第60話 やっぱり女子のことはよくわかんねぇ
「わるい、待た……せた………………?」
「私達も今来た所よ」
そこにはいつもの冒険者装備ではなく、華麗なドレスを纏った貴族のご令嬢達が悠斗を待っていた。
ご令嬢が誰なのかは聞かなくてもわかるのだが、言わなければならない。
「あの……どちらさまで……?」
「あらっ、これが私達本来の正装よ。あまりにも綺麗で見分けがつかなかったのかしら?」
アルマは綺麗な真紅のドレスを纏っており、レイはドレスというよりも男装……といえばいいのだろうか。青を基調としたスーツ姿で、ニーナは黄色を基調とした可愛らしいフリルのついたドレス。
しかし、みんな3人ともきちんと武装はしていた。
レイはまだスーツ姿だから男装と思えば悪くない。ニーナは杖なのであまり違和感がでないが、アルマはドレスに物騒な剣を持っていて少々似合わない……のだが、本人は自信満々だ。
どこか自信満々な顔をしているアルマを見て、悠斗は『こういう時、すぐ調子に乗る所がアルマの残念な所だよな』と冷静になり真顔となる。
「――――さて、いくか」
悠斗はふじことリーエルを連れて素通りしようとする。
「なに無視しようとしてるのよ!」
悠斗の肩をガッチリと掴んで動きを止めるアルマ。
「いやあ、別人かなと思って」
そんな悠斗の返答に「むむむ」と両頬をふくらませるものの、今度は少し恥じらう顔にコロっと変えて。
「………………その、どう?」
長い溜めの後、そう聞いてくるアルマに悠斗は『私って綺麗? っと聞いていることだよな。俺は他の朴念仁とは違うぞ』と思った結果。
「綺麗だぞ」
素直に思ったことを答えたのだが、アルマは顔を真っ赤にすると。
「バカーー!」
っと悠斗の腹に向かってボディブローを決めた。
「へぶぅ!」
腹を抑えてうずくまる悠斗は。
「(あれっ。一体どこか間違えた?)」
恥ずかしがったアルマが「もう……悠斗のバカ」っと言ってくるであろうと予想していたのだが、まさかボディブローをくらうハメになるとは思わなかった。
アルマの方は「あわ……あわあわ」と今までにない慌てようでレイとニーナが落ち着かせている。
こちらもこちらで予想外の言葉が返ってきたことで心の準備が出来ていなかった。
てっきり恥ずかしがって「その………………似合ってる……」と小さな声でボソッとつぶやくか、もしくは話しをはぐらかすと思っていた所、まさかストレートに返ってくるとは……と予想外の結果、こうして慌てふためいている。
早々にバタバタしたものの、落ち着きを取り戻す一行。
「それで俺にもこんな格好させて、一体どこに向かうんだ?」
悠斗は便宜上スーツと言っているものの、その辺の量販店で売っているような安物スーツではなく、まさにこれから社交界にでも行くのか? というようなドレスコードに身を包んでいる。
髪型もホテルの従業員にバッチリと決めてもらい、背格好だけみればどこぞの貴族様だ。
そんな悠斗の問いへ答えるようにアルマが口を開く。
「そんなの決まっているでしょ? 姫様に会いに行くんだからきちんとした格好をしないとね」
丁度よいタイミングなのか、外に一台の馬車がやってきた。
宿の支配人は馬車の戸を開いて悠斗達を馬車の中へと招く。
「それでは皆様、いってらっしゃいませ」
そう言って馬車の扉を閉めると、悠斗達を乗せた馬車は走り出す。
状況がいまいち飲み込めてない悠斗とアルマ達を乗せた馬車はマリーディア邸の前で止まった。
馬車から降りたアルマ達は、マリーディア邸を警護している警護兵達に向かって話しかける。
「私はアーヴァイン公爵家が長女『アルマ = ニル = アーヴァイン』よ。こちらにローゼリア様がいらしていると思うのだけれど、通してくださる?」
アルマの言葉に慌てて姿勢を正した警護兵達の内1人が慌てて誰かを呼びに行った。
メイド服を纏った妙齢の女性はアルマの前で腰を下げると。
「ようこそおいでくださいましたアーヴァイン様。ただいま主を呼んでまいりますので、中でお待ち下さい」
ピクリと何かアルマが反応したのだが、すぐ何でもないような顔をしてメイドの案内に従うアルマ。
そんな彼女の反応にたまたま気づいた悠斗であったが、アルマからは「何でもないわ」と言われて話を打ち切られてしまう。
何だか腑に落ちないと思ったものの、これ以上追求することもなくメイドに従って屋敷の中へと入る。
屋敷に入ると広いエントランスに出る。
エントランスから左右に伸びる廊下のうち左側へと進んでいく。
少し奥へと進んだ扉の前で止まる。
悠斗達を案内したメイドは扉を開き、悠斗達を応接間に通す。
「すぐにお茶をご用意致しますので少々お待ち下さい」
そう言って案内をしたメイドと入れ替わりに給仕係がお茶と茶菓子を運んでくる。
給仕係がテーブルに配膳し終わると。
「ありがと」
そう言ってアルマはお礼を言うと、給仕係は黙って腰を下げる。
給仕係はそのまま出ていこうするのだが、アルマは「そうだ」と一言つぶやくと出ていこうとする給仕係を呼び止めた。
「そういえば、貴方の主はお元気?」
問われた給仕はアルマに振り返ると。
「その……最近はより病が悪化しているのか、お食事もあまり喉が通らないようでして」
「そう、スペード卿にはお大事にとお伝えくださる?」
「承知致しました。それでは私はこれで……」
アルマの言葉にお辞儀をして給仕係は応接室を去っていく。
給仕係が去っていくと、待ってましたと言わんばかりにふじことリーエルが遠慮なくお菓子に飛びつく。
そんな2人を見て悠斗は。
「ふじこはまだいいとしても、リーエルはガッツキすぎだろ。まさにお子様じゃねえか」
口の周りにお菓子の食べカスをつけたリーエルは、お菓子へと伸ばした手を引っ込めぬまま悠斗の顔を見ると。
「仕方なかろう、随分と久しぶりなのじゃがから……にしても何やら変わった屋敷じゃの?」
「変わった屋敷?」
確かに豪華な建物だがこれといって変わった点が見られない。
強いて言うなら同じ様な部屋がなぜいくつもあるのだろうか? ということだろう。
1度来ただけなので記憶が少しうろ覚えだが、以前通された部屋とは家具の配置等が少し違う程度で、特にこれといって変わった点はみつけられない悠斗。
なぜ変わった屋敷なのかとリーエルに理由を尋ねようとした所、急にドタバタと大きな足音が鳴り響く。
「なんだ?」
誰かがこちらに向かってくるのか段々と音が大きくなっていく。
音が鳴り止むと、慌てていたのかバン! と大きな音を鳴らして勢いよく扉が開いた。
扉を開けた人物はこのマリーディアの代理領主を勤めている男『アールス』。
アールスはアルマ達を見ると、大きく目を見開いて驚いた表情をしていた。
「……っなぜ!?」




