。


「宮殿のいた人が、なぜ奴隷商なんかと……?」


 悠斗が考えている間に、彼らは村の入り口から少し離れた所で降りてきた。


「お久しぶりですね、フーゴさん」


「アブラ……」


 親の敵でも見るかのような深い憎しみを込めた目をしてにらみつけるフーゴ。


 それに対して笑みを浮かべたままフーゴの顔を見るアブラ。


「久しぶりにノコノコと……今更何をしに来寄った? この裏切り者がぁ!」


 今すぐにでも斬りつけようとするフーゴを、既の所で後ろから羽交い締めにして止める悠斗。


「離せぇ! 離すんじゃあユート殿ぉ!」


「ちょっと……落ち着いて……」


「ふ~……ふ~……」


 必死に止めようとしている悠斗の顔にようやく気がついたアブラは。


「あっ貴方は先日の……!?」


 そう言うと何やら考えだし、思いついたのか。


「――そう……そういうことでしたか……その者を使って最後の嫌がらせというわけですか」


「は? 何を言って……」


「言い訳は結構です。こちらがわざわざ生かしてやっているにも関わらず、恩を仇で返すとは……」


 聞く耳持たないアブラの言葉に困惑気味の悠斗だが、フーゴは余計に怒り狂っている。


 アブラの言葉がフーゴの感情に燃料を投下され、より燃え盛ってしまった。


「何が恩じゃ! 奴隷の生産牧場の間違いじゃろ! お主こそ、わしらの仲間を……家族を……そしてナルシャを奴隷として連れ去ったあの日は忘れておらんぞ!」


「……もはや言葉は不要ですね。今日をもって、我らが領土を不法占領している集落ウィクタムを潰します!」


「それはこちらのセリフじゃ! 返り討ちにしてやる!」


 もう平和的な解決は無理だなと感じた悠斗。


 後ろを見ると集落の人々はみんな何かしら武器になりそうな物を持っており、アブラの方は連れてきた護衛たちが武器を構えている。


 人数差でいえば集落側が多いが、子供や年配の方、それに戦えそうに見えない女性ばかりだ。


 対してアブラの方は重装な装備で身を包み、剣や槍といった武器を装備している。


 両者がぶつかれば、どちらが血の海を見るのかは明らかだ。


 一気に緊張度が増した中、両者に水を浴びせようと突然水が降ってきた。


 外は快晴で雲ひとつなく、雨が降る気配もなかったはずなのだが。


 そう不思議に思った悠斗は空を見上げると、雨ではない。


 見たことある大きな水玉が鎮座していた。


「少しは頭が冷えたかの?」


 まだ少し幼い声……しかし、どこか年老いた喋り方。


 声のある方向を向くと、やはりリーエルだった。


 彼女は悪びれた顔もせず、ニヤリと笑って。


「燃えた火を消化するには水が一番じゃろ?」


 そう言い放った。


 しかし、火は種火まで消えてはいなかった。


「また貴方ですか……やはり貴方が邪魔をしますか」


 そう言ったアブラの睨みつける目はフーゴではなく、悠斗に向いていた。


「いや、俺じゃな……いや――」


 否定をしようと思ったが、途中で辞め、真剣な目をしてアブラに向かい合う悠斗。


「このまま戦ったらどっちが血の海を見るかってのは分かるでしょ?」


 悠斗はアブラ、フーゴ両者の目を見て訴えかける。


「アブラさんとフーゴ爺さんのお互い引けない程に積もった憎しみがどこまであるのかは部外者の俺には計り知れない……それでもここは引いてくれませんか?」


 悠斗の言葉に冷静となった集落の人々は徐々に手を引いていく。


 フーゴも悔しそうにするのだが、悠斗の言葉をよく理解しているのだろう。


 苦虫を噛み締めつつも後ろへ下がっていく。


 しかし、アブラの方はそういかなかった。


 悠斗の言葉に目を瞑って考えはしたるのだが、目を開けてはその言葉を否定する。


「私の邪魔をする貴方が仰られますか。どこまでも壁になるのは貴方のようだ……なら!」


 悠斗はため息をつきながら、剣を抜いて構える。


「はあ……まっそうなるよな。こいつ(リーエル)が精霊で、俺がその契約者と言っても……」


「引くわけがないでしょう。戯言もここまでです」


 護衛の冒険者がアブラを守る様に前へと出てくる。


「そこの魔術を使う子供はなるべく無傷で手に入れてください」


 そう一言残して下がっていくアルバを見て、悠斗は。


「だってさ」


「わしに喧嘩を売るとはいい度胸じゃ。水の大精霊としての力を見せてやろうぞ契約者」

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