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第73話 ブロデリック亭

「本当に便利だよな……ふじこのポーチ。これがなかったら途中で引き返してた可能性まであるわ」


 この世界に来てから、よく考えればアルマたちのお世話になりっぱなしで、異世界特有の苦労を経験してない悠斗は世界の厳しさを痛感していた。


「日中は暑いし夜は寒い。ついでに水源が見当たらないときたもんだ」


「わしとふじこがいて良かったの」


「本当に、こればっかは足を向けて寝れねぇよ」


 アルヴェイム王国にいるまではよかったが、国境を抜けてサウガダナン商業連合共和国に入ってからは段々と地形は砂漠地帯となり、気温も上昇していった。


 マシだったのはジメっとしておらず、カラッとした気候であったのは幸いであろう。


 道中パッと見る限りは水源がなく、ふじことリーエルに頼りっぱなしである。


 そんなふじことリーエルもはいつもと同じ格好ではなく、軽やかに動きやすい服の上には陽射し対策としてカーディガンを羽織り、頭にはターバンを巻いている砂漠仕様。


「わしらに感謝するがよい!」


 のんびりと相変わらずのやりとりをしながら進んでいくと、少し遠くに大きな宮殿がある大きな街が見えててきた。


「おっあそこがサウガダナンかな?」


 目的地を視認すると、鞭を叩いて馬車を疾走らせる。


「よしっ! 今日はベッドで寝るぞぉぉぉぉ!」


 悠斗の声に呼応するかのように、馬車を引いている馬と、その声に釣られてホーンラビットのうさこも『きゅ~!』と可愛く泣く。


「今日こそふかふかベッドで寝るのじゃ~!」


 リーエルが愚痴を言うぐらいには、彼女も実は辟易していた。


 そんな彼・彼女達を乗せた馬車は無事にサウガダナンの首都『ジェド』へと入る。


「へ~ここがサウガダナンの首都か。まずは宿を探さないとな」


「やっすい宿は嫌じゃぞ」


「当たり前よ! 軍資金には余裕があるからな」


 ほぼ稼いだお金を使うことがなかった悠斗は、今まで冒険で稼げたお金はほぼほぼ温存できていた。


 しかし、悠斗が自分で稼いだ金額など雀の涙。軍資金に余裕があるのはマルクスからマリーディア事件での迷惑料としてもらっていたのだ。


 当初は受け取る気がなかったのだが、なぜだか折れることのない鉄の意志を出すマルクスに折れ、諦めて受け取ることにした。


 大精霊であるリーエルに粗末な生活をさせるのは到底受け入れることができない……ということらしいのだが、真相は定かでない。


 というわけがあり、悠斗はマルクスからの支援に対しては『遠慮』や『配慮』という言葉を頭の中から削除した。


 もちろんもらった金額が金額なので、身内以外取り出せない様にマジックポーチに入れている。


 これで、例え盗まれても中身はふじこ以外取り出せないのだ。


 そんな悠斗達は旅の途中で知った『ブロデリック亭』というそこそこな値段の宿へと入る。


 値段は張るが料理も美味いし、何よりも他の宿と違って砂風呂を楽しめるらしい。


「わしはモグラじゃないんじゃが?」


 などと難色を示していたリーエルであったが、悠斗は「確か美肌効果があったような……」と話すと、すぐ手のひらを返した。


 そんな一行は『ブロデリック亭』の扉をくぐる。


「いらっしゃい」


 裕福な体型をした朗らかな女性が応対に出る。


「おやっ異国の方かい? しかも子供連れとは珍しいね」


「ここが評判いいと聞いたので、とりあえず3泊したいんですが」


「良いこと言ってくれるじゃないの。ちょいとサービスして、本来なら1泊16枚の所、なんと大銅貨12枚! 合計で36枚になるけどどうするんだい?」


「あっペットって大丈夫だったりします?」


「んっ」


 そう言ってふじこはうさこを掲げる。


「おやっ可愛らしい魔物だね。それぐらい小さい魔物なら大丈夫だよ。勿論酷く汚したりしたら別料金貰うけど、それでもいいなら構わないよ」


「お願いします」


 そう言って悠斗は懐から大銅貨12枚を出した。


 この街の宿のレートは、だいたい1人1泊するのに大銅貨3枚。


 日本円に換算すると3,000円だ。都内だとちょっと安いビジネスホテル並の価格が、この街での平均価格。


 それに対して、悠斗が決めた宿は1日大銅貨8枚、子供は1人4枚。


 本来なら大人1人と子供2人で1泊につき大銅貨は16枚となるが、ここは女将さんが1人分サービスしてくれたのだろう。


 悠斗は計大銅貨36枚を支払うと、案内係の少女に部屋を案内される。


 女将さんの娘らしく、将来はこの宿を継ぐのだとか。


「こちらになります」


 まだ少し幼い声で案内された部屋は、悠斗がお世話になっていた『天の方舟』に比べれば質は落ちるが、大人1人と子供2人で泊まるには十分なサイズのベッドが2つ。部屋の広さも十分で清潔感があり、一介の冒険者が泊まるには上等すぎる部屋だ。


「食堂兼酒場は階段を降りて右側の部屋、砂風呂は階段降りて左奥になります。水は1桶につき銅貨1枚、お湯は銅貨2枚となります。他、何かありましたらカウンターまでお申し付けください」


 そう言って礼儀正しく頭を下げた少女は、ふじことリーエルに向かって笑顔で手を振ると部屋から出ていった。


「まだ小さいのにしっかりしてるよな」


「うむうむ。そうじゃの」


 悠斗とリーエル、2人して腕を組んで頭を上下に動かす姿は息ピッタリ。


 そんな息ピッタリの2人を羨ましく思ったのか、後ろから見ていたふじこも真似を始める。


 ふじこの頭の上に乗ったうさこはなぜか『きゅ~』と鳴き、こうして一行のサウガダナン初日は終わりを迎えた。

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