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第61話 遺書

 アールスはアルマ達を見ると、大きく目を見開いて驚いた表情をしていた。


「……っなぜ!?」


「なぜって……そんなに私達がここにいるのが不思議? ――――それとも、なぜ()()()()()()()と言いたいのかしら」


 アルマの指摘に慌てる様に顔を変えたアールスは。


「いえいえ! アーヴァイン嬢様方が行方不明となられていたので驚いていたのです」


 少し落ち着きを取り戻したのだろうか、アールスは姿勢を整えるとアルマの向かいの席に座る。


「少しお見苦しい所失礼致しました。アーヴァイン嬢様、それに皆様もご無事で何よりでございます」


 平服するアールス、そしてアルマの探るような視線。


 2人の静かなやり取りに気づくこともなく、悠斗はマイペースにモグモグしている幼女達をみて謝った。


「すみませんアールスさん、この2人が……」


 そう誤りだした悠斗へとアールスが視線を向けると、名前が出てこないのか口ごもる。


「あっそういえば自己紹介していませんでしたね。改めて『三嶋悠斗』って言います。三嶋が苗字で名前が悠斗です」


「これはご丁寧に、私は『デーフォルミ = アールス』どうぞ気軽にアールスと呼んでくださいミシマ殿」


 そう言って自己紹介を始める2人。


「ミシマ殿は風貌を含めてこの辺では見られないお方だと思いますが、苗字をお持ちということはどこか異国の貴族様でしょうか? 私は今では代理領主をしておりますが、それまではマリーディアお抱えの商人をしておりまして――」


 アールスの琴線に何か触れたのだろうか、口がどんどん早くなっている。


 そんなアールスを止めるようにアルマは「ゴホンッ」と大きな咳をした。


 アルマの視線に気づいたアールスは言葉を止めて。


「失礼致しました。ところで、先程から気になっていたのですが、そちらのお嬢様は……?」


 疑問に思うのも無理はなく、悠斗の左右は2人の幼女に挟まれている。


 行方不明から戻ってきたと思えば、新しい幼女が追加されたとなっては疑問に思うのも不思議ではない。


 しかし、リーエルがウンディーネというのは秘密にすることとなっているので、どう説明したらいいのかと言葉を詰まらせる悠斗。


 そんな彼のサポートにとアルマが代わり話す。


「彼女は我が家で預かっているとあるご令嬢なの。それよりも私達の用件はだた1つ……一体何を企んでいるの?」


 アルマとアールスの間に再び険悪な雰囲気が漂う。


「企む……ですか? はて……」


「とぼけても無駄よ」


 そう言ってアルマが懐からだしたのは1通の封書。


 これはリーエルのいた神殿になぜか紛れていた魔封書だ。


 それを見たアールスが目を見開く。


「なっなぜそれが……!?」


「さて、どうしてかしらね? ちなみにこの魔封書はすでに私が開封したわ。公爵令嬢で良かったと本当に思ったわ」


 言葉なく下を俯くアールスへ追い打ちをかけていくのか。


「そう黙っているということは、この中に書いてある内容は真実ということでいいのかしら。()()()()()()()()()()()()()さん?」


「えぇ!?」


 アルマの口から発せられた衝撃の事実に驚く悠斗。


 マリーディア海蝕洞から戻ってきたと思えば、いつの間にか推理の世界に迷い込んでしまったのか!? と悠斗は頭の中を駆け巡る。


 しかし、漂うシリアスな空気がボケでもツッコミではなく、大真面目な出来事についていけない悠斗。


 隣に座っているリーエルは悠斗の表情を見て。


「(こやつ、この状況で馬鹿なことしか考えておらんな……)」


 と思ったが空気を読んで黙っていた。


 悠斗が後にアルマから聞かせてもらったのだが、手紙の内容にはこう記載されていた。


==========


 私はマリーディア家の当主であるキング = オブ = マリーディアである。


 この手紙を読まれているということは、すでに私……いや、私達は殺された後だろう。


 故に、この手紙を魔封書に入れ、いつの日か我らが同胞に読まれることを願い、この手紙と記憶を託す。


 今でも夢であってほしい、そう願っているのだが真実というのは時に残酷である。


 運良く逃げ延び、こうして船内の一室に鍵を掛けてこの手紙を書けているのは幸いだ。


 さて、何から書けばいいのか……大商家アールスは我々王国の敵である。


 祖父の代、そして父の代から長年我々マリーディア家を懇意にしていた友である大商家アールスのデーフォルミ。


 彼から外遊として誘われたものの、これはアールス家が我々マリーディア家を亡き者とするために仕掛けた罠だったことだ。


 死にゆく者の情けとして彼、デーフォルミは語ってくれたよ。


 それは、大商家であるアールス家は元々広い海を隔てた先にある大帝国が出身の成り上がり貴族ということ。


 そして帝国がこの国攻める為に邪魔なこの港街マリーディアを抑えるため送られた刺客であったということだ。


 時間をかけ、我々の懐に入り乗っ取る計画をしていたとは帝国も気の長い計画をたてたものである。


 私達の身に万が一にと代理としてアールスを指名したのも、幼いスペードを置いてきたのも全て仕組まれていたとは……。


 後はこの魔封書に込めた記憶の通りである。


 私達はここで散ることになるであろう。


 だが、私達の意志を同胞が、そして我が子『スペード = オブ = マリーディア』が継ぐことを願う。


 我ら祖国が迫りくる帝国の牙を打ち砕かんことを祈って……。





 最後に。


 ああ、スペードよ。


 お前には苦労をかけてすまない……。


 幼いお前を勝手に置いていく不甲斐ない父を許してほしい。


 私達はここで死にゆくだろうが、いつまでもお前の側で見守っている。


 愛しているよ、スペード。


 ==========


 時間がなかったのだろうか、最後の方は殴り書きになっていたらしい。


 それでも残していく息子へ何か想いを伝えたかったのだろう。


 そんな手紙をヒラヒラと懐から出して見せつけるアルマ。


「それで……どうなの?」


 アルマの言葉に観念したのか、驚いた表情から一転して悔しそうな顔をするアールス。


 身体を小刻みに震わせるアールスはアルマ達を睨みつけて。


「くそっ! もう少しの所で!」


 そう叫ぶと同時に、机を勢いよくひっくり返してきた。


「危ねえ!」


 ガシャンと大きな音が部屋中に鳴り響く。


 モグモグ食べていたふじことリーエルを庇うように、悠斗は2人を両脇に抱えると横に避ける。


 幸いにもアルマ達3人とも無事のようだが、その隙にアールスは部屋を抜け出していった。

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