第36話 船乗りの男
「ここがマリーディア海蝕洞ね……」
マリーディアから西の方へ船で進み、岸沿いへと進んだ所にある謎の洞窟。
この辺りに住んでいる人は絶対に近づかないとされている場所。
どうやら『海龍リヴァイアサン』と言われる魔物が昔から住み着いているとか、『精霊』が住み着いているといった不確かな噂が絶えない。
その昔はマリーディアを拠点としている冒険者が足を運んだらしいのだが、誰一人帰ってこないので今じゃもう誰も近づかないとか。
なぜ悠斗達がそんな所にいるのかというと、もちろんアールスからの調査依頼を進めた結果ここに辿り着いた。
さて、時は少し遡る。
***
アールスの屋敷を出たアルマ達は
「それでどうするよ? 調査」
どこから手を付けていいのかわからない悠斗はアルマ達に相談する。
当然アルマ達もどうするか具体案が出てこず……。
「ひとまず港の方へ行って聞き込みしてみる?」
アルマの一声に異論が出なかった一行は港の方へと足を運んだ。
港では多数の船が停泊しており、船に荷物を載せたり降ろしたりとみんな忙しそうにしている。
ちょうど祝賀祭の時期なので他国からも船が多く、いつもより忙しくて中々相手をしてもらえない悠斗達。
相手をしてもらったとしても。
「なんだ? 冒険者か……にしてはべっぴんばかりじゃねぇか」
「一晩相手してくれるなら考えてやってもいいぜ! へへへ」
「おいおい、こんな弱そうなやつなんかより俺らの相手をしてくれよ!」
とばかりで一向に調査は進まないどころか妨害されるばかりだった。
そんなこんなで少し休憩にと港の端の方で海を眺めると悠斗は愚痴をこぼす。
「なあ……この街っていうかこの世界の船乗りはみんなあんなんばっかなのか?」
「そんなわけないじゃない……とは言いたいけれど……」
そう考え込むアルマに変わってレイとニーナが。
「以前父上に連れられて来た時は、確かもっとこう……陽気だが活気あふれるいい街だったはずだ」
「そうですね~。変わったといえば、前領主様一家がお亡くなりになられた事故からじゃないですか」
「事故?」
「はい。詳しいことは知らないですが、どうやら一家揃って外遊に出られた際、船が遭難されたらしいのです」
「一家揃って!?」
「はい。といっても当時赤子だったスペード様だけはお屋敷に残っていたため生きていますけど」
「でも今はえっと……アールスさんが代理で治めてるんだよね?」
「はい。お亡くなりになった前領主であるジャック様が事前に仲の良かった大商家であるアールス様に代理を頼むと書類を残されていたみたいなんです」
「書類だったら誰かが偽装とかできるかもしれないんじゃ?」
「書かれてある文字の癖がジャック様のものと同じだったのと、押されていた領収印が本物だったらしいのです」
「あ~だから今アールスさんが代理で治めていて、生き残りであるスペード様……だっけ? が大きくなった後に譲るってことになってるのか」
なるほどな~と悠斗は考えるものの、今調査している内容には関係ないので頭の隅に追いやる。
「ほらっ! 今はそんなこと関係ないでしょ。調査の続きを初めないと」
「とは言ってもよ、肝心の船乗りがアレだぜ?」
船乗りに話しかけた時の光景を思い出して苦虫を潰した様な顔になるアルマ達。
結局調査の進展がないまま海を眺め黄昏れており、ふじこはしゃがみ込みながら海水を見つめている。
「落ちるんじゃないぞ~」
ふじこに注意した後、悠斗もアルマ達と同じく海を見て黄昏れる。
「「「「はぁ~……」」」」
声を揃えるように4人がため息をついたその時、背後から誰かが近づいてくる足音がした。
振り向くと、肌が空の光で焼け焦げた肌黒い色をした男がやってくる。
男は振り向いた悠斗達に声をかけた。
「お前さんがた、こんな所で黄昏れてどうしたんだい?」
背格好からしてどうやら船乗り、もしくはこの辺で働いている人だろうと思った悠斗は、船の失踪について訪ねてみた。
「ん~そうだな……。確かに最近海の様子がおかしいと船乗り仲間の間で噂になってるが……そうだな、関係あるかわからないが」
「おっさん、何か知ってるのか!?」
悠斗達のテンションにちょっと引き気味ながら男は思いついたことを話す。
「マリーディア海蝕洞って知ってるかい?」
男の質問に首を横にふる悠斗。
アルマは考え込みながら。
「名前と噂ぐらいなら聞いたことあるわ」
「噂?」
アルマの言葉に首を傾げる悠斗。
「ええ。確か『海龍リヴァイアサン』と言われる魔物や『精霊』が住み着いてるとかなんとかっていう洞窟のことよ」
「は? そんな魔物が住み着いてるとかこの街大丈夫か?」
「だから誰も見たことがないので噂って呼ばれてるのよ」
「なるほどな……そのマリーディア海蝕洞だっけ? がどうしたんだよ」
アルマの言葉に納得した悠斗は船乗りの男へ続きを促す。
「そのマリーディア海蝕洞に巨大な海龍みたいなやつが向かっているのを俺は見たんだよ」
「詳しく聞かせてもらえる?」
アルマが興味を示すと、男は下手くそな演技を交えながら話だす。
「昨夜のことさ……俺は毎夜船の上で酒を飲むのが日課でさ、のんびり酒を飲みながら星を眺めてたわけよ。洒落てるだろ?」
半目になる悠斗達を他所に気分良く話す男。
「酒に揺られてるのか、それとも船に揺られてるのか、さいっこーに気持ちよくなってきた時だ」
「絶対酔ってただけだろ」
「まぁ聞けってボウズ。何か大きい影が通り過ぎていったんだよ。気になった俺はその影を追いかけていったんだが……でっけぇ『海龍リヴァイアサン』みたいなやつが海面から姿を現した。いきなりだったから一気に酔が冷めちまってよ、慌てて逃げきたってわけだ」
自分の話を全然信じてもらってないと思った男は。
「おっその目は信じでないな? その『海龍リヴァイアサン』はマリーディア海蝕洞に向かったわけなんだが、どうだ行ってみないか? もしかしたらそいつが最近噂になっている失踪事件の犯人かもしれないぞ」
「そもそもなんで見たことないのにおっさんは『海龍リヴァイアサン』だってわかったんだ?」
「あんな大きい魔物なんて『海龍リヴァイアサン』に決まってるじゃねぇか! あっボウズ……お前冒険者の癖に日和ってるな?」
男の煽りにカチンときた悠斗は。
「は? そんなわけねぇだろ! っていうか何で俺が冒険者ってわかったんだ」
「そりゃお前……武器に防具つけてるってことは冒険者に決まってんだろ?」
「騎士かもしれないじゃん」
「ガハハ! お前みたいな弱そうな奴が騎士様なわけねぇだろ。笑わせんな!」
そう言ってガハハと豪快に笑う男を見た悠斗は頭きたのか。
「俺が弱そうだって……?」
「そんなに言うなら試してみるかい?」
「試す?」
「おう! 俺がマリーディア海蝕洞まで連れて行ってやる。お前さんに度胸があるなら……だけどな。どうだ、行ってみるか?」
「行ってやろうじゃねぇか!」
「ガハハ! 決まりだな。んじゃ船を出してくるからちょっと待ってろ」
そう言って男は去っていく。
そんな悠斗と男の背中を見てアルマ達は。
「「「はぁ~……」」」
ため息をつくのであった。