第50話 海龍リヴァイアサン戦 II
一際大きいリヴァイアサンの魔法陣は、大人を丸々飲み込むほど大きな水創り出して圧力を高めていく。
殺意をさらに高めるように、魔法陣はバチバチと音を鳴らす。
そして、その殺意が籠もった魔法陣は悠斗へ向けて勢いよく放出した。
これが当たれば悠斗は影も形もなくなるか、もしくは水圧に潰されて死ぬだろう。
しかし、その攻撃が当たる前に予想もしない方向から攻撃がくる。
悠斗が諦めようとしたその時、リヴァイアサンが放つ攻撃よりも先に別方向から悠斗へ向かって攻撃が直撃した。
予想もしなかった完全な不意打ち。
悠斗は受け身もとれずに吹き飛ぶと同時に、先程まで彼が立っていた場所から大きな音がした。
地面を転がり、何とか立ち上がると攻撃が来た方向へ顔を向ける。
「痛てて……何す――」
その方角にいたのはニーナとふじこ。
遠距離から攻撃できる手段を持っているのはふじこだし、普段よりも少し強いが慣れかけている腹部の痛みと防具の濡れぐあいから見れば、犯人は自ずとわかる。
悠斗は『何するんだふじこ!』と文句を言おうとしたものの、さきほどまで立っていた所が目に入り言葉を詰まらせた。
リヴァイアサンが放った攻撃は、悠斗が立っていた場所を中心に地面をえぐり取っていたのだ。
「助かった、ふじこ」
そう感謝を言う悠斗は、何だかふじこの目がいつもと違って見えた。
もちろん無表情で変わりないのだが、ふじこから『しっかりして!』と言われているような気がしたのだ。
「いつも助けてもらってばかりだな……?」
そう口にした途端、いつもどおり自分が自然と動けることに気がついた。
「ああ……そっか、そうだよな……」
今でも絶え間なく降り注ぐ悠斗への攻撃をふじこは防ぎ続けている。
そんな彼女の顔を見て悠斗は。
「何やってんだ俺……カッコ悪い」
右手の手のひらをギュッと握りしめて前を向く。
「俺がしっかりしなくちゃふじこを守れない……よな!」
何か吹っ切れた様な顔をして、地面に落ちた剣を拾う。
柄を強く握りしめ、リヴァイアサンをにらみつける。
「今はあいつを何とかしないとな」
足が動く。
ダメージを受けているはずなのに、何故だか体は軽い。
殺されそうになったにも関わらず、恐怖心どころか笑っているようにさえ感じる。
「うおおおおおおおお!」
今までにない不思議な感覚に悠斗は自然と叫んでいた。
そんな中アルマとレイは。
「何だか蚊帳の外って感じがするわ」
「ああ。あいつよりも強いはずなのに、狙われないことがこんなにも寂しいとは……」
「妬けるわね」
「なら、否が応でも振り向かせて魅せるさ!」
2人はリヴァイアサンへ一直線に駆けつける。
アルマは愛用の剣を振り回す。
目で追いきれない速さ繰り出される剣撃だが、リヴァイアサンの鱗に少し傷をつける程度だ。
「くっなんて硬さなの!」
攻め手に欠けているアルマと同じく、レイも愛刀で斬りつける。
しかし、レイをもってしても浅い傷しかつけられない。
「くっ……!」
邪魔だと思ったのか、リヴァイアサンは自身の周囲に飛び交う蝿を振り払うかのように、長い尾を横薙ぎに振り回す。
アルマとレイはリヴァイアサンの体を足場にして高く飛び上がり回避した。
地面に着地してアルマは。
「少しは私達のこと気になってくれたのかしら? ならもっと見つめてくれていいのよ!」
そう言ってアルマはリヴァイアサンの体へ器用に登ると、首の方に向かって走り出す。
それでもリヴァイアサンは執拗に悠斗を狙い続けた。
アルマは腰から2本のナイフを取り出して魔力を込める。
愛用している剣でさえも、鱗には少し傷をつける程度しか与えられなかったため、ナイフ程度では強度に負けて折れてしまうと思った。
それなら魔力を込めて強化してやればいい。
両手に魔力を込めたナイフを握りしめて駆け抜けた。
揺れ動く不安定なリヴァイアサンの体を物ともせず、器用に駆け上がると一気に跳躍する。
首元に到着したアルマは。
「鱗は硬いけど、鱗と鱗の間はどうかしら?」
そう言って左手に持っているナイフを一本突き刺した。
それでも意に介さないリヴァイアサン。
気にせずアルマは深く突き刺したナイフを足場に跳躍し、残りの一本も突き刺した。
そして愛剣も取り出して魔力を込める。
「これはオマケよ!」
そう言って魔力で強化された愛剣を突き刺す。
ナイフと同じく、リヴァイアサンの鱗を貫いて深く突き刺さる。
アルマがリヴァイアサンの首元へ駆けていた頃、レイはリヴァイアサンの横薙ぎを避けた後、その場に立っていた。
目を瞑り息を吐く。
そして目を開けて。
「確か以前悠斗は『水って雷を通しやすいんだ』とか言っていたな……なら、これはどうだ?」
愛刀『ライキリ』を上段に構え、左足を一歩前に出す。
もう一度目を閉じて深く呼吸をし、空気を体の中に溜め込む。
そして体内の魔力を『ライキリ』の刀身へと注ぎ込む。
魔力を注ぎ込まれた『ライキリ』は、刀身からバチリと叫ぶように音を鳴らしながら、青紫色をした魔力を纏わせる。
レイは目を開くと溜め込んだ空気を吐き出すのと同時に腕を振り下ろす。
「叫べ、『ライキリ』」
レイの愛刀『ライキリ』は本当に叫んでるような音を鳴らしながら、振った刀筋に沿って青紫色を放出させた。