第4話 親方! 光の中から幼女が!
「く……くぁ……くわせ……ふじこぉぉぉぉぉぉぉ!」
果たしてこれが正解だったのか、悠斗から眩しく光が輝きだす。 光は周囲に広がっていき、やがて周囲の盗賊達も冒険者たちも包み込む。
光はすぐに収まり、周囲の光景は元に戻るのだが、1点だけ違う所があった。
悠斗の側に見知らぬ少女が立っていた。
銀髪のツインテールをしており、まるで絵本の中から出てきた様な小さな顔に、人形の様なクリッとした丸々とした目が付いている。
どこか貴族のお姫様の様なフリルをあしらった黒いドレスが輝く銀髪を際立たせている。
そんな可愛らしい顔立ちなのに、表情は無表情である。
じーっと釣り上げられた悠斗の顔を見つめた後、盗賊の頭に顔を向けた。
「何だクソガキ? どっから湧いてきやがった」
急に光ったと思えば今度は急に幼女が出てきたのだ。 光った時は驚きはするものの何事もなく収まり、変化は1人の幼女が出てきたのみ。
ピンチをチャンスに変える男と自称する盗賊の頭は好機と見た。
良く見れば貴族のお姫様にも見えなくもない。 少し歳が低すぎる様に見えなくもないが、顔立ちは整っていて将来美人になる事は間違いない。
これだけの上玉は売り手はいくらでもある。 幼女愛好家の変態貴族共なら確実に食いつくだろう。
やはり俺は運がいい。 盗賊の男は自分がツイてると思うと顔がニヤけてきた。
それに目の前の男は馬鹿だが身なりは整っているし、鞄にはギッシリと何かが入っている。
ヒョロヒョロとしたこの男を殺した後は金目の物に食料や女。 こりゃ名を馳せるのも時間の問題だなと考えた。
思い立ったらすぐ行動。 男は改めて右拳を強く握りしめて悠斗を殴りつけようとする。
しかし、悠斗の側にいた幼女が庇うように突っ立った。 今にもポッキリと折れそうな華奢で小さな体、誰がどう見ても庇えそうに見えない。
「邪魔だ。 どけ」
商品を傷つける訳にはいかない。 柔肌をした幼女に少しでも傷がつけば値打ちが下がってしまうので乱暴に扱う事に躊躇したのだ。
少女はそれでも動こうとせず、それどころか相も変わらず無表情をしたまま右手の人差し指を男に指した。
「あ?」
幼女の謎の行動に不審がっていたその時、突如指先から赤い液体が吹き出した。
吹き出した液体は男の顔に勢いよくかかり、目の中に侵入していく。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 目がぁぁぁぁぁ目がぁぁぁぁぁぁ!」
その赤い液体の正体は『デス・ソース』。 何故幼女の指先から『デス・ソース』が吹き出したのかは分からないが、男はあまりの激痛に地面に蹲ってしまう。
その頃、当事者にも関わらず完全に蚊帳の外になっていた『戦場の戦乙女』一行は好機と見た。
周囲の盗賊達は突然の展開についていけず、未だ行動を移せないでいる。
アルマはレイとニーナに合図を送る。
ニーナは静かに馬車の中へと移動していく。 馬車の中へ入ったのを期にアルマとレイは行動を移す。
レイは御者台の方へ駆けていく。 さすがの盗賊も気づいたのだが、行かせまいとアルマが道を阻む。
レイは御者側にいた二人の盗賊を持っている槍を振り回して素早く片付けた後、商人の妻を襲おうとしていた盗賊を突き殺そうとしたのだが、流石にここまで時間があれば嫌でも気がつく。
男は「動くな!」とナイフを首に突きつけて、商人の妻を人質にする。
「くっ卑怯な……!」
「へへへ、いいか……動くんじゃねぇぞ……」
首にナイフを当てながら、馬車の中へ下がろうとする。
しかし、馬車の中には既にニーナが待機していたのだ。
状況を察したニーナは、前を向きながら下がってくる男の頭目掛けて、両手にもっている杖を全力で振りかぶった。
「ええーい!」
ガコンと大きな音を立てた盗賊の男はナイフを落として気絶した。
気絶したのを確認したレイは、ニーナに後を任せてアルマの元へ駆けつけた。
アルマは3対1なのもあり防戦一方であったが、レイが駆けつけてくれたお蔭で立場が逆転する。
レイとアルマは幼少の頃から冒険者に憧れており、武術の訓練は欠かせなかった。
ずっと一緒で訓練もやっていたので、二人の連携は息ぴったりだ。
アルマは1番右にいる盗賊を斬り殺し、レイは1番左にいる盗賊を突き殺す。
真ん中の盗賊を挟み撃ちにし、逃げられないようにした。
頭を除いて最後の1人となった盗賊は、命はさすがに欲しいのか武器を地面に落として降参する。
伊達に冒険者業はしていない。 盗賊に甘い所は見せないのか、レイは槍の持ち手側を素早く振り回し、降参した盗賊の首元に打ち付けた。
打ち付けられた盗賊はそのまま意識を失い地面に崩れ落ちる。
その頃……盗賊の頭はどうなったかというと、相も変わらず地面に蹲り転がっていた。
銀髪の幼女は無表情のまましゃがみ込み、盗賊の頭を観察している。
悠斗は状況が飲み込めず、突然出てきた謎の幼女に困惑するしかない。
しかし、そんな状況も時間が経つ事で冷静になってくる。
光が収まると突然現れた謎の少女。 確信はないが、自身が「く……くぁ……くわせ……ふじこぉぉぉぉぉぉぉ!」と叫んだ事で現れた。
そうなると、この幼女はもしかして……。
「――ふじこ?」
と呼んでみた。
地面に落ちていた木の枝でツンツン突きながら遊んでいた幼女は動きを止めて悠斗の方へ振り向いた。
相も変わらず無表情のまま悠斗の方へ顔を向けてコテンと顔を傾ける。 あまりの無表情に何を考えているのかは全く分からない。
だが、ふじこと呼んで振り向いたのであれば、彼女は自分が発動したスキルなのだろう。 何故幼女の形をしているのかは分からないが……。 そう悠斗は考えた。
さて、これからどうしたものか。 この幼女、どうしたらいいのだろうかと考えていると馬車の近くで戦闘が行われていた。
可愛らしい少女達が剣や槍を持って大の男に果敢に立ち向かっている。
あんな細い腕のどこにそんな力があるのだろう。 剣や槍を振り回しては鎧を着ている娘に限っては、そんな重装備で何故早く動き回れるのか不思議でない。
「あっ……」
悠斗は盗賊の男が斬り殺される所を目撃してしまった。 ようやく現実感が湧いたのか、ここがゲームでも何でもなくて現実なんだと察すると胃液がこみ上げてきた。
「うっぷ」
そんな悠斗の姿を見た銀髪幼女は立ち上がると悠斗の背後に回って背中をナデナデと繰り返している。
「おげぇぇぇぇぇぇぇ」
銀髪幼女にまで気が回らない悠斗は胃の中の物を吐き出した事でようやく理解する。
『俺はもしかして、神様でもよく分からないスキルを与えられて異世界へ適当に放り出されただけではないか?』という事実を。
悠斗よ、大正解だぞ。
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