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第30話 チョロイン

「長い夜になりそうだなと思ったが、本当に長い夜だ……」


 そう零さずにはいられない。


 せっかくの飲み会だ。できれば女性と楽しくお喋りだけでもいいと思っていた悠斗だが、左隣では楽しくワインを嗜んでいるマルクスは悠斗から日本の事を根掘り葉掘り聞き回り、右に腰掛けるのはハイン。


 悠斗の肩をバシバシと叩きながら度数が高い蒸留酒をストレートでグビグビ飲んでいる。


「(こんなハーレムは要らない……)」


 男達に囲まれている悠斗はそう思わざるを得ない程辟易していたのだが、実はチラチラと視線が向いているのが気になっている。


 それはふじこの相手をしているセレナだ。


「(まさかセレナさんは俺のことが……?)」


 ここ異世界に来てついにモテ期が到来したのか!? とドキドキする悠斗。


「(あっこっちにやってくる……どうしよ、心の準備が出来ていないぞ……)」


 悠斗が左右を見るといつの間にか寝落ちしていたのか静かになっていた。


 セレナが悠斗の前にしゃがみ込むと、両手を掴みこみ下から顔を覗き込む様に顔を見上げる。


「あの……実は……」


 悠斗はゴクリと唾を飲み込む。


 緊張しているのか、飲み込んだ唾液が食道を通っていくのがわかる。


 心臓の音はいつも以上にドクンドクンと音を奏でており、緊張で今にも心臓が弾けそうだ。


 顔が紅くなっており、今か今かとセレナの言葉を心待ちにしている。


 よく見るとセレナも仄かに頬が赤くなっている様に見え、そして……言葉を紡ぐ様に優しい声が口から音を鳴らす。


「悠斗さん……いえ、悠斗様。貴方を初めてお見かけした時から……」


「ゴクリ……」


「神の御使いか何かではないかと思っているのですが、お教えいただけないでしょうか」


「ですよねー!」


 悠斗の心の中では盛大にズッコケていた。


 寝ていたと思われていたマルクスとハインは声を殺して笑っており、体が小刻みに震えている。


「ハイン……笑うのは……失礼だぞ……クスクス」


「ガハハ。し……仕方ないだろう」


「せめてもう少し聞こえない様にしてもらってもいいですかね!? 聞こえてますよ!」


「すっすまない悠斗君……クスクス」


「ガハハ! 悪い悪い、そう怒るなって。これは洗礼みたいなもんだ」


「……洗礼?」


こいつ(セレナ)の前では大体の男がお前みたいになるんだよ。しかも当の本人はなぁ……」


 セレナの頭の上には何を言ってるのでしょう? と言わんばかりに困惑した顔を浮かべている。


「もしかして聖女さんって恋愛とかそういった経験は……」


 セレナ本人に聞こえないようにマルクスとハインに呟く悠斗。


「残念な事にね……異性からモテるのだが、当の本人は昔からああだから」


「そうなんだよ。悠斗みたいなやつが何人犠牲になったか……当人に自覚無しってやつだ」


「その……皆さんや他の人は指摘したりとかしなかったんですか?」


「これでも彼女は『聖女』だからね」


「そうそう、教会の連中も本人は自覚していない方がかえって都合いいのさ」


「マルクスとハインはまたそうやって私をのけ者にして……悠斗さんまで……」


 しゅん……と落ち込むセレナを見て慌てるマルクスとハイン。


 早くなんとかしろと左右から肘で突かれ「(あんたらのせいだろ)」目で訴えたが、これは俺がなんとかしないと止まらないだろうなと思った悠斗は。


「やっぱりセレナさんは近くで見ると可愛いな2人と話していたんですよ……ね?」


「「おっおう……」」


 もっとマシな言い訳は無かったのかよ! と左右から突っ込まれる悠斗だが、それならあんたらが何とかしろよと3人でギャーギャー言い合っていたら、いつの間にか正面が静かになっており、顔を覗いてみると。


「かっ可愛いだなんて……初めて言われました」


 セレナはボソッと呟きながら顔を真っ赤にしていた。


「どっどうしたんですかセレナさん!」


 悠斗はセレナの前髪を上げておでこをくっつけて体温を測る。


 妹達がいた悠斗にとってこれは自然にやっていた行為だ。


 つい妹達やふじこと同じ様にやってしまったお陰で。


「ヒャ~~~~○✕■△○✕■△○✕■△○✕■△」


 悠斗からの突然の行為に驚いて叫んでしまうセレナ。


 突然の悲鳴でふじこの相手をしていたニーナは自身の大事な人であるセレナの異変に気づく。


「お姉ちゃん!」


 そう言いながらセレナの元へ駆け寄ったニーナは大事な人を守る様に胸の中で庇い、悠斗をにらみつける。


「おね……ゴホン。セレナ様に何をしたの!?」


「いやっ俺は何も……顔が真っ赤になったから熱が出たんじゃないかと思って……」


 内心やっちまった……と思う悠斗。


「本当に何もされてない?」


 そうニーナはセレナに問うのだが、頭を上下へ動かすマシーンとなっていた。


「ちょっと待ってください」


 そう言って後ろを振り向いたセレナは胸に手を起きながら深呼吸している。


「ひーひーふー。ひーひーふー」


「お姉ちゃん、その深呼吸はちょっと間違ってるような気がするよ!」


 ニーナのツッコミでセレナは落ち着いたのか、改めて悠斗に向きあって改めて問う。


「先程は失礼致しました。その……改めてお答えしていただきたいのですが、悠斗さんは神の御使いか何かではないかと思っているのですがいかがでしょう?」


 落ち着いたものの、まだほんのりと頬が赤いセレナ。


 改めてセレナの発言を飲み込もうとする悠斗だが、神の御使いだとかそんな崇高な存在ではない。


「まさか……そんな崇高な存在じゃないですよ。俺の事はニーナ達から聞いてるでしょ?」


「それでも悠斗さんの口から聞きたいのです。どうやってここまで辿り着いたのか」


「ん~話してもいいですけど、信じがたいことですけどそれでも構いませんか?」


「はい!」


 悠斗の両手を再度握って笑顔になるセレナ。


「(またこの人は……)わかりました、最初はいつもどおりこことは違う世界で生活していました」


 そこから悠斗はここに来るまでの出来事を話す。


 改めて説明しながら話すのだが、なんだこのWEB小説みたいな流れは……と思わずにはいられない。


「やはり貴方は……。ニーナも共に祈りましょう」


 セレナの言葉でニーナも一緒になってお祈りを初めてしまう。


「いや、あの……」


 自分に向かってお祈りを始めるセレナとニーナを見て、不思議に思う悠斗を見たマルクスは口を開く。


「彼女は悠斗君の言葉を心の底から信じているからこうしてお祈りしているのさ」


「でも……自分で言うのもあれですけど嘘かもしれないじゃないですか」


「ふふ。彼女……聖女セレナだけは違うんだ」


 そう言ってマルクスは語る。


 セレナが聖女と言われる所以を。


「彼女は神の存在を認知するのと声を聴くことができるのさ」

ちょっと聖女さんチョロすぎませんか?

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