第7話 盗賊バイバイようこそ王都!
「皆さん、到着しましたよ王都『アルヴェイム』に」
御者台に座っている商人の男に声をかけられた一行。
悠斗はすやすや寝ているふじこを起こさない様、静かに抱きかかえて馬車から降りる。
「おーすげー。 ここが王都か!」
見上げる程高い城壁に囲まれており、門前から王都の中を伺うことはできない。
王都の中へ入る為の扉は金属で出来ており、更にその扉を守護する守衛が配置されている。
守衛の前には順番待ちなのか冒険者らしき武装した人達や、悠斗達と同じく馬車を率いた商人達が並んでいた。
その列に並ぶこと数刻、空の色が夕焼けの様に染まっていく頃、悠斗達に順番が回ってきた。
「止まれ……とお前達か。 一応依頼書をもらえるか」
守衛の男はそう言うと、反対側にいる相方へ何か合図を出す。
その相方は内容を理解したのか、門の横にある扉の中へ入っていく。
守衛の男はアルマから依頼書を受け取って眺める。
「ふむ、確認した。 問題ないな。 そして後ろにいる縛られている奴等は盗賊だな?」
守衛の男が相方に合図したのは、縛られている盗賊達がいると見えたからだろう、応援を呼びに行かせたみたいだ。
「それで……そこの子連れの男は何者だ? この辺では見かけない顔つきと髪色をしているが」
守衛の男が怪しんでるのも仕方がない。 この王都『アルヴェイム』には平坦な顔をした黒髪の男は存在しないからだ。
「あっ俺は――」
悠斗は知恵を振り絞って渾身の言い訳を言おうとしたのだが、その声を遮るようにアルマが守衛に話しかける。
「この人は旅人らしくて、私達が盗賊に襲われている時に偶然遭遇してしまったんです。 しかもそのまま私達に加勢してくれたんです。 ですよね?」
「あっはい」
確かに悠斗は旅人(目的地不明)で、偶然にも叫び声がした所に駆けると盗賊に襲われていた。 更にふじこの活躍でアルマ達に加勢をしたのも事実である。
ただ目的地もなく彷徨っていた異世界から来た人間と言ってないだけで、嘘は言ってない。
「旅人か。 どこの国から来たんだ?」
「えっと……あ――ジパングって所から来まして……ははは」
「ジパング……聞いた事ないな」
「海を渡ったそのさらに先にあるちっぽけな島国ですよ」
この世界にジパングという国があるのかは知らないが、たしかに悠斗が思い浮かべている国は小さな島国である。 嘘は言ってない。
「……ん~」
会話の声がうるさかったのか、それとも差し込む夕日の光が眩しかったのか、ふじこがもぞもぞと起きる。
キョロキョロと首を振り、最後に悠斗の顔を見てコテンと首をかしげる。
「おっふじこ起きたのか。 自分の足で歩けるな?」
悠斗はそう言いながら抱いていたふじこを地面に降ろした。
「それで……この子を……妹をそろそろ休ませたいのですが、俺達は入場できますか?」
「あぁ構わないぞ。 一応鞄の中を調べさせてくれるか」
守衛の言う通りに鞄の中を空けて見せた。 鞄の中は『創造神トゥリアナ』の言った通り、日持ちする食料や旅に必要な道具が入っている。 まだきちんと鞄の中を見たことない悠斗は空けてから若干焦ったのだが、怪しい物は入ってないようで内心『ほっ……』と安心した。
「よし、問題ないな。 入場料は銀貨2枚だが……金はあるのか?」
悠斗は腰につけていた袋から銀貨を2枚取り出した。
「え~とこれかな?」
「確かに。 すまないな、ここは王都だから所属が不明な者には通行料をとっているんだ。 一応ここで冒険者になり、7日以内に何か依頼を達成すれば入場料は返ってくるし、今後は入場料が不要だ」
「もし冒険者にならなかったら?」
「もちろん毎回入場料をいただく事になる。 なので暫くこの国に滞在するというのなら、冒険者になるのがオススメだ」
この『異世界アストレア』では世界中の国と街に冒険者ギルドが存在する。 冒険者ギルドでは所属した者の名前や依頼の達成率に違反率はたまたステータスやスキルまで情報としてランク証に記録され、全てのギルドが共有している。
そのため設立時からどの国にも属していない第三機関故に信頼度が高く、ランク証が各国間での身分証の代わりとして現在は扱われているのだ。
「なるほど……ありがとうございます」
悠斗と守衛の男の会話が終わる丁度いい所に、応援を呼びに行った守衛が人を引き連れて戻ってきた。
後ろに同じ様な鎧を来た数人の守衛が待機している。
「隊長、連れてきました」
「うむ、では奴等を拘束しろ」
隊長の命令で守衛達は盗賊達を拘束して連行していった。
「覚えていやがれ~!」
捨て台詞の様に盗賊の頭は言い放っていたが、彼らに待っているのは死か奴隷か鉱山送りのどれかである。
「さて盗賊の捕縛ご苦労である。 これは少ないが盗賊達を捕縛した報酬だ」
そう言って隊長と呼ばれていた守衛はアルマに報酬が入っているであろう小袋を渡した。
「それでは『戦場の戦乙女』達、これからも活躍を期待している」
話しは終わりなのか、隊長と呼ばれた守衛は道を空け「次の者!」と悠斗達の後ろに並んでいる者の対応に入った。
「それじゃ行きましょう」
アルマの声に悠斗達は王都の中へ入っていく。
「うぉ~すげー人がいっぱいだし街並みも……くぅぅぅぅ!」
王都の街並みは現実世界の日本と比べると高層ビルが建っているわけもなく、精々2階建て程度。 現代地球よりも文明が低いのが分かるが、それでもファンタジーゲームの様な街並みをしているのを見て悠斗は感動した。
街並みには買い物をしている人々や冒険者らしき人々、数は少ないがエルフやドワーフに獣人といった亜人も見受けられる。
「すごいな?」とふじこの方へ顔を向けるが、そのふじこは両手を広げてバンザイのポーズをしている。 どうやら抱っこの要求をしているようだ。
悠斗は「はぁ~仕方ねぇな……」と溜め息を尽きながらふじこを抱き上げると首元に座らせた。
「どうだ、高いだろ?」としたり顔をしながらふじこに声をかける。
ふじこはあいも変わらず無表情なのだが、若干苛ついたのか悠斗の髪を両手で握って遊びだす。
「いてっいてててて! こら、俺の髪は操縦桿じゃねぇぞ」
そんな悠斗とふじこのやり取りを眺めて笑いながら進む『戦場の戦乙女』達と商人夫婦。
歩いていくと大きな噴水の前に着いた。
王都は4つの区画に分かれており、王都を入って真っ直ぐ歩くとこの噴水にたどり着く。 この噴水を中央として北区・西区・東区・南区に区画が分かれている。
悠斗達は噴水の前にたどり着くと商人夫婦に声をかけられた。
「『戦場の戦乙女』の皆様、今回は本当にありがとうございました。 盗賊と出会った時は駄目かと思いましたが、さすが信頼度の高い冒険者の皆様です。 こちらが今回の依頼の木札になります」
「ありがとうございます。 こちらこそ無事に依頼を達成できて良かったです。 そして盗賊達に襲われた時はすみませんでした」
「いえいえ! 貴方達が悪いわけじゃないですよ。 人から奪おうとする盗賊達が悪いのですから。 なによりもレイ様はうちの家内を助けてくれましたし」
「……当然の事をしたまで」
褒められ慣れてないのか、若干頬を朱く染めるレイ。
「そしてなによりも悠斗様とふじこちゃん、お二方と出会わなければ私達はもしかしたら死んでいたかもしれません、家内も私も無事だったのは神の思し召しでしょう、本当にありがとうございます」
「いやいや、俺達は本当なにもしてないですから!」
「そんな事はありません。 悠斗様とふじこちゃんが盗賊達の気を引いてくれましたから『戦場の戦乙女』の皆様も虚を突く事ができたのだと思います。 こちら大したものではありませんが、お礼にお受取りください」
商人の男はそう言って青色の液体の入った瓶を3本を悠斗に、ふじこには可愛いくまのぬいぐるみを差し出した。
「これは?」
「ポーションの原液です」
悠斗が知らないのも無理はない。 これはポーションと言った飲み物で、傷を瞬時に回復してくれる効果がある。 しかもこれはポーションの原液だ。
ポーションの原液はそのまま使えば中級ポーション程の回復量があり、こいつを薄めて作られたものが下級ポーションになる。
ポーションは割と高く、特に原液となるとそれなりの価格がするので、駆け出しやランクの低い冒険者には頻繁に買えない。 その為この原液の半値以下で売られている下級ポーションを買っているのだ。
「えぇ、いいんですよ。 妹さんと2人で旅をするとなると怪我をする事があるかもしれません。 少しでも悠斗様とふじこちゃんの旅の助けになればなと」
「それでは遠慮なくいただきますね。 ありがとうございます。 ほら、ふじこもお礼言って」
既に悠斗の肩車から降りたふじこは、貰ったくまのぬいぐるみを両手で抱きながら夫人にギュと抱きついた。
これがふじこにとってのお礼の表現なのだろう、商人夫婦もニコニコだ。 『戦場の戦乙女』のみんなも笑顔で、レイに至っては顔が崩れていて、世間にお見せできない顔をしている。
「はい、こちらこそありがとうございます。 それでは皆さん、私達はこれで。 何かありましたら西区にある私達のお店にいらしてください。 サービスさせていただきます」
「それでは」と馬車を引き連れて去っていく商人夫婦。
「ふじこちゃん可愛かったな……俺達もそろそろ……」と呟きながら歩いてる商人夫婦。
ナニガとは言わないが、彼ら夫婦は今夜色々と盛り上がるのだろう……。
商人夫婦が一体ナニをするのか、私気になります。
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