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第34話 高級宿

 港街マリーディアにある大通りを進み、上り坂を少し進んだ所で馬車は止まる。


 小高い坂の上に建てられたキズ1つない真っ白で大きな石造り。


 青い色をした屋根で統一された建物が並ぶマリーディアの中で一際目立つルビー色をした屋根は存在感と高級感をもたらせる。


 ここが悠斗達の泊まる宿泊先であるホテル『ルーベル』。


 マリーディアの歴史と共に建てられたこのホテルはこの街1番の高級宿だ。


 従業員の教育もきちんとされており、そこら辺の貴族に仕える使用人よりも質がいい。


 そんなホテルに泊まれるのも王族であるローゼリアのお陰だろう。


馬車から飛び出した悠斗が『ルーベル』を見上げると。


「なんだこれ……すごいなふじこ。俺達今からこんな所に泊まるんだぞ?」


 そう言って悠斗はふじこを肩車させた。


 いつもどおり無言ながらも、なんだかわくわく楽しそうなのか足をバタバタさせている。


 そんな2人をよく思わない者達がいた。


 今回ローゼリアの護衛としてついてきた騎士達だ。


 貴族……それどころか王都市民ですらない素性もわからない冒険者を、たとえアルマ達のパーティーメンバーだからといって一国の王女であるローゼリアが行く今回の旅路に同行させるのは当然ながら反対だった。


 騎士であることに誇りを持っている彼らにとって、自らの主である一国の姫を護衛する任務は誉れになる。


 だからこそ騎士でもなければ平民ですらない冒険者風情が護衛として雇われていることに憤慨するのは至極当然だった。


 もちろんアルマ達は例外だ。


 彼らも黙っていたわけではなく、当初は異議を申し立てたのだが……上層部、つまりマルクスとルインの命令に一騎士でしかない彼らが従わざるを得ないことで彼らがとった行動は『無視』。


 声をかけることもなく存在しない者として扱うことにしたのだ。


 もちろんそんな彼らの態度に機嫌を悪くする悠斗であったが、アルマ達やローゼリアから事情を聞けば納得するというもの。


 ただ現在でも変わらない彼らに申し入れをしようとしたローゼリアだったが、それを悠斗自身が固辞。


 自分が相手の立場なら同じ様な気持ちを抱くだろうなと思った悠斗は、彼らに申し訳ない気持ちはありつつも、相手の行為を受け入れるようになった。


 今では今回の旅で彼らの印象を少しでもよくできるようになればいいなと思い、悠斗は今回の旅で『騎士の皆さんと仲良くなる』というのを自らに課した課題としている。


 しかし今の所成果は出ていない。


 ちなみにふじこはと言うと、浮世離れしているお人形の様な容姿をしていて、ローゼリアが大変可愛がっているのを何度も目にしているため、騎士達もふじこは貴族のお嬢様のように接している。


 汚れのない綺麗なドレスを着ているため、彼ら彼女のことを異国のお嬢様、もしくはお姫様と勘違いしているのだ。


 さて、他の騎士達やアルマ達、ローゼリアも馬車から降りた所で宿の支配人と従業員が待ち構えていた。


「第3王女ローゼリア様、遠路はるばるお越しいただき、誠にありがとうございます」


 丁寧な物腰で挨拶を済ませた宿の支配人は手振りで従業員に合図を送る。


 その合図を見た従業員は馬車から荷物を引き出すと、建物の中へ入っていく。


「荷物の方はお部屋の方へお運びしております。そのあいだこちらへどうぞ」


 支配人の誘導にしたがって建物の中へと入ると、そこには広大なエントランスが広がっていた。


 金の装飾がほどこされたルビーの様な絨毯。


 白を基調とした室内の中には今まで見たことない豪華な調度品の数々が飾られている。


 まさに王宮の様だが、決して品がない豪華さではなく、ここ『ルーベル』がただの宿ではないことが伺えた。


 そんなエントランスを抜けて真っ直ぐ通路を進んだ所にある大きな部屋へと通される。


 先行していた従業員がドアを空けると支配人も横に並び。


「ただいまお部屋の準備をしておりますので、こちらで少々お待ち下さい」


 悠斗達が部屋の中へ入ると、従業員がお茶や焼き菓子などを素早く配膳していった。


 悠斗達が席に座るのを見た支配人は、従業員と静かにが下がっていく。


「えっ……ここってもしかして応接室? ここで生活できるじゃん」


 そう驚くのは悠斗だけ。


 アルマ達3人もローゼリアもふかふかのソファーで寛いでいた。


 ふじこはローゼリアの隣に陣取って焼き菓子をもぐもぐ食べている。


 護衛の騎士達はみな立っているのだが、みなその表情は変わらない。


「なんでみんな落ち着いて……ってそうか。みんな身分高いしそりゃ慣れてるよな」


 勝手に驚いて勝手に納得した悠斗はうんうんと頷く。


「ふじこちゃんを見習ってあなたも落ち着いたらどう?」


 もぐもぐと食べているふじこを見る悠斗。


 その視線に気づいたふじこはお菓子を食べながらも悠斗を見返す。


「いや、こいつは単にお菓子があるから落ち着いてるだけだぞ」


 悠斗の言葉にふじこは人差し指を向けると。


「まさか……!?」


 指先から『みずてっぽう』を放つふじこ。


 不意の攻撃は悠斗の顔面に直撃し、仰向けに倒れていく。


 満足したふじこはお菓子をモグモグと食べる作業に戻っていった。


「なんだかこれ……久しぶり……」


 久しぶりに受けたふじこの『みずてっぽう』は以前よりも威力が増していた。

ああ、こんな豪華な宿に泊まりたい!

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