第80話 ナルシャのお願い
フーゴの家にお邪魔した次の日、ナルシャはお願いがあるということで、話を聞くことにした悠斗。
「えっとね、実はふじこちゃんとリーエルちゃんにお願いがあって……」
そう言って頼ろうとしたのは悠斗ではなくリーエルとふじこ。
頼られるのは自分だと思っていた悠斗は驚いて、ナルシャとリーエル・ふじこの3人を二度見する。
「うむ。なんでも言ってみるのじゃ!」
「んっ」
頼られたことによりドヤ顔となったリーエルは天狗になっているようだ。
ふじこの顔はいつもどおりと思いきや、彼女と一番長くいる悠斗にとっては『まかせて!』と言わんばかりの自信満々な顔になっていると考えた。
その予想は大当たりで、頼られることがあまりないふじこにとっては珍しい出来事。
小さな鼻の穴がフンス! フンス! といつもより鼻息が激しい。
悠斗は目を細めて『こいつら調子に乗ってるな……』と思いつつも、ツッコムと話が前に進まないため、黙ってナルシャの相談を聞くことにした。
「えっとね、リーエルちゃんとふじこちゃんってお水出せるでしょ? だから、この村にオアシスみたいなの作れないかな? って……」
ナルシャのお願いは、この村に水が欲しいということだった。
村とも呼べない集落ウィクタムの近くにはオアシスも池などもない。
元々砂漠地帯であるためなのか、あまり雨が降らない。
だからといってオアシスは貴重で、それらの多くはすでにサウガダナン商業連合共和国に抑えられている。
じゃあサウガダナンの首都であるジェドに移り住む……ということは、とある理由によりできない。
そのため、この集落が生きるための食料や水の多くは支援という形で成り立っていた。
表向きはサウガダナン商業連合共和国が支援するという形になっているのだが、実際はそれら支援の代わりに村の働き手である人間を奴隷として連れ去られている背景があった。
サウガダナン商業連合共和国は、この集落であるウィクタムが滅びないように、最低限の食料や水を供給し、人が増えたら奴隷として連れ去ってく。
抵抗されるのは面倒なため、率先して男手は優先して奴隷として連れ去り、抵抗するようであれば支援を打ち切ると脅す。
支援を打ち切られては集落の存続は難しい。
仮に打ち切ったとして、食料はなんとかなるとしても水の確保ができない。
オアシスは抑えられており、手に入れるには金で買うしかない。
それも、サウガダナン商業連合共和国が売らないと決めれば集落側に打つ手がないのだ。
女子供で他国に逃げようにも、水がないので難しい。
仮に確保できたとしても、女子供で魔物が蔓延る砂漠を超えるには自殺行為だ。
だからこそサウガダナン商業連合共和国死なない様に管理しており、彼らにとってウィクタムは人間牧場。
滅びない程度に、ほんの少しの食料と水を出すだけで、他国に輸出できる奴隷を自国だけで生産できるのだ。
そんな美味いことをやめるはずがないし、仮にウィクタムの支援を打ち切ったとしても、それらがなくなるだけで、サウガダナン商業連合共和国側に痛手はない。
今回ナルシャがお願いしたいのはサウガダナン商業連合共和国からの脱却。
水さえ確保できれば、食料は自分たちでなんとか確保できれば、これ以上奴隷として連れ去られていく者達はいなくなると考えたからだ。
この集落ウィクタムはサウガダナン商業連合共和国の人間牧場。
それが続く限り、この集落に未来はない。
そんな彼女にとって、オアシスを作るというのは、この集落に未来を灯すために必要な一世一代のお願いなのだ。
悠斗から見れば、リーエルは水の大精霊。
これぐらい楽勝だろうと思っていたのだが……。
「う~む……。溜め池に水を張るぐらいならきるが、それ以上は厳しいのじゃ」
「えっ。できないのか?」
ふじこが持っている無限の魔力と水の大精霊であるリーエルの力があれば、それぐらいは可能だと思っていた悠斗は驚いた。
「うむ。正確なことを言えば、できるにはできるが、やるための許可が取れないといった感じかの」
「どうゆうこと?」
疑問に思ったナルシャに、リーエルは優しく答える。
「ここ一帯は火の大精霊が管理しておるのじゃ。そのため、それ以外の精霊が土地を改変するには許可を取らねばならぬ」
「許可……? つまりどういうことだ?」
「わかりやすく言うとじゃな。よそ者が自分の畑を勝手に耕したら怒るじゃろ? つまりはそういうことじゃ」
リーエルがわかりやすく例えたことで、納得をする悠斗。
「ってことは火の大精霊に会えば全部解決するってことか。問題はいる場所が分からないって所なんだけどな……」
「そうなんじゃよな……」
悠斗とリーエル、2人の会話の中で、ナルシャと黙って聞いていたフーゴはとある疑問が生まれた。
「リーエルちゃん。さっき精霊が土地を改変するのは……って言ってたけど……」
話の続きをフーゴが引き取るかのように話す。
「自分は精霊だと言っているように聞こえるのじゃが……」
そんな2人の困惑顔を見て、あっけらかんとしてリーエルは答える。
「うぬ。言っておらんかったか? わしは水の大精霊じゃぞ。そんでこっちが契約者じゃ」
「「ええぇぇぇぇぇぇ!!」」