第72話 いざ、サウガダナンへ!
「本当に行くの?」
王都の門前でそう話すのは『戦場の戦乙女』のリーダーアルマ。
もちろんレイとニーナも見送りに来ている。
「ふじこちゃん……心配だ……」
「リーエル様……どうかご無事で……」
レイは相変わらずふじこのことばかり心配しており、ニーナはリーエルの前でお祈りをしている。
そんな各々の反応を示す3人ではあるが、お見送りに来たのは他にもいた。
「悠斗……必ず戻ってくるのですよ?」
そう言いながら悠斗の手を握るのは、この国の第三王女『ローゼリア = ルクス = アルヴェイム』。
そして背後に立って暖かく見守っている『マルクス = ニル = アーヴァイン』。
アルマの父にして、この国で『王の左腕』と呼ばれる当代の公爵家の1人。
「姫様、そろそろ……」
そう言ってどんどん悠斗に詰め寄るローゼリアを止めたマルクスは、代わりに自分が前に出ると。
「悠斗君。私も君が戻ってくると信じてるよ」
笑顔で語りかけてくるマルクスの言葉を聞いて、悠斗は心の中で「(帰ってこないというのは許さないという強い意思を感じる)」と思った。
そんな悠斗の心を読み取ったのか読み取っていないのか定かではないが、特にツッコむこともなく、マルクスは1つの指輪を悠斗に渡す。
「これは?」
「それは我が家の関係者だと伝えるための指輪なんだ。この国の国境を警備している者なら、それを見せれば優遇してくれると思うよ」
「ありがとうございます!」
悠斗はもらった指輪を右手にはめる。
指輪は悠斗の右手人差し指にスポッとハマり、ピッタリのサイズだった。
そんな指輪をリーエルはペタペタと触っているのを見て悠斗は。
「やっぱりリーエルも装飾品とかに興味あるのか? 今度買ってやるから我慢しろって」
そう言ってくる悠斗に不満の顔を浮かべるリーエルであったが、「大丈夫そうじゃの」と一言残して興味を無くした。
不思議に思う悠斗であったが、マルクスは他にも手渡すものがあるようで声をかけられる。
「悠斗君、後はこれをふじこちゃんに」
そう言って手渡してきたのはふじこに似合いそうな可愛いらしいポーチ。
「ふふふ、これはただのポーチじゃないんだ」
「?」
「なんと驚くといい! これはポーチの形をした魔法収納袋何だ!」
マルクスの初めて見せるドヤ顔に対して、悠斗は。
「あ~マジックバックみたいな? 中は時間が止まってて、見た目に反して無限に物が入る代物なんですよね?」
「………………知ってたのかい?」
驚くと思っていたマルクスは虚を突かれてしまう。
「知ってたというか……俺の世界ではラノベっていう架空の物語を書物にした本がいっぱい売ってまして、それによくマジックバックみたいな形で登場するんですよね」
「……話を聞くたびに段々悠斗君の世界がどういった所だったのか想像できなくなってくるよ。まっまあ悠斗君の言った通りの能力を持った魔道具なんだけど……1つ欠点があってね」
「欠点?」
「使うには莫大な魔力が必要なんだ」
「ちなみにどれぐらいなんですか?」
「一度の使用でこの国に所属する宮廷魔術師1000人分の魔力が必要になるかな」
宮廷魔術師がどれぐらいの魔力を持っているのかは知らないが、悠斗は少なくとも膨大な魔力が必要なんだろうなということはわかった。
「それって……使えるのですか?」
ごもっともな悠斗の疑問にマルクスは。
「そこは未確認だが、我が国の天才が造ったものだからそこは安心してほしい。なんならこれを入れてみるかい? そのために用意したんだけど」
そう言ってマルクスは後方に放置してあった大量の荷物に指を向ける。
「でも俺には魔力が……ってそうか。だからふじこに合わせたデザインなのか」
「そうそう、使うだけで莫大な魔力が必要なんだけど、無限の魔力を持っているふじこちゃんなら問題なく使えるかなと思ってね」
マルクスの言葉に納得した悠斗は、マルクスから使い方を教わると、ふじこから魔力を供給してもらい使ってみた。
すると、目の前にあった大量の品物が、ポーチの中へ吸い込まれるように入っては消えた。
「うぉっ!?」
驚く一同の顔を見て嬉しそうな顔をするマルクス。
今度は出してみると、入れた時とは逆にポーチから品物が飛び出してきた。
「どうだい? すごいだろう!」
「本当に凄いですよこれ! こんな貴重な物いただいていいのですか?」
キラキラさせている悠斗の目を見て、マルクスは観念したかのように「実は……」と打ち明ける。
「もらってくれないと廃棄処分になるんだよね……」
「えっ!? こんなに凄いのに!?」
「使うには宮廷魔術師1000人分と言っただろ? まさか1000人に頼めるわけがないし、代用として魔石を使ったとしても、必要になるのはAランクの大型魔物100体分ぐらいが必要なんだ。それを買うお金があれば、人を雇って運ばせた方が遥かに安上がりなんだよね」
「あっ……なるほど」
「だからといって我が国の技術で造られた物だから、盗まれてしまっては問題になるからね。だから私の顔をたてると思って、もらってほしいんだ。その代わりと言ってはなんだけど……」
「なんだけど?」
「戻ってきたら、そのマジックポーチを定期的に再解析させてもらいたいんだ。今後使ってもらうことで、より効率のいい魔力伝達法や改良する余地が出てくるかもしれないからね」
「わかりました。ではお言葉に甘えて大事に使わせてもらいます!」
そう言ってマルクスにお礼をする悠斗。
悠斗の言葉に納得したのか、マルクスは大量の荷物を運んだ者達に指示を出して、馬車に荷物を入れていく。
「あれ? このマジックポーチに入れていかないんですか?」
当然の疑問の様に思った悠斗であるが、マルクスは。
「悠斗君達は旅人だろ? ここからサウガダナンまで距離があるのに、馬車の中には荷物が1つもないってのは不自然じゃないか」
「あっなるほど……」
納得した悠斗は、マジックポーチをふじこの肩にかけてやろうとするのだが、リーエルがまたしてもペタペタ触って邪魔をする。
「なんだ? かなり子供っぽいデザインだけどほしかったりするのか? 実際は年月経ったおばあちゃんみたいなものなんだから、そこはもうちょっと自重……」
最後まで言う前に、悠斗の大事な大事な過保護にしている息子が悲鳴をあげる。
「ふむ。問題ないのじゃ」
「問題…………大あり……だ…………」
そう言って地面へ崩れ落ちる悠斗を無視して、マジックポーチをふじこの肩にかけてあげるリーエル。
ふじこの騎士であるホーンラビットのうさこは悠斗の頭にオシッコをかける。
そんな3人+1匹を見たアルマは。
「旅へ出るって言うのに締まらない男ね……だけど何かがあっても無事に乗り切れそうな気がするわ」
ため息をつきながらも苦笑をするアルマ。
同意するよう顔を縦にふるレイとニーナ。
そんな光景をクスクス口に手を添えて笑うローゼリア。
なんだかこのまま続きそうな空気だが、別れの時がやってくる。
荷物も運び終え、出発の準備が完了したのだ。
「それじゃあ行ってくるよ砂漠の国『サウガダナン商業連合共和国』へ!」
悠斗は御者席に座って鞭を振るうと、彼らを乗せた馬車はゆっくりと動き出す。
「行ってきます!」
そう言って手を振る悠斗達を見送りに来た者達も、手を振り返す。
小さくなっていく彼らの馬車を見てマルクスは。
「気をつけるんだよ、悠斗君……。あの国は――ちょっと前に革命が起きたばかりなんだからね……」
無事を祈る様に目を瞑るマルクス。
彼らを乗せた馬車が消えるまで、最後まで見送った。