第39話 サハギン戦
ガッチガチの戦闘回です。
ニーナの補助魔術が発動すると同時に戦闘が開始された。
水に落ちたサハギンも再び水中から上がると悠斗へ敵意をむき出しにする。
「俺は正面2体を受け持つから、アルマとレイは左右の奴らを頼む」
「任せなさい!」
「ああ、お前もヘマをやらかすんじゃないぞ」
「言われなくても!」
悠斗は自身に向かってくる2体のサハギンだけに集中させる。
残り2体のサハギンはアルマとレイを完全に信頼しているため意識から外したのだ。
「(1体ずつ確実に仕留める。……まずは左の奴から仕掛けるか)」
そう心の中で決めた悠斗は正面左にいるサハギンへ向かって剣を真っ直ぐ振り下ろす。
サハギンは鱗に覆われた左手で剣を受け止める。
「やっぱ不意打ちじゃなければ受け止められるよな……なら!」
悠斗はすかさず右足を軸にして左足を使ってサハギンの腹部を蹴って距離を空ける。
正面右にいるサハギンはそんな悠斗に向かって、鋭く伸びた爪で悠斗に攻撃しかけるが。
「忘れてねぇよ!」
攻撃してきたサハギンの鋭い爪を小盾で受け止めると同時に。
「ふじこ!」
悠斗は後ろに振り返らずふじこの名前を呼ぶ。
彼女は悠斗がやってもらいたいことがわかるのか、腹部を蹴られてよろめいたサハギンに向かって『みずてっぽう』を放つ。
真っ直ぐ向かうふじこの『みずてっぽう』は、よろめいていたのもあり顔面に受けてしまう。
ダメージはあまりないが、絶え間なく顔面に向かってくる『みずてっぽう』の勢いが邪魔で思うように動けない。
悠斗はその間、目の前で鍔迫り合いをしているサハギンに集中する。
「(何か弱点は……!)」
近くでサハギンを見ているのもあり、首元に鱗で覆われていない所が見つかる。
「(ここなら!)」
悠斗は小盾に体重を乗せ、爪で攻撃してきたサハギンをそのまま一気に押し返す。
「うぉぉぉぉぉ!」
全力で体重を乗せた悠斗の行動と勢いの飲まれてしまい、サハギンは仰向けに倒れてしまう。
サハギンが行動を起こすよりも前にすかさずまたがり、剣先をサハギンの首元へ向けると一気に振り下ろした。
振り下ろされた剣先はサハギンの首元へ深く突き刺さり、引き抜くと濃紫の血が勢いよく吹き出していく。
その頃アルマの方はというと。
***
「(サハギンか……厄介ね。悠斗は大丈夫かしら?)」
アルマは厄介と考えつつも、悠斗のことを心配する程には余裕がある。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
サハギンに接近したアルマは悠斗の剣よりも少し細く長い剣を華麗に操り、素早く連撃を繰り返す。
しかし、アルマの斬撃はすべてサハギンの鱗で弾かれてダメージが通らない。
「(やはり文献で読んだ通り私の剣ではサハギンの鱗は通らないか……ならば!)」
アルマはより剣速を速め、サハギンに行動をさせない。
「(より速く……速く……速く!)」
どんどん剣速が上がっていくアルマの斬撃。
1つ1つが大したことなくとも、それらはサハギンの鱗に小さなキズをつけていき、やがて無視できないダメージになってしまう。
アルマを切り裂くように伸ばした両手の爪も、どんどん速くなっていく剣速による斬撃は鋭くなっていき、遂には折れてしまった。
気づいた時には鱗で覆われていたはずの全身は傷だらけになっており、身体中から濃紫の血が流れている。
たまらず膝をついてしまい、息も絶え絶えになっていた。
『グ……グギャ……』
サハギンが見上げると、そこには剣を構えたアルマが立っている。
「龍族を除けば目は硬くないはずよね……? じゃあ――さようなら」
サハギンにとってアルマが放った最後の言葉は『死の神』の言葉に聴こえただろう。
アルマはそう一言告げると、剣先を目に向けて一気に突き刺した。
『ガ……グギャ……』
細長い剣は目を貫き、その奥にある脳をも掘り進み、剣先が後頭部から突き出る。
深く突き刺した剣を乱暴に右に振ると、剣は内部から頭蓋骨を斬り裂き、濃紫の血と脳漿を外気にぶちまけた。
剣の支えがなくなったサハギンはゆっくりと横に倒れていき、その生命を終わらせる。
「さて、後は……」
片付いたアルマはサハギンに目も向けず、悠斗とレイの方へ顔を向けた。
***
悠斗とアルマがまだサハギンと戦っているころ、誰よりも速く終わらせたのがレイだ。
ハインを父にもつレイは『戦場の戦乙女』のアタッカー。
近接戦闘においてはアルマよりも強い。
彼女の持つ武器は刀。
この世界でも刀は存在しているが、扱いが難しいため使っている者は少ない。
どこからか流れ着いた者が造ったと言われるが真相は定かでなく、造りも普及している剣より特殊で時間がかかるため、刀を作れる職人が少ないのもあり普及に待ったをかけている。
そんな刀に魅了されている者達が『コルニクス家』。
悠斗の様にどこからか流れ着いた者を祖に持つ『コルニクス家』の者達はみな刀を愛用している。
もちろんハインの娘であるレイも刀を愛用していた。
彼女の刀はそこらの鍛冶屋が造った物ではなく、『コルニクス家』が代々受け継いでいる一振り『ライキリ』。
初代が造ったとされるこの刀は、この世界独自の鉱石で造られた玉鋼と魔術処理を施された特別な一振りで斬れるもの者はないと云われている。
そんな刀を鞘に収めたまま、レイは手を柄に添えて体勢を低く構えた。
その体勢から動かない彼女を見たサハギンは、レイが臆したと勘違いして一直線に向かってしまう。
1歩……2歩……レイとサハギンの間が人間1人分の距離に縮まり、伸ばした鋭い爪を両手を上げて切り裂こうとしたその時。
「鳴け、『ライキリ』」
甲高い金切り音が鳴り響くと同時に、レイとサハギンが交差する。
金切り音が鳴り終われるころ、レイはサハギンの後ろに立っていた。
いつの間に移動したのか、彼女はサハギンの後ろに立ったまま、振り返ることもなく刀をゆっくり鞘に収めていく。
『ライキリ』の刀身が鞘に収まると、レイに向かっていたはずのサハギンは両手を上げたまま胴体から真っ二つに崩れ落ちていった。
書いててすごく楽しかったです(満足)。