第56話 既視感覚える光景
「さて、それでは行くかの」
そう言ってウンディーネはふじこと仲良く手を繋いでどこかへ向かう。
ウンディーネとふじこを追って、慌てて追従する悠斗達。
「えっとどこに行くんだ?」
そんな悠斗の疑問をウンディーネは当たり前の様に話しだす。
「決まっておろう、お主が住んでいる所じゃ」
そう悠斗へ語るウンディーネの言葉に慌てるのはアルマ達。
後ろの方でコソコソと話し出した。
「どっどうしましょ……王都にある私達の拠点『天の方舟』に来られるってことよね?」
「私達と一緒の所でいいのだろうか?」
「わっ私が代表としてお聞きしてきますね!」
決着がついたようで、相談した所ニーナが代表として話を聞くことにした。
「あっあの……ウンディーネ様……」
「なんじゃ?」
ニーナは振り向いたウンディーネに向かって跪いて話し出す。
「突然のご無礼をお許しください。私はトゥリアス聖教で神官見習いをしておりますニーナ = ウォルシュテッドと申します。発言をお許しいただけないでしょうか」
そう言ってニーナは王に謁見でもするかのような態度をとる。
そんなニーナを見てウンディーネは。
「くるしゅうない! っと言いたい所じゃが、わしにその様な趣味はない。そうへりくだらなくてもよいのじゃぞ? 顔を上げ、そして普通に話すのじゃ」
それを聞いたニーナは感動したのか、涙を流す。
悠斗は『どこに感動する要素が……?』とニーナに聴こえないようボソッと呟く。
ニーナを怒らせてしまってはいけないと悠斗は学習したのだ。
「それでは……ウンディーネ様。悠斗が住んでいる所に行く……と先ほどお耳に挟んでしまったのですが……その……事実でしょうか?」
「固いの……まあええ。そうじゃが何か不味い所でもあるのかの?」
ウンディーネの返答に慌ててニーナは。
「いえいえ! 滅相もありません。現在悠斗は私達の拠点である『天の方舟』にて共に過ごしておりまして、ウンディーネ様にお過ごしいただくには少々そぐわない場所でして……準備が整うまで王宮、もしくは聖都アルバルミネスにて最高級の宿をご用意いたしますが……」
マルクス公どころか聖女セレナに確認もとっていないが、ウンディーネ様が来られたとなれば問題ないだろうと彼女は考えた。
しかし、ウンディーネはニーナの言葉を聞いて顔を横に振って答えた。
「わしら精霊は契約者と共にある。お主らがわしらのことをどう思っているのかは想像つくが、この世界に住まうただのちっぽけな精霊風情に過ぎん。お主らで言う所の王族や貴族じゃあるまいし、そこまで気を使わなくても良い」
さまよえる子羊を導くように優しく話すウンディーネを見て、悠斗は「目を見張る程麗しく美しいウンディーネ様の握手会場はこちら」などと石柱に書いた人物と同じに見えないと思った。
ウンディーネは悠斗が何やらよからぬことを考えているな? と感じたため。
「不敬である!」
そう言ってふじこと同じ様に『みずてっぽう』を悠斗の顔面めがけて発射した。
「あばばば!」
突然のことに尻もちをついた悠斗は声を荒げて。
「ふじこと同じ様なことしやがって……何しやがる!」
「お主はええんじゃお主は。もっとわしを褒め称えよ! 敬意が足りん!」
「(くっ……このクソガ……いや、クソガキムーブロリババアめ……情報過多だろ!)」
「契約者よ、もう一発逝っておくかの?」
それをまたも察知したウンディーネは指先を悠斗へ向ける。
悠斗は両手を上に上げて降参したのか。
「へいへい、目を見張る程麗しく美しいウンディーネ様」
「分かればよいのじゃ!」
そういって鼻高々になるウンディーネ。
「(こいつ、皮肉も通用しないのか!? 無敵か!)」
ウンディーネはニーナへ顔を向けて。
「おっと! わしの契約者がすまんの……話しを戻すとそういうことじゃからいらん気を使わなくてよい」
その言葉を聞いてニーナは申し訳無さそうにしながらも納得して。
「ウンディーネ様がそう仰るようであれば我らも問題ございません。ウンディーネ様に付き従います」
そう言ってウンディーネに祈り返すニーナ。
そんな彼女を見ていたアルマは「そういえば!」と思い出す。
「ニーナの王宮って言葉で思い出したけど、私達マリーディアへ早く戻らないと姫様心配なされるわ!」
リヴァイアサンとの戦闘やウンディーネとの出会いですっかり頭から抜けていた。
アルマは姿勢を正してウンディーネにひざまつくと。
「ウンディーネ様に1つお願いがございます」
「ふむ。なんじゃ?」
「我々は元々この近くにある街マリーディアから来まして、同行していた者も今そこにいます。本来自力で戻ろうしたものの、洞窟内の崩落が原因で戻ることができず……お力をお貸しいただけないでしょうか」
「マリーディア……ふむ。この近くにある港街じゃな? よかろう、ついてまいれ」
そう言ってふじこと共に先行するウンディーネ。
なにもない所でおもむろに手をかざすと、地面から階段が現れる。
唖然とする悠斗達を他所にさっさと先へ進むウンディーネ。
長い階段を降りていくと、一直線の通路が現れる。
そのまま進んでいくと行き止まりに突き当たった。
しかし、正面の壁1面だけが水のような色をしてゆらゆらと揺れ動いている。
ウンディーネは気にすることなく、ふじこと一緒に入っていく。
「ちょっとまって!」
悠斗がそう言うものの既に遅く、ふじことウンディーネは壁の中に消えていった。
「……どうする?」
後ろにいるアルマ達へそう言う悠斗だが。
「どうするって言っても行くしかないでしょ。ほらっ早く行きなさい!」
躊躇する悠斗の背中をトンッと押した。
「おわっおまっ!」
最後まで言葉を言えぬまま壁の中へ吸い込まれていく悠斗。
壁にぶつかることなく通り抜けた悠斗はなんとか地面とキスをすることなく両足で立つことに成功する。
「あっぶねェ……何しやがんだ……アル……マ…………」
すぐあとを追ったアルマも壁の中へ通り抜けるのだが、悠斗の背中に頭をぶつけたため文句を言う。
「ちょっと! こんな所で立ち止まらないで……よ…………」
しかし、悠斗の異変にアルマ達も気づいた。
お互い文句でも言ってやろうと顔を上げた瞬間、見覚えある巨大な海龍の姿が目に入る。
「…………えっと、こんにちは?」
既視感を感じる悠斗。
そこには倒したはずの海龍リヴァイアサンが再び姿を現した。