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第31話 聖女の定義

 マルクスは語る……セレナが聖女と言われる所以を。


「神の存在……声?」


「悠斗君、貴方は一体何を言ってるんだ? という顔をしてるね」


「うぐっ!」


 マルクスの指摘に顔を歪める悠斗。


「ふふっ。神から遣わされた君がそんな顔をするなんてね」


「確かに俺はトゥリアナ様のお陰でこうしてここにいられるわけなんですけど……それはそれ、これはこれというか……」


「ふふ。まぁ何も知らない君から見ればそう思うのも不思議ではないか」


「っていうことは理由が?」


「あぁ。それは彼女本人から話してもらった方がいいだろう」


「そうですね。私も悠斗さんみたいに他の人にはないスキルがあるんです」


「もしかしてそれが……聖女と言われる?」


「ええ。私だけが持っているスキルの名は『天啓』。このスキルのお陰でこうして今では聖女と呼ばれているのです」


「へ~。ってことは昔からトゥリアナ様の声が聞こえていたんですね」


「そうですね。……でも昔はこのスキルが嫌いだったんですよ」


 人差し指を口に当てて「秘密ですよ♪」と言うセレナ。


「悠斗さんの世界ではどうだったか分かりませんが、この世界の人々は皆7歳になると『成人の儀』を行います。そこで初めて自身のステータスを見ることになるのです。しかし私は孤児だったので7歳になっても成人の儀を行えませんでした」


「えっ行かなかったんですか?」


「ふふっそうではないんですよ。この世界は皆が皆優しい人ばかりじゃないんですから。――それはもちろん私が所属している『トゥリアナ聖教』も」


「セレナ様!」


 セレナの発言を止めようとするニーナ。


「ニーナ……別にいいのですよ。事実ですから……でもあの時の経験があったからこそ私は孤児院を経営しているのですから」


 そこからセレナが語るのはかつての過去。


「スラムの孤児だった私も成人の儀というのはなんとなく分かっていましたが、それは一般の市民である子供が受ける儀式でスラムの子供である私には関係がなく、当時の教会は私の様な境遇の子供を立ち入るのを断っていました」


 そう語りだすセレナは昔の事を思い出しているようで少し追想にふける。







 物心がつく頃には既に両親はなく、スラムでその日の食料を得る事が精一杯。


 そんな私の当時の悩みが『天啓』による神のお告げ。


 時折聴こえる謎の声は私にしか聞こえず、回りの孤児達もそして回りの大人達も私には近づかずいつも独りぼっち。


 気味悪い子供の噂が広まるのに時間はそこまでかかりませんでした。


 近づくだけで暴力を受ける事も多くなり、段々とその日の食料を得るのが難しくて飢えていくばかり。


 その謎の声に怯えていた私は段々と苛立ちに変わっていきました。


 ある日その噂を目的に商人がやってきました。


 もちろん真っ当な商人ではなく奴隷商人。


 スラムで気味の悪い子供がいる。


 その噂を目にした奴隷商人は売れると考えたのでしょう。


 食料もなく、痩せ細った私は抵抗なんてする力もなくあっけなく捕まります。


 捕まえた孤児がどんなスキルを持っているのか調べる為、奴隷商人は私に成人の儀を受けさせました。


 教会にある神像の前でお祈りをした時、奇妙なことに神像が輝き出したのです。


 これを目撃した当時の司祭様は私を見て神の子だとおっしゃり、奴隷となる予定だった私は『トゥリアナ聖教』に引き取られました。


 私が自分のステータスを見ることができたのはこの時が初めてで、謎の声が『天啓』と呼ばれるスキルなのを知ったのもこの時です。


 人生を諦めていた私は一転。


 『トゥリアナ聖教』から教育を受け『天啓』の声に耳を傾ける日々。


 ある時とある教会でシスターをしていた私はいつものようにお祈りをしていました。


 しかし普段と違った現象が起きたのです。


 普段よりも強く光る神像から光のモヤが広がっていくではありませんか。


 そのモヤは徐々に大きくなり、不思議なことに私を包み込むように広がっていきます。


 不思議なことにその光は暖かく、優しく抱かれているように感じました。


 そしてその光は私達の主神である『トゥリアナ』様だというのがなんとなく分かるのです。


 その理由は今でもハッキリとは言えないのですが、もしかしたら『天啓』のお陰かも知れません。


 その後、輝く神像の前で祈るその光景を見た人々は私を聖女と呼ぶようになっていくようになりました。







「これが聖女と呼ばれるまでの過去、そしてその光を私は『神気』と呼ぶようにしました」


 語り終えたセレナは悠斗、その背後に目を向けて。


「その神気ががふじこちゃん……そして悠斗さんから見えるのです」


「えっ!?」


 セレナの目線から背後だと感じた悠斗は後ろを振り向くが、変わった様子はなく背景が見えるだけだった。


「今までそういった人は1人も見かけたことがございません。だから私は悠斗さんが神の御使いだと思ったのです。それよりも……」


「それよりも?」


「トゥリアナ様はどのようなお姿をされていましたか」


「どのような姿か……」


 そう思い出す悠斗はあの不思議な空間にいたトゥリアナの姿を思い出すが。


「ん~男のような女のような……こうハッキリと認識できなかったんですよ。声も男性と女声の声が二重に聴こえるというか……すみません、きちんと答えられなくて」


「ふふ、いいんですよ。トゥリアナ様の御姿どころかお声までお話いただけるなんて……優しいのですね悠斗さんは」


 セレナの笑顔でくらっときそうになった悠斗は恥ずかしさを誤魔化すように悠斗はセレナの手を取って顔を近づける。


「セレナさんの為ならこれぐらいお安いご用ですよ」


 イケメンにしか許されない行為をしてみた。


「あう……あう……」


 先程悠斗がセレナと自分のおでこをくっつけるという行為をしていたがために、セレナは顔を茹でダコの様に真っ赤にさせた。


 案の定そばにいるニーナは怒り。


「何をしているんですか! この! この! ケダモノ!」


 近くにあったクッションを使い、悠斗の顔をめがけ投げつける。


 悠斗はそれを抵抗せずに受けるも、内心「(無自覚、無防備、そしてチョロい。大丈夫かこの聖女は)」と考えていた。


 その光景を見ていたのは当然ながらニーナだけではなく……。


「いつから悠斗は女ったらしになったのかしら」


 アルマとふじこは揃って並んでジト目で見みており。


「こいつだけ追い出した方がいいのではないか?」


 そう言いながら悠斗の左耳を引っ張るレイ。


「聖女になんてことを。ここは私……いえ王家を代表して何か処罰を与えなければなりませんね」


 真剣に考えながら悠斗の右耳を引っ張るローゼリア。


「痛い痛い! ちょっちょっとした冗談じゃないか冗談」


 それを聞いたセレナは目を涙目にして。


「冗談……だったんですか。そうですよね、私なんか……」


 誰から見ても気を落としている様子に見えるセレナを見たハインは。


「ガハハ! これは坊主に責任をとってもらわんとな!」


 困った顔をした悠斗をよそに、当の本人であるセレナは「責任? 何のでしょうか……?」と困惑している。


 ニーナは「お姉ちゃんは何も心配しなくていいんだよ♪」と言いながらセレナに抱くつく。


 そんなバタバタとしながらも楽しい一時を過ごす一行だったが、マルクスの一言で終わりの時を迎える。

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