第58話 魔封書と命名そして脱出
悠斗が自身の弱さに絶望していた頃、アルマ達は周囲を見渡していた。
周囲には宝石や金目の物、更には船の残骸らしき物まで、あらゆる物がざっくばらんにゴミ山が広がっていた。
それを見たアルマはウンディーネに声をかける。
ちなみに悔し涙を流している悠斗にはあえて突っ込まないし触れない。
「ウンディーネ様、1つお聞きしたいことが……」
「なんじゃ?」
「周囲にあるこれらの物は何でしょうか?」
「おおそれか。ここが外海と繋がっておると話したじゃろ? そこから度々流れ着いておって困っておるのじゃ。もし何か使えそうな物とかあれば持っていってよいぞ」
そう言うと、ウンディーネは少し悲しそうな目をして海を見つめた。
アルマ達はウンディーネから許しを得たのでゴミ山を捜索。
どうやら船の残骸が気になるようで、調べてみると。
「この家紋は……ん? これは……」
残骸跡に落ちていた1通の封書を手に取る。
「魔封書……!」
魔封書とは、アルヴェイム王国の技術部で開発された魔術道具の一種。
魔術処理を施された封書のことで、王国貴族が重要な内容を記載するのに使用される。
さらには劣化することもなく、水に濡れたり燃えたりしない。
開封においては特定の個人、もしくは指定した貴族が開封可能と盗まれた場合でも内容を知られることが減るため、密な連絡をする時に使用される。
特徴的なのは、何も手紙に文字を書くだけではない。
執筆者の封じ込めたい記憶を映像として残すことができるという完全にオーパーツのような存在。
残した映像は読み手の頭の中で再生される。
しかし、製造することができる人材はあまりに少数なため、貴族であっても誰もが使える程容易に手は出せない。
欠点としては一度開封してしまえば再利用ができないことだろう。
一度使ったが最後の使い切りアイテム。
劣化しないという点は維持されるものの、別の映像に変更したり封印したりといったことはできない。
それでも重要なものを記載する際に使われているのは映像として残すこともできるためだ。
ここ王都では重要な案件などの物的証拠として扱われている。
そんな希少な品がなぜこんな所にあるのかと驚くアルマ。
指に魔力を込めて開封を試みてみると、なんと開封することができた。
開封できるとは思わなかったアルマは驚くも、封書の中に入っている手紙の内容を読んでみる。
「こっこれは……早く姫様にお知らせしないと!」
アルマ達が手紙を読んでワナワナと震えている一方、悠斗は絶望してるばかりではなく、しっかりとウンディーネの話しも聞いており、何かないかなと悠斗も捜索していた。
リヴァイアサンとの戦いで剣身は柄だけを残して壊れてしまい、衣服や防具もボロボロだからだ。
アルマ達の方も気にはなっているのだが、貴族やそういった関連については興味があまりないし、下手に突っ込んでもやぶ蛇になるだけだと思っている。
それよりも、今は自分の見た目と武器を何とかしたほうがいいと考える悠斗。
武器はすでに壊れてなく、防具類も先の戦闘で使い物にならない損傷程度で衣服については所々ビリビリに破れており、メン○ナックルかな? という状況。
ガイアが俺にもっと輝けと囁いてくるが、俺は輝きたくないと思っている悠斗は比較的使えそうな防具類や武器を探し出す。
「これ貰ってもいいか?」
「好きにするとよいぞ」
ウンディーネから了承を貰った悠斗は、ギリギリ使えそうな片手剣2本と防具類、それにちょっと臭うけど衣服ももらうことに。
現在の姿はHOT ○IMIT状態で、さすがにこのままではポロンとナニかが見えてしまう。
出すとこ出してたわわになってしまえばそのまま牢獄行きだろう。
アルマ達が他のことで夢中になってる間、物陰へ隠れてはサクッと着替える悠斗。
こんな所で何しているんだ? と思わんばかりの目で凝視するふじこに、チラチラと目線をよこすウンディーネ。
幼女ズの視線など気にもせず着替えた悠斗は、衣服の臭いに顔を顰めるがだんだんと鼻も慣れてくる。
しかし、ふじこは鼻を押さえてしかめっ面を止めない。
閑話休題
「そろそろゆくぞ」
ウンディーネの声に同意した悠斗達はリヴァイアサンの前に集まる。
いつの間に着替えたのであろう悠斗の姿を見るアルマ達であったが、疲れたのもあり疲労が溜まっていて突っ込まない。
臭いも冒険者であればこれぐらいの臭いを出す者は冒険者ギルドに行けば1人か2人は見かけるからだ。
「それじゃ今からお主らが水中で呼吸ができる魔法をかけるぞ」
そう言ったウンディーネは悠斗達5人に魔法をかけていく。
発動した魔法は悠斗達を薄い水色をしたヴェールみたいなもので包み込むと、そのまま体に当たり消えていった。
「ん? これでもう水中呼吸が出来るのか?」
「うむ、一見に如かずじゃ」
そう言ってウンディーネは海面を覗き込んでいた悠斗を蹴落とした。
「うわぁ!」
水しぶきを上げて海に落ちていく悠斗。
「何するんだ! ……ってあれ?」
海に入っているにも関わらず、衣服も防具も濡れておらず、地上にいるかのように呼吸ができる。
しかも武器や防具の重さも感じない。
海の中にいるというよりは、無重力な空間で浮いている感じが近いだろう。
「すげぇすげぇ!」
そう言いながら子供の様にはしゃぐ悠斗。
蹴落とされたことは忘れたかのように、水中へ潜っては水中から上がったりと楽しんでいる。
「早う戻ってこんか」
「へへ、悪い悪い。年甲斐もなくはしゃいじゃったよ」
悠斗が戻ってきては「ほれ、いくぞ」とウンディーネが声をかけるとリヴァイアサンが乗りやすいよう頭を下げていく。
全員が乗り込むと、ウンディーネは悠斗達に向かって
「落ちると危ないから、しっかり掴まっておくのじゃぞ。――それでは征くのじゃリヴァイアサン!」
ウンディーネの声に呼応してリヴァイアサンは巨大な体を海の底へと沈めていく。
ぐんぐんと伸びていく速度に各々それぞれの反応を出していくのだが、少しすれば慣れていった。
不思議な世界にでも迷い込んだかのように、ふじこどころかアルマ達3人も年甲斐もなくはしゃいでいる。
魔物を含めた水中で生活をしている生き物が間近で泳いでいる姿を目にするのは初めての経験なのだろう。
そんな水中アトラクションも終わりの時がやってくる。
ウンディーネの神殿から水中を移動してぐるっと周り、マリーディアまで歩いて1日か2日ほど離れた所で降ろしてもらう。
リヴァイアサンに乗ったままマリーディア港まで言ってしまうと、街が大変な騒ぎになるからだ。
名残惜しそうしながらも、小さな手を振ってリヴァイアサンとお別れをするふじこ。
その小さな手に呼応するかのようにひと鳴き叫んでは海中へと帰っていった。
リヴァイアサンと別れを告げて、アルマ達が先導しながらマリーディアへ戻る途中。
「そういえば、このままウンディーネって呼べばいいのか? 毎回毎回ウンディーネはちょっと長いんだけど」
正直ちょっと長いから愛称か何かで呼びたいと考える悠斗。
それに対してニーナは。
「何を言っているんですか! ウンディーネ様はウンディーネ様とお呼びしなければ……」
ニーナの長いお説教が始まった。
長いお説教から話しは変化し、ウンディーネがいかに素晴らしい存在か語っているニーナを見て、当の本人はニマニマと嬉しそうな顔をしている。
ニマニマして緩んでいる顔をしながらウンディーネは。
「チヤホヤされるのは好きじゃ――」
ゴホンゴホンとわざとらしい咳をする。
全然誤魔化せてないんだけど……と考えるも口に出さない悠斗。
「好きなのじゃが、呼び方は変えた方がよいかもしれぬの。正体がバレてしまえば自由に表を歩けなくなるかもしれん」
そうじゃの……と少し考え込んだウンディーネは悠斗の顔を見ると。
「契約者よ、お主が決めてくれぬか?」
「俺が?」
「うぬ。別の名にするのであれば、決めるのは契約者であるお主がよい」
ウンディーネの言葉に、少し考える悠斗。
「そうだな……ふじこに合わせて、うんk「待てい!」」
悠斗の声へ被せるようにウンディーネは叫んだ。
「それ以上は言わせないのじゃ!」
「やっぱ駄目?」
「駄目に決まっておるじゃろ!」
両頬を膨らませてプンスカしてはポカポカと悠斗の腰を叩いている。
もう少し悩んだ結果出た名前は。
「リーエル……でどうだ?」
「どういう意味じゃ?」
「元の名前から考えたが、どう考えてもアレしか出てこなかったから、発想を変えてみたんだ。俺の世界にはガブリエルっていう四大天使と呼ばれる神様の1人がいたとされていて、そのガブリエルが支配していた元素が水なんだよ。そこから後ろ3文字をとったんだが……どうだ?」
悠斗から説明を受けたウンディーネは思案した顔を上げて。
「異星ではあるが、神の名からその一部をいただけるとなれば有り難いの! これからはリーエルと呼ぶのじゃ!」
「俺のことも契約者じゃなくて悠斗って呼んでくれよ、なんだか恥ずかしいし……」
少し顔を赤らめる悠斗。
そんな悠斗を見てウンディーネ……もといリーエルは。
「ゆーと、か……ふむ。何ならお兄ちゃん! って呼んでやってもよいのじゃぞ?」
やり返しと言わんばかりに、悠斗の顔をニヤニヤ見るリーエル。
「うるせぇ!」
そんなリーエルの言葉に恥ずかしそうにする悠斗。
こうしてお互いからかいながらも、新しくリーエルと名前を改めた大精霊ウンディーネを仲間にして一行はマリーディアへ戻っていった。