第6話 自己紹介
場所は移り変わり、現在は走る馬車の中。
生き残った盗賊達は武器や防具等全て没収され、両手を後ろに縛り上げられ逃げないようにその体と馬車をロープで縛り付けて歩かされている。
盗賊に慈悲はない。 この世界では見つけ次第殺しても咎められる事はなく、むしろ推奨されている。
盗賊だーー! 殺せーー! の精神だ。 何故なら、甘い隙を見せれば自分自身が殺されるか奴隷として売られる。 女なら陵辱されて尊厳も奪われてしまうのだ。
運良く生き残ったまま捕まえる事ができたらボーナスだ。 近くの衛兵に渡せば懸賞金が貰える。
衛兵に捕まったが最後、生き残った盗賊達は鉱山送り。
そんな盗賊たちの末路はともかくとして、現在の馬車の中はと言うと……。
悠斗の向かい側に『戦場の戦乙女』の3人が座っている。 アルマを中心に悠斗から見て右がレイ、左にニーナ。
銀髪幼女のふじこはどこに座っているのかと言うと、悠斗の横……ではなく、悠斗の足の間にすっぽりと埋まっていた。
『ここが私の指定席』だと言わんばかりの堂々とした佇まいで腰かけている。
しかし揺れる馬車の振動でお尻が痛いのか、悠斗の両足をペシペシと叩いて足を閉じさせて、太ももの上に座る。
悠斗の体を背もたれにし、全力で体をリラックスさせて早々に( ˘ω˘)スヤァっと眠りについた。
まさにお姫様気分である。
そんなお姫様の椅子になっている悠斗は「何でこいつの椅子にならなければいけないんだ」と不満満々なのだが、向かいにいるレイに何故か今まで以上に睨まれていて文句を口にできないでいた。
ニーナの方はと言うと、ふんふんふん♪ と鼻歌を口ずさみながらニコニコとお姫様を飽きずに眺めている。
そんな2人の代表としてアルマが悠斗に声をかけた。
「さて、そろそろ自己紹介と行こうかしら。 私はアルマ『戦場の戦乙女』のリーダーをしているわ。 そして鎧を着ている方がレイで、神官の服装をしているのがニーナよ」
レイは挨拶ぐらいはするのか、「よろしく」とボソっと言った後、ふじこを見つめている。 ニーナはニパニパと笑顔を向けて「よろしくおねがいします♪」と丁寧に挨拶をする。
「それで貴方は?」
「俺は三島 悠斗。 それでこいつは……ふじこだ……多分」
「多分?」
「俺もこいつの事は何も知らないんだ」
「何も知らないってどういう事?」
「あ~それはな……」
カクカク・シカジカとアルマ達3人に話す悠斗。
「えっ異世界人? 一度死んだ?」
一体こいつは何を言ってるんだと言わんばかりの顔をしている。
「本当! 絶対嘘だと思ってるでしょ。 俺もそれ聞いたら絶対に嘘だと思うんだけど、これ本当なんだよ」
あまりの必死な悠斗の発言に益々訝しんでいくアルマ達。
「だから言っただろ! 絶対に信じないって!」
流石に悪いと思ったのか、お互いの顔を見合わせる3人。
「ごめんごめんって! 悪かった。 私達が悪かったわ。 だからほら……ね?」
推定15歳~18歳と思われる少女に気を使われる『三嶋 悠斗』26歳独身よ、本当にそれでいいのか。
「まぁいいや、信じるか信じないかはお前らに任せるわ。 んで続きだけど……」
話しの続きを語りだす悠斗。 『創造神トゥリアナ』と呼ばれる存在に異世界転生を持ちかけられた事や専用スキルを渡された事も話す。
「そっそっ創造神トゥリアナ様!?」
「え? お前らあいつの事しってんの?」
トゥリアナ様! と言っていたあの時の悠斗はどこへ行ったのか。 騙されたと分かった時から悠斗の中での格付けは確実に落ちていたのだ。
「あいつだなんて無礼な!」
「そっそうですよ! 天罰が下りますよ?」
「……異教徒か!?」
自身の神を馬鹿にされたと感じたアルマに、悠斗の事を心配するニーナ。 異教徒の疑いで今すぐ叩き斬ろうとしているレイ。
「俺のいた世界の俺のいた国では、八百万の神が住む国と言われていてな。 神様ってのは別に珍しい事じゃなくて、なんていうか……ありふれているというか、珍しくないんだ。 といっても実際に実在してるとかではなく、そういう考えがあるってことだ。 だからそんな国に住んでる俺達は無宗教なやつが多いんだ」
「やお……よろず? 神様がありふれている? もしかして悠斗は神の国から来たの!?」
「だーー! 何でそうなる。 俺は普通の人間だ……だよな?」
少し心配になる悠斗。 確か『創造神トゥリアナ』はこう言っていたのを思い出す。
『そんなわけないじゃろ。 お前さんを異世界で生きれるように肉体を作り直して行ってもらうんじゃ』
言われた事を思い出して少し不安になる悠斗。
「まぁいいや、話しを戻すぞ」
「いい……の?」
アルマの疑問をスルーして話しを無理やり続ける悠斗。
「そこで俺はトゥリアナ……様が言うには専用スキルっていわれる物を与えられてこっちに飛ばされたんだ。 それでその専用スキルの名前が……読めないんだ」
「「「は?」」」
と口を合わせる3人。
「それは……悠斗が異世界人だから?」
「あぁ、なるほど! お前らなら読めるかもしれないな。 なら俺のステータス見てくれよ」
「……いいの?」
「えっいいけど……駄目なのか?」
「駄目じゃない。 駄目じゃないけど……悠斗がそう言うなら……」
アルマ達がこう言ったのも、この世界にはインターネットと呼ばれるものもなければ、科学という概念も存在しない。 命が軽いこの世界では情報とは大事な物であるのだ。
相手のステータスや持っているスキルが分かれば、相手を殺す対策を練る事だってできる。
つまり、ステータスを見せるとは自らの弱点を晒す事になるのだ。
故にこの世界の人間は自分のステータスを開示する相手を慎重に選ぶ。
理由がない限り初対面の相手に開示したりはしない。
そんな事は当然の事ながら露知らず「ステータス」と言って自身の情報を開示する悠斗。
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■名前
三嶋 悠斗
■職業
無職
■種族
ヒューマン
■ステータス
LV.1
HP : 50
MP : 10
STR :8
DEX :6
VIT :7
AGI :5
INT :1
MND :3
LUK :2
■スキル
・くぁwせdrftgyふじこlp(Lv.1)
・言語理解(Lv.∞)
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「Lv1……」
「ステータスは……普通ですね♪ (Lv1だけど)」
「……ふん(雑魚ね)」
そして肝心のスキルは。
「読めないわ……」
「ですね……」
「……」
「お前らでもやっぱり読めないか~。 まぁそうだと思ったんだけどな」
「それで……その読めないスキルとこの娘と何か関係が?」
未だスキルとふじこの関係が分からないアルマは悠斗に疑問をぶつける。
「ああ。 このスキル文字化けして俺も読めないんだけどさ、スキルの文字が俺の世界の文字なんだよ。 だから正直こいつの使い方が全然わからなかったんだけどさ、盗賊にやられそうになった時にとっさに叫んだんだよ」
「何を?」
「この読めないスキルでたまたま人名っぽくなってる所だよ」
「それが『ふじこ』?」
「あぁ。 そこからは言わなくてもいいだろ? お前らも見てたんだから」
「なるほど。 だから貴方はこの娘の事を知らないって言ったのね」
「そう。 それで話しが最初に戻るわけだ。 だから俺はこいつの事は何も知らない……でも……」
「でも?」
「こいつが俺のスキルなのかは正直分からんが、それでもこんな幼い娘を放っておく訳にはいかないだろ?」
「へへ!」と笑う悠斗の顔を見て少しドキっと心臓が鼓動を早めた様に感じたアルマは不思議な顔をする。
「そんな不思議な顔をしてどうしたんだよ。 まさか俺がこいつを見捨てると思ったのか?」
「違うわよ! でも……その娘どうするの?」
「どうするって言っても……どうしよ?」
カッコつけたはイイものの、肝心の事はすっかり考えてない悠斗であった。
そうこう話している内に御者台の方から声がかかる。
「皆さん、到着しましたよ王都『アルヴェイム』に」
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