第33話 港街マリーディア
新章開始です!
「ここが港街マリーディアか」
あれから一月程だろうか。
月日は流れ、こうして悠斗達は港街マリーディアに来ていた。
馬車から見える街並みの風景は悠斗にとってすごく新鮮で、この世界で見る2つ目の街。
王都と違って海から流れる潮風の匂い。
新鮮だなーと思い深呼吸する悠斗と違って、匂いなれてないふじこは顔をしわしわにさせている。
「ふじこ、お前なんだか実写版電気ねずみのしわしわ顔にそっくりだぞ。いつもの無表情はどうした?」
などと言ってるが本人には伝わらず、でも馬鹿にされていることだけは理解しているふじこは今日も元気に足蹴りをする。
「いってぇ!」
足の脛を抑えながら悶絶する悠斗。
そんないつも通りのふじこだが、実は浮足立っている。
彼女も女の子。
初めてのお出かけというのもあり、マルクスから貰った『うさぎの髪飾り』を髪につけてオシャレをしているのだ。
悠斗と同じく王都かその周辺ばかりだったので馬車で遠出をしたことがないから浮足立つのも当然だ。
内心ウキウキワクワクでいっぱいだった。
そんな2人のコントは今回の旅でも変わらず……しかし、周囲は誰も反応しない。
今ではすっかり2人のやりとりに慣れていた。
そんな悠斗一行はいつものメンバー……なわけがなく、それなりの人数。
ローゼリアはもちろんのことお付きのメイドに護衛の騎士が6名。
それに加え今回護衛兼世話役としてアルマ達3人と実質おまけとして悠斗とふじこ。
馬車3台分の御者も加えると総勢16名でここマリーディアにやってきた。
もちろん目的は旅行……なわけがなく、ローゼリアが『マリーディア祝賀祭』に参加するためである。
「にしても足より腰と尻が痛い……」
「貧弱ね……」
そんなアルマの声に。
「仕方ないだろ? 乗り慣れてないんだから……にしても、よくラノベでクッションやサスペンションを作る同郷の気持ちがよく分かるわ」
俺も本格的に内政チートに手を出した方がいいのか? などと悠斗は考えているが、当然サスペンションの作り方なんて知らない。
せいぜい「金属をグルグル巻いてるやつ」ぐらいの知識しかない彼に、サスペンションを使った内政チートは不可能だ。
「サスペンション? なによそれ。もうちょっと詳しく……」
興味津々なアルマの声も虚しく、悠斗はそんなことなどどうでもいいのか綺麗サッパリ忘れたのか、馬車の小窓から見える青い海に年甲斐もなく大興奮。
「楽しみですね、ローゼリア様!」
とローゼリアに声をかけた。
さすがに公の場となるので、普段のローザ呼びではなくローゼリア様と言うように気をつけている。
そんな子供っぽい悠斗を笑いながら、話しかけられたローゼリアは。
「えぇそうですね。行きましょうか悠斗」
ローゼリアの声に応えるよう御者の方から執鞭で叩く音が鳴った。
***
一行が街の中へ入ってすぐ、裕福そうな体格と服を着た男が複数の女性を連れて待ち構えていた。
男の背後に立っている女性達はみな整った顔をしていて、服装を見るに使用人みたいだ。
一行が馬車から降りると。
「ギュフフ。お待ちしておりました第三王女ローゼリア様。本日は遠いこの地に足を運んでいただき……おや?」
ギュフフと笑うこの男はこの街の代理領主を勤めているアールス。
現在この港街マリーディアではこのアールスという男が街を代理で治めている。
そんなアールスの笑い声を聞いた悠斗は、「(リアルで『ギュフフ』なんて笑う人間をはじめて見た……)」と顔を引きつらせていた。
ギュフフと笑った男はふじこを見ると興味を示したのか凝視してしまう。
ふじこはそんな男の視線が嫌だったのか、ローゼリアの後ろへ隠れてしまう。
「この子のことは気にしないで。少し恥ずかしがり屋だからあまり見ないでもらえるかしら」
ローゼリアはそう言ってふじこを男の視線から隠して庇う。
少し睨みつける様なその視線は、今までローゼリアが悠斗に見せなかった冷たい目をしていた。
彼女の言葉に怯んだ様子もなく。
「(第三王女が庇うこの少女は一体……?)」
内心訝しがりながらも、その心情を読まれないよう笑顔のまま丁寧な物腰で頭を下げる。
「これは大変失礼致しましたローゼリア様。……さて、こんな所で話すのも何ですし、わが家……いえ、マリーディア邸まで起こしいただけないでしょうか」
「いえ、もう今日は疲れたから宿でゆっくりしたいの」
そう固辞するローゼリアだが。
「それでしたら是非マリーディア邸までお越しいただければと。部屋は用意しておりますので」
と言い再度マリーディア邸へ招待するのだが、ローゼリアは。
「そこまでアールスに頼るわけにはいきません。それに宿はこちらで手配しているので大丈夫です」
その言葉でアールス呼ばれた男は引き下がった。
「不躾で失礼致しました。それでは今後の日程等について明日にでもこちらの者に伺わせますので」
「ええ分かりました。それではみなさん行きましょう」
ローゼリアはアールスへ早々に返答すると馬車に戻っていく。
彼女達を乗せて走り出した馬車を見送るアールス。
宿へ向かうであろうローゼリアが乗った馬車を見届けると、歓談中変えなかった笑顔が消え、その目は鋭くなる。
決して王族には見せてはいけない表情に変えたアールスは口を開くと。
「ちっ面倒な女だな……それにしてもあの幼女はどこのご令嬢だ?」
アールス自身にしか聴こえないほど小さな声でボソリと呟いた。
実写版電気ねずみのしわしわ顔をしたふじこちゃん見たい!