第59話 お風呂回
マリーディアへ戻ってきた悠斗達は、街1番の高級宿『ルーベル』に戻る。
『ルーベル』の支配人と従業員達が驚いた顔をするも、すぐに顔を正して腰を下げた。
「おかえりなさいませ、お客様」
アルマ達を迎えた支配人は顔を上げると、少しほっとした顔をして。
「第3王女ローゼリア様が心配しておられました。湯船をすぐご用意致しますのでまずは身支度を……」
マリーディア海蝕洞の中に閉じ込められて数日、お風呂なんて入れるわけがないからだ。
誰も彼もが臭うのだが、例外なことにふじことリーエルだけは臭わないし汚れない。
ふじこについては悠斗も理由は知らないのだが、リーエルは精霊であるからだ。
ウンディーネであるリーエル曰く、精霊は人とは同じ境界に属していないため、生物と幻体の境目に属する存在……などと説明を受けた悠斗だが、理解はできなかったので考えることを諦めた。
そんな彼女達を羨ましいと思うアルマ達だが、支配人の声を無視して。
「悪いけどそれどころじゃないの。姫様は部屋にいるかしら?」
そう問われた支配人は少し困った顔をして。
「つい数刻前にアールス様が突然いらして、ローゼリア様と共にお出かけになられました」
難しい顔に変えたアルマは、食いつくように支配人を問い詰めだす。
「姫様はどこに向かわれたの!?」
「さっさすがにそこまでは……おそらくマリーディア邸ではないでしょうか? 迎えの馬車も着ておりましたので……」
突然の行動に驚いた支配人はどもりながらもそう答えた。
支配人の答えにアルマは苦虫を噛み締めたような顔をして。
「くっ……一足遅かったわ」
「だが護衛の騎士も付いていっただろうから、まだ無事だろう」
「そうだといいけれど……」
レイの言葉に落ち着きを取り戻すアルマ。
そんなアルマを見てニーナは。
「まずは湯浴みをしませんか?」
「ニーナ! こんな時に何を言って…………そういうことね」
ニーナの言葉に激昂しようするものの、何かを汲み取ったアルマは納得を始める。
「それじゃ早い所用意しましょうか。姫様をおまたせするわけにもいかないし……ということで、お願いできる?」
アルマの言葉に支配人はお辞儀をすると、従業員に声をかけた。
そんな中、状況がまったく掴めていない悠斗は困惑した顔をしてアルマに問いかける。
「突然難しい顔をしたり激昂したり落ち着いたり……お前らどうしたんだよ?」
悠斗の質問にどう答えようか悩みだすアルマ。
考えている間に準備ができたのか従業員が声をかけた。
それを聞いたアルマ達は悠斗の質問に答えず、代わりに支配人へ声をかける。
「彼に一着スーツを用意してもらえる?」
「承知致しました」
「それじゃ後でここに集合ね」
アルマ達は悠斗の質問に答えないまま去っていく。
「えっちょっ!」
悠斗の声も虚しく、アルマ達は湯浴みへと消えた。
「それではお客様、どうぞこちらへお越し下さい」
腑に落ちないまま、悠人は先に湯浴みへと用意された部屋に入る。
衣服を脱いで真っ裸になった悠斗はふじことリーエルを連れてドアを開ける。
ドアを開けたとたん、綺麗な景色を見てトテトテとリーエルと仲良く手を繋いで走るふじこ。
「ほらっそんなにはしゃぐと危ないぞ」
そう注意するも、彼女達がはしゃぐのも無理はない。
露天風呂のように外からは見えないよう柵に囲まれており、柵越しに見下ろせるのは広大なエメラルドブルーの海。
「子供じゃなくてもテンション上がるよな~」
ふじことリーエルを注意するも、自身も内心ワクワクしている悠斗。
悠斗はふじこを見つめる。
リヴァイアサン戦の後から感情をよく表に出すのを見るようになり、ふじこの成長を見ては「(子供の成長って早いよな……)」と嬉しくもあるが少し感傷に浸る悠斗。
感傷に浸っていると、いつの間にか湯船に入りそうなふじこ達を見つける。
「ほらっ2人共洗ってやるからこっちこい」
悠斗に呼ばれたふじこ達は、仲良く横に並んで座る。
そんな2人を見ると、「本当の姉妹に見えるな」と悠斗は少しほっこりする。
2人揃って幼女らしいプニプニボディには傷1つなく、しかし脆そうな肌を優しく洗う悠斗。
頭皮と髪の毛も優しく丁寧に洗っており、正直自身にかける時間より長い。
いくら汚れないからといっても洗わないのはちょっと違う。
それはそれ、これはこれ。
気分的に洗ってやらないと気がすまない悠斗。
そんな悠斗は彼女達を洗ってやると、自分の身体も綺麗にしてさっそくとばかりに湯へ浸かる。
「あ”~これこれ……」
「おっさんのような声を出しよって……」
リーエルからのツッコミも華麗に無視。
マリーディア海蝕洞に数日籠もっていたので、久しぶりに感じる湯船の温もりに身体の芯から癒やされる悠斗。
左右で気持ちよさそうにしているふじことリーエルを見ながら悠斗は。
「(左右にいるのがお子様じゃなくてナイスバディの持ち主だったらな~)」
などと考えていたら、リーエルが悠斗の顔を見て。
「失礼な奴じゃの。わしがないすばでぃに成長してもお主には見せてやらんからな」
「自然な流れで俺の心を読むな……と言いたいが、リーエルって成長するのか?」
何百年、数千年生きているのか分からないが、現在お子様なのに大人の身体に果たして成長するのだろうか? そうふと疑問に思う悠斗。
「ふぅ~風呂というのは気持ちいいの~♪」
そんな疑問には無視という答えを示すリーエルを見て納得をする悠斗。
「これ以上触れてやるのは可愛そうというものだ。うんうん」
「声に出ておるのじゃ!」
「わりぃ、ついうっかり!」
悠斗は誤魔化すように話題を変える。
「そういえば精霊魔法? を使う時って俺の魔力を使うだろ?」
「そうじゃが、それがどうした?」
「それじゃあさ、ふじこから魔力をもらうことはできないのか?」
リヴァイアサン戦のことを思い出す悠斗。
戦闘中ふじこから魔力をもらったお陰で乗り越えることができたのを思い出す。
そんな彼の疑問へ答えるようにリーエルはふじこの側によると手を差し出した。
「ふじこ、お主がリヴァイアサン戦の時こやつへやったようにわしに魔力をもらえないじゃろうか?」
そう言って差し伸ばされたリーエルの手を握ったふじこは「ん」と一言話すし、瞑想するように目を瞑る。
「おっおぉ! いける……いけるぞ! ……っと思ったのじゃが……ふじこの魔力量であればもっと出せるはずじゃ……はて?」
実はこっそりとリヴァイアサン戦を見ていたリーエルは、自身へ流し込まれた魔力量の少なさに首を傾げる。
「お主がリヴァイアサンのやつと戦っていた時に得られた魔力量に比べれば10分の1にも満たぬの。それでもお主の魔力以上は受け取っておるが……」
「原因は分かるのか?」
そう質問をする悠斗の顔を見るも、リーエルは横に顔を振る。
「わからぬ。もしかしたら……というかこれはわしの考えなのじゃが、お主とふじこはスキルの持ち主とスキル自身という関係性だからかもしれぬ。あとは共に過ごした時間と絆なのかもしれぬの。こればっかりはわしにも分からぬ」
そう答えるリーエルを見て悠斗は。
「まあいつか答えはわかるだろ。それよりもふじこがいればリーエル自身も戦えると分かっただけ幸いだわ」
「うぬ、わし自身もせっかく契約できたのにお主達のお荷物になるのは嫌じゃったからの。これでもし敵に囲まれても安心じゃぞ!」
「そうならないようにしたいけどな~」
そう言って空を見上げる悠斗。
少し長く入りすぎたかな? と思った悠斗は、ふじことリーエルを連れて風呂から上がる。
案の定長く入りすぎていたのか、玄関に向かうと3人の女性が待っていた。
「わるい、待た……せた………………?」
そこにはいつもの冒険者装備ではなく、華麗なドレスを纏った貴族のご令嬢達が悠斗を待っていた。
ナニがとは言いませんが、正直どこまで書いていいのか不安だったから結構抑えました。