第67話 幼女無双
ただの子供と油断している今がチャンス。
そう思った悠斗は大声でこう答えた。
「ふじこ、みずてっぽうだ!」
いつもの悠斗の言葉に反応して、ふじこは小さく「んっ」と言うと頭上に大きな水玉を生成させる。
「あれ、いつもと違うような……」
いつもどおりの無差別みずてっぽう想像していたのだが、なぜか大きな水玉を作り出したふじこ。
そんなふじこの意図を知っていたのか、リーエルは高らかに叫ぶ。
「ここからはふじことわしのきょうどうさぎょうじゃ!」
そう言ったリーエルはふじこから魔力を供給すると魔法を放つ。
ふじこが生成した大きな水玉を囲むように、小さな無数の魔法陣が展開されていく。
展開された無数の魔法陣はポンプの様に大きな水玉から水を吸い取っていくと、氷の柱に変化させていく。
魔法陣から水を吸い取られていき小さくなっていく水玉を見てリーエルは。
「ふじこよおおきなみずたまをいじするのじゃ」
「んっ!」
リーエルの言葉にふじこは大きな水玉を維持していく。
そのサイクルは止まることなく、あっという間に頭上を埋め尽くすほどの氷の柱が展開された。
氷の柱の矛先はもちろん地上。
準備ができたのかリーエルは声を放つ。
「ゆけい!」
リーエルの言葉に従い、氷の柱は悠斗達を囲んでいるアールスの私兵に向かって飛んでいく。
「「「うわぁぁぁぁ!」」」
形勢逆転。
悠斗達を囲んでいたアールスの私兵達は一斉に逃げ惑う。
抵抗するも、降り止まない雨の様に降り落ちる氷の柱に抵抗虚しく次々と倒れていく。
それはもちろんアールスやプロディオ達にも降り注いでおり、アールスに至っては今までのイキリ様から反転、頭を抱えて地面にうずくまり震えている。
彼の丸まった背中に容赦なく氷の柱はぶつかっていくのだが、氷の柱は安心安全仕様。
先端部分は丸くなっており、ふじことリーエルの優しさと加減で貫かれるこはないが、それでも打撲程度ではすまない。
プロディオ含む4名の騎士達はさすが王族の護衛に選ばれた騎士というだけあり、落ちてくる氷の柱を次々と剣で撃ち落としていく。
しかし、撃ち落としても一向に収まる気配もない氷の柱に苦戦を強いられていた。
人質にしている幼女とローゼリアがおり、ここで彼女達が死んでしまっては人質にとった意味がないからだ。
それもあってプロディオ達は十全に動けないでいた。
そんな隙を見逃すローゼリアではない。
彼女は助けを待つだけのお姫様ではなく、少々お転婆なお姫様。
「えい!」
全体重を乗せて、ローゼリアが必死の抵抗としてプロディオを突き飛ばした。
普段であればローゼリアが少々抵抗した所で突き飛ばすことなどできるはずもないのだが、絶え間なく降り注ぐ氷の柱の対処で反応が遅れてしまったのだ。
「ぐわっ!」
それでも騎士であるのか無様に転げることはなくなんとか体勢を整えながらも降り注ぐ氷の柱を避けていくのだが、ローゼリアの手は離してしまう。
それを見たふじことリーエルも、自身を抱えている騎士3人の顔面に向けてお得意のみずてっぽうを放つ。
「「ぐわぁぁ!」」
プロディオほどの技量はなかったのか、ふじことリーエルを抱えていた騎士2人は顔面を抑えて動きが止まってしまう。
その間も絶え間なく降り注ぐ氷の柱は次々を騎士達に当たっていき、あたりどころが悪かったのか後頭部に直撃してそのまま昏倒してしまった。
その隙にと一目散に悠斗達の元へ逃げていくふじことリーエル。
ローゼリアはふじことリーエル2人を抱えて悠斗達の元へと戻った。
戻ってきたローゼリアは、道中蹲っていたアールスの背中を思いっきり踏みつけていたので少しスッキリした顔をしている。
「ご無事ですか姫様!」
「大丈夫ですよアルマ」
にっこりと笑顔に変えるローゼリアの顔を見て安心したのか、状況も顧みずギュッと抱きつくアルマ。
「ちょっ……もう……」
驚くローゼリアであったが、すぐに元の笑顔に変えて彼女もまたアルマに抱きついた。
「ただいま、アルマ」
「本当に心配したんですから。無事でよかった……リアちゃん」
アルマの言葉にキョトンとした顔をしたローゼリアは、すぐ笑みに変えて。
「ふふっ。なんだか昔に戻ったみたいですね、アルマちゃん」
ローゼリアの言葉で顔を真っ赤にさせたアルマは思わず。
「こっこんな時に何を言っているのですか姫様!」
抱きつくのをやめて立ち上がると、ローゼリアを自身の後ろに下がらせた。
本当にそれどころではなく、まだ何も解決していないのだ。
悠斗達を囲んでいたアールスの私兵達はふじことリーエルのコラボ攻撃により散り散りなっている。
それでも動ける者も半数近くはおり、さらにプロディオ達騎士4名もいる。
アールスは今の騒ぎにかこつけてプロディオの元へ逃げていた。
ふじことリーエルも悠斗の元へ戻ってきたからなのか攻撃を止めている。
珍しくもふじこの方から悠斗へ抱きついていた。
「よしよし、怖かったな……」
ふじこが両手を上にあげて、いつものように抱っこをせがんでいたので抱える悠斗。
降り止んだ氷の柱により、プロディオ達も次々と体勢を整えていく。
「くっ……。まさかそこのガキ2人が魔術師だったとはな……。こんなことになるならさっさと始末しておくべきだったか」
プロディオの言葉で悠斗の腕に力が籠もる。
「プロディオさん……いや、プロディオ。あんた達もここまでだ」
悠斗はプロディオを睨みつけながら言うのだが、彼は悠斗の言葉を聞いて「くくくっ……」と笑い出す。
「ここまでだと? 笑わせる。確かにお前達のお陰で人数は減ったが、それでもまだ半数は残っている。この人数と我らに対してお前達は姫様というお荷物もいる状態だ」
そう言うとプロディオは騎士剣を中段に構え直して剣先を悠斗達に向ける。
「ここまでなのはお前達だ――もういい、姫共々皆殺しにしてやる……覚悟しろ!」
行動を起こそうとしたプロディオだが、第三者の声が響き渡る。
「覚悟するのはお前達の方だ」
複数の足音と共に響く声。
現れた第三者の姿を見てアルマとレイは声を上げる。
「おっお父様!?」
「父上!?」
「よう。無事か?」
ここにいるはずのない男達『マルクス = ニル = アーヴァイン』と『ハイン = ウル = コルニクス』。
アルマとレイの父が多数の兵と共に現れた。