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第3話 くぁwせdrftgyふじこlp

「へへへ……もう我慢できねぇ」


「いやっ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 商人の妻が盗賊の男の餌食になろうとしたその時、森の茂みからガサガサと何かが出てくる音がする。


 そう、この物語の主人公『三島 悠斗』である。


 悠斗が森を抜けた先に見たものは、WEB小説の異世界物でよく読む出来事。


 お世話になっている『小説を書こう』、通称書こう系と言われるWEB小説にありがちな展開で、馬車が盗賊に襲われており、そこへ主人公がチート能力を使って颯爽と解決してトントン拍子にお話が進んでいくのだ。


 これをオタク達の間では書こうテンプレと呼ばれている。


 アニメやライトノベルを愛する悠斗もこの光景は小説で読んだ事があるのだ。


 当然……。


「書こうテンプレきたぁぁぁぁぁぁ!」


 このようにテンションが上がる。


 完全に悠斗だけ場違いの空気を醸し出しているのだが、テンションが上がっている為それに気が付かない。


 この場にいる全員が突然現れた不審者(悠斗)を唖然と見つめている。 急な展開に皆動けないでいた。


 そんな悠斗は警戒心0のまま堂々と真っ直ぐ歩いていく。 余りにも堂々としたその姿に盗賊達も冒険者達も緊張を高めていく。


 『突然現れたこいつは何者なんだ?』と。


 冒険者は新手の敵なのか? と緊張を高め、盗賊達はこの駆け出しの仲間、もしくは高ランクの冒険者か? と訝しんでいる。


 もし高ランクの冒険者だとしたら厄介だと思っていた。 高ランクの冒険者になると、信頼度は勿論のこと強さも駆け出しとはわけが違う。


 複数人の盗賊を相手に堂々と歩いて向かう程余裕がある強さの者、Dランク以上の者だと非常に厄介この上ない。 たった一人で複数の盗賊なぞ皆殺しにできてしまうのだ。


 そんな彼ら彼女らの内心なぞ露とも知らない不審者さんこと悠斗は予想外の言葉を口にした。


「とっ盗賊さんですよね、始めまして『三島 悠斗』と言います」


 堂々たる挨拶である。


 堂々たる綺麗なお辞儀も忘れない。 馬鹿だが礼儀正しい日本人の血を受け継いでいる悠斗は顔をニッコリ笑顔。


 某ハンバーガーチェーンの店員もこの笑顔なら100点満点をあげるだろう。


 そんな不審者(悠斗)は前に手を出して盗賊の(かしら)を見つめる。


 突然の意味の分からない行動に盗賊の(かしら)は理解が追いつかない。


「あの……。 握手してもらってもいいですか?」


 悠斗は緊張していた。


 これは決して相手が盗賊だからというわけではない、気分は突然芸能人と出会った時に声をかけてみたのと同じである。


「おっおう……」


 理解が追いついていない時に突然の握手の要求を盗賊の(かしら)は飲んでしまった。


「いやぁ~すごいガッチリしてますね。 腕の筋肉も凄いですし、どんなトレーニングしてるんですか? 盗賊ガチ勢は違うな~」


「ガチ勢?」


 聞いた覚えのない単語が出てきたが悪い気はしない。 多分褒められているのだろうと盗賊の(かしら)は解釈した。


 そして盗賊の答えはこうだ。


「トレーニングは毎日日課の筋トレに、子分共を食わすためにやってる狩りだ。 もちろん魔物と殺し合ったり冒険者共を襲うの忘れない。 感が鈍るからよ」


 忘れない内に言うが『三島 悠斗』はアホであるが、自分語りをする盗賊も大抵アホである。


「ガチ勢が何かは知らねぇがよ、お前……俺様に憧れてるっつう訳か? かぁ~俺も有名になったもんだぜ! 何なら俺の盗賊団に入れてやってもいいぞ」


 アホな盗賊の(かしら)である名も無きこの男はやっぱり馬鹿であるのだ。 そうでなければ盗賊業なぞやっていない。


 そんな彼の誘いに悠斗はこう返した。


「え? 嫌っすけど」


 あっさりとした答えに、完全に周囲の空気が固まった。


 固まった空気をこじ開けたのは、勿論頭の血管をピクピク浮き出している盗賊の(かしら)だ。


「……あ”? ちょっと耳が悪くなっちまったか。 嫌って聴こえたんだが?」


「合ってます合ってます。 俺初めて盗賊に会ったんすよね。 だから一度は盗賊のしかも(かしら)って呼ばれてる人と握手してみたかったんですよ。 だって盗賊って言ったら序盤で俺みたいなチート主人公にボコられる運命っていうか、それ以降ただのモブで二度とこうして序盤のボスキャラみたいな立ち位置で出てくる事ないじゃないですか」


 ニッコリ0円スマイルな笑顔で早口言葉でまくし立てるこの男(悠斗)は馬鹿だ。


 いや、馬鹿を通り越して頭がおかしいと言っても過言ではない。


 そんな彼は重大な事を忘れている。


 別に()()()()()()()()()()のだ。


 確かに悠斗は専用スキルをもらったが、未だにこのスキルの使い方が分からず、ましてやステータスは決して高くない。


 この世界のステータスの平均値は知らなくても、普通のゲームに置き換えて見ても平凡なステータスである。 ゲームによっては雑魚まである。


 つまりは悠斗は盗賊に出会うというイベントと巡り合った事で、自分がチート主人公だとすっかり勘違いしていたのだ。


 勘違いする所なぞ無いのにも関わらず、綺麗さっぱり専用スキルさえ未だ使えてない事を忘れる愚か者なのである。


「チートだが何だか知らねぇがよ、馬鹿にされてるっつぅのは分かる」


 額に青筋を立てて怒り心頭のご様子、当然である。


 誰だって怒るしキレていい。


「ふはははははは! 馬鹿め! 喰らえ、俺のスキ……ル……あっ」


 馬鹿はお前(悠斗)である。 ようやく、自分がスキルを未だに発動できていない事を思い出したのだ。


 盗賊の(かしら)は身構えていたのだが、悠斗は「あっ」という言葉と共に顔からは汗をダラダラと流している。


 相手が非常に状況が悪いのだと、アホな盗賊の(かしら)も察した。


 そしてこいつが非常に馬鹿だということもだ。


「俺のスキルが何だって? おい……」


 手をボキボキと鳴らして1歩前へ詰めると悠斗も1歩後ろに下がる。


 まさに綺麗なダンスを踊ってるように盗賊は前へと進み悠斗は後退していくが、それも長くは続かない。


 いつしか背は木の柱とくっついていた。 もはや下がる事はできない。


「いや、ちょっと待ってください。 ちょっとした――そう! ちょっとしたジョークですよ!」


 ニッコリ0円スマイルを決めたのだが、さすがにもう通用はしない。 男の両手が悠斗の首元に伸びていき、筋骨隆々とした両腕で首元を掴み上げ、そのまま悠斗を持ち上げる。


「ちょちょちょちょ!」


 『ちょっとまてよ!』と某アイドルの様に言いたいのだろうが、非常に焦っていてそれどころではないのだろう。


 どうにかしてこの境地を切り抜けようと少ない脳みそで知恵を絞り出そうとするのだが、これといって案は出てこない。


「盗賊が絶対にやられちゃいけねぇことって知ってるか?」


「なっ何ですかね……舐められてはいけない……とか?」


「おう、分かってるじゃねぇか」


「正解したし、景品に手を離してほしいな~って」


「残念だったな。 景品は俺の拳だ!」


 盗賊の(かしら)が片手に持ち替え、空いた右手を強く握りしめる。


 悠斗は必死に考える。 しかし妙案は出てこず、この状況を切り抜けるにはやはり唯一持っている『文字化け』したスキルを使用するしかない。


 しかしスキルは未だに発動した事がない。 何故ならば文字化けしていて読めないからだ。


 必死にこのスキルの名前を解読しているのだが、読めないものは読めないのだ。


 男の拳が悠斗の顔の直撃しようとしたその時、一か八かの賭けに出た。


「く……くぁ……くわせ……ふじこぉぉぉぉぉぉぉ!」


 果たしてこれが正解だったのか、悠斗から眩しく光が輝きだす。 光は周囲に広がっていき、やがて周囲の盗賊達も冒険者たちも包み込む。


 光はすぐに収まり、周囲の光景は元に戻るのだが、1点だけ違う所があった。


 悠斗の側に見知らぬ幼女が立っていた。

次回、ついにメインヒロイン?登場



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