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第75話 お前出禁だから

「えっ。火の大精霊だろ?」


 リーエルの言葉に驚く悠斗。


「あんなケモケモしい大精霊がいてたまるかい!」


「でも、ここの人達は火の大精霊って……どういうことだ?」


「わからぬ……が、まったくの無駄足というわけでもないのじゃ」


「というと?」


「あのケモケモからは大精霊の力と魔力を感じるのじゃ。お主に分かりやすく言うならば、リヴァイアサンと近い存在みたいな感じかの……」


「ってことはアレが召喚獣ってことか?」


「そうではない、あくまで()()というわけであって、おそらくあれは召喚獣ではないのじゃ」


「どういうことだよ」


「分かりやすく言うとじゃな……」


 そう言ってリーエルは説明を始めた。


 召喚獣とは『異界』と呼ばれる別世界にいる獣。


 魔力を通じて、異界の獣と契約をすることで、初めて召喚が可能となるシステムだ。


 契約した獣は召喚者の魔力を通じてこの世界に呼び出されるが、実態がそのまま召喚されるわけではない。


 そもそも別の世界から別の世界へ召喚させるという超常的な力は、さすがに大精霊であっても難しい。


 それが力のない存在であれば可能かもしれないが、リヴァイアサンといった強力な力を持つ存在をそのまま召喚するなど不可能なのだ。


 もし可能な者がいるのであれば、それは神かそれに近しい存在だろう。


 では召喚獣とは一体何なのか。


 結論を言えば、仮初の体に異界の獣を降ろした存在だ。


 仮初の体は魔力だけで構成される。


 マリーディア事件の時、悠斗達はリヴァイアサンを倒したのにも関わらず、生きていたのはそういうことだ。


 仮初の体を失ったとしても、それは魔力の器がなくなっただけで死んだわけでない。


 また仮初の体を生成するか、再召喚すれば済むのだが、普通の人間や他種族では魔力が足りなくて不可能だ。


 魔力が高いとされている種族はエルフやその上位存在であるハイエルフ、他にも妖精族が存在するが、それでも魔力が足りず、その一生を捧げても実行は不可能。


 可能だとしても、一度の召喚が限界で、再召喚は魔力が戻るまで数日はかかるだろう。


 それが赤子の手をひねるように何度も可能な存在が、この世界にいる大精霊達というわけだ。


 今目の前にいるケモケモ(命名リーエル)はそれに()()とされている。


 あくまで近いというだけであって、リーエル曰く言ってしまえば人工的な召喚獣みたいなものということだ。


「悠斗よ、わかったかの?」


「……つまりはパチもんことだろ?」


「まっまあええわい」


 頬をピクピクさせて苦笑いをするリーエルだったが、理解をさせることは諦めた。


 当然ながらこの会話はコソコソ話していたわけではないので、静かな部屋に悠斗とリーエルの声が響く。


「…………………………さすがにアーヴァイン家の客人様であったとしても、これ以上の狼藉は到底許されるとお思いではありませんよね?」


 悠斗達をここまで案内したアブラは、額をピクピクさせていて、今にも飛びかかりそうな所を我慢していた。


「いや、あのですね……実はこいつはリーエルと言って水の大精霊で……」


「何わけのわからない事を言ってるんですか! 先程からケモケモだとかパチもんだとか失礼にも程があります!」


 アブラの言葉に呼応するように、ケモケモも叫び声をあげる。


「グルォォォォォォォン!」


「火の大精霊様! この者達が申し訳ありません!」


 そう言って、アブラは火の大精霊……もといケモケモの元へと向かうと、土下座をする。


 土下座をしたまま顔を上げると、悠斗たちの方へ向いて声を荒らげる。


「おい、この失礼な者達をここから追い出せ!」


 部屋の扉に控えていた屈強な兵たちが現れると、悠斗達をつまみだして追い出してしまう。


 つまみ出された悠斗は地面へ仰向けに倒れ、その上にリーエルとふじこが乗っかってきた。


「ぐえぇぇぇぇ!」


「何じゃその声は! わしらなぞ綿毛の様に軽いのに……失礼なやつじゃの。のう、ふじこ」


「んっ」


「んなわけあるか! ……ってこんなことしてる場合じゃねえな」


 悠斗が扉を見るが、絶対に入らせないとばかりに武装をした屈強な兵は「ふんぬっ!」と筋肉を見せつけて威嚇している。


「まあ、確かに失礼だったな……捕まらなかっただけでもありがたいか」


 悠斗は「帰るか」と言って進んだ通路とは逆の道を辿っていく。


 3人の足音が響く中、なぜか2人分の足音が遠のいていくことに気がつく悠斗。


 いつの間にかふじことリーエルが見当たらず、幼女達は別の道を勝手に歩いていた。


 すぐさま走って追いかける悠斗は。


「こらこらっ。勝手に俺から離れちゃ駄目だろ」


 悠斗が叱ろうとするのだが、リーエルは。


「こっちから、かすかに火の大精霊の存在を感じるのじゃ」


 そう言って歩みを止めないふじことリーエル。


「待て待て待て!」


 悠斗も慌てて追いかける。


 これがただの幼女であったら止めるのだが、リーエルは幼女に見えるだけで、実際は水の大精霊。


 彼女が言うなら、この先には本当に火の大精霊がいるかもしれない。


 元々悠斗達は火の大精霊に会うためここまで来たのだ。


 であれば、ここはリーエルの好きにさせてやろうと決めた悠斗。


 正直に言うと、悠斗自身も気になっていたのもある。


 道なりに歩いていくと、下へと降りる階段がみえてきたのだが、その階段を守るようにアブラと似た格好をした人と、さらに屈強な兵が門兵のように立ち構えていた。


 歩いてくる悠斗達を見つけると。


「ここから先は立ち入り禁止です。お引取りください」


 有無を言わさないだろう圧をヒシヒシと感じる悠斗。


 正直何言っても通してもらえないだろうな……と考え、思いついた結論は。


「あの……俺達この先に用があるんですが、通してもらったりとかできないですか?」


 とバカ正直に言ってみたが、当然。


「できません、ここから先は関係者以外立ち入りが禁止とされている区域となります」


 まだ少しだけならワンチャンあるかもしれないと思って言い訳を考えてみる。


「関係者と言えば関係者だったりするのですが……」


 大精霊繋がり……ということで、苦しすぎる言い訳をしてみたのだが。


「は? 大精霊様の関係者……。はて、どなたかのご紹介だったりするのでしょうか?」


「あ~いや、別にそういうわけじゃないのですが、なんというか……」


 咄嗟の思いつきもこのあたりで尽きて、言葉を紡げなくなる悠斗。


 それを聞いている彼は悠斗達を不審に思い険しい顔になり、明らかに怪しんでいた。


 屈強な兵も、手に持った槍の矛先を悠斗達に向けて威嚇する。


 こんなやり取りが続いている中、後方から誰かが走ってくる複数の足音が聞こえてきた。


 悠斗達の騒動を聞きつけてきたのだろう、責任者アブラが走ってきたのだ。


 アブラは悠斗達を見つけると、顔を険しくして。


「貴方はこんな所にまで!」


 親の敵でも見るかのような形相に、悠斗は慌てて。


「あっいや、俺達はまだ何も……」


 悠斗が何かを言いかけるのだが、それを遮り、取り成すこともない。


 アブラは心底焦った様な顔をして、声を荒らげる。


「言い訳は結構です! これ以上騒がれるならアルヴェイム王国側へ抗議の連絡をせざるを得ませんね!」


 そう言ったアブラは後方にいる兵たちへ指示を出す。


「お前達、この者たちをここからさっさとつまみ出せ!」


 屈強な兵達は、悠斗・ふじこ・リーエルの3人を抱き上げると、宮殿の外へと放り出した。


 宮殿の外へと放り出された悠斗たちを見たアブラは。


「二度とこちら(宮殿)には来ないでいただきたい」


 そう言って、実質出入り禁止を言い渡される悠斗達であった。

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