第2話 ヒャッハー! と言えば世紀末
最序盤のイベントと言えば?
悠斗は鞄の中に入ってる赤い果実を取りだろうとしたのだが、どこからか女性の叫び声が聴こえてきた。
「ん? こっちか!」
女性の叫び声が聴こえた悠斗は、取り出そうとした果実を鞄の中へ入れて、声のある方へ全速力で走り出していく。
森を走っていくと、前方から光が差し込んでくる。
これが森の境界なのだろう。 前へ進む度に木々の本数も少なくなっていき、やがて広大な平原に出た。
森を抜けた平原の先には1本の街道が通っており、草花は生えておらず、土がむき出しになっている。
人工的に舗装されているわけではなく、人や馬車が何度も通っている内に出来上がったのだろう。
その街道の途中に一台の馬車が止まっていた。
馬車を守るように3人の武装した女性が布陣している。
剣を片手に持つ軽装な装備をする赤い髪をした長髪の少女アルマ。
杖を持ち神官服の様な物を纏った金髪ボブカットの少女ニーナ。
そして槍を持ち鎧を纏って藍色の髪をなびかせるポニーテールの少女レイ。
彼女達はいわゆる冒険者。 ギルドという所から様々な依頼を受けて金銭を稼ぐ者達だ。
今回も商人から依頼を受けたのか、もしくは道中で同席したのだろう。
そんな馬車の周囲を囲むように剣や槍に短剣などで武装した者達がいる彼らは盗賊。
生きるのに必死な彼らは街道などに出没し、商人や旅人を襲って金品を盗む。 自分達に反抗する者には容赦がなく、男は殺されるか奴隷堕ち、女性も奴隷堕ちか、盗賊達の慰め者。
自由も尊厳も奪われる。
ここが現代日本なら有り得ない事なのだが、ここは『異世界アストレア』。
魔物が闊歩し、命は簡単に失われる世界なのだ。
そのため商人は街道を進む際は冒険者を雇う事にしている。
その中でもこの街道は弱い魔物ばかりで比較的治安がいい。 冒険者も半数が新米か、それに毛が生えた程度だ。
本来なら盗賊が多いと思われるが、新米が多いので襲っても稼ぎは少なく、暇な衛兵が小遣い稼ぎに街道を警備し、見つけた盗賊を捕まえて小金を稼いだりしている。
そのため他所の土地で盗賊をやるか、迷宮都市へ赴いた方がまだ稼げるのだ。
だから今回は本当に運が悪かった。
駆け出しの新米パーティーである『戦場の戦乙女』は現在盗賊達に囲まれていた。
これは時を遡ること数刻前、丁度悠斗が「!!ステータス!!」と大きく叫んでいた時に戻る。
『戦場の戦乙女』の乙女達は商人の護衛依頼引き受けて、こうして街道を歩いている。
荒くれ者も少なくない冒険者の中でもコツコツ真面目に依頼を達成している。
今回の護衛依頼を達成すれば、駆け出しからようやくGランクに昇格する。
Gランクは冒険者の中でも最低ランクになる。 冒険者ギルドでは全ての冒険者をランク付けをしている。
1番最高ランクから順に。
SS > S > A > B > C > D > E > F > G
とあり、『SS』が最高ランクで、『G』が最低ランクの冒険者だ。
当然ランクが高い程冒険者の質が高く、信頼度も高い。 逆にランクが低い程冒険者の質も低いし信頼度も低い。
冒険者ギルドで冒険者登録をした者は例外を除いて『駆け出し』からスタートする。
『駆け出し』とは『G』ランクよりも下の扱いで、例えるなら研修期間みたいなものだ。
といっても特に期間は設けられておらず、依頼を地道にこなしていき信頼を得ていけば自ずと『G』ランクに昇格できるのだが『冒険者ランクが高い = 強い冒険者』と履き違えた者達はかなり多く、弱い魔物を『弱者』と思い込んで突撃していく『駆け出し』冒険者は多い。
そのランク名の通り駆け出して行き、帰ってこない者は後を絶たない。
少し脱線してしまったが、日本人なら目を塞いで地面を転がっているであろうパーティー名をした彼女達『戦場の戦乙女』は世にも珍しい真面目な冒険者なのだ。
そんな彼女達の評判も上々で器量も悪くない。 『駆け出し』というのもあり依頼料も低いので、口コミが広がるように指名依頼が入っていた。
彼女達へ指名依頼を出した馴染みの商人夫婦の依頼を受けた彼女たちは、いつも通り周囲を警戒しながら街道を進んでいく。
何度か同じ依頼を受けているが失敗は未だ無い。 たまにゴブリンやスライムといった低級な魔物が出てくるが、問題なく処理できる。
今回もいつもどおり依頼を達成したら、いよいよ『G』ランクに昇格。
少々浮かれているが、今回ばかりは仕方がない。 終わったら馴染みの酒場で祝杯をあげようと話し合っていたのだ。
だからといって彼女達は戦乙女、警戒は当然ながら怠らなかった。
それが幸なのか不幸なのか、彼女達の警戒網にひっかかったのだ。
いつから彼女達を尾行していたのだろうか。
盗賊と思わしき武装をした男達が武器を構えて、森の方から元気よく飛び出した。
「「ヒャッハーーーーー!」」
シリアスな流れになりそうな展開を「「ヒャッハーーーーー!」」とぶち壊したこの男達は盗賊だ。
決して世紀末的な世界から異世界転生してきたわけではなく、純度100%の現地人である。
「いくぞテメェら! 俺達の金と飯がノコノコと歩いて来やがったぜ。 しかも今回は女3人……へへへ」
「カシラ! 俺達もその……」
「わーってるわーってる。 俺様は寛容だからよ、俺様が使った後なら構わねぇぜ」
「さすがカシラ! 俺達一生付いていきますぜ!」
「ただし、分かってるよな? アレも商品になるんだから壊すんじゃねぇぞ」
「ヘヘヘ、分かってますよカシラ。 へへへ……」
自身の上唇をペロリと舐めながら彼女達『戦場の戦乙女』を下から上まで無遠慮に見つめながら1歩、また1歩と近づいていく。
盗賊達は全員で7人。 盗賊の頭を中心に左右から3人ずつ馬車を囲むように展開している。
「そこの商人と冒険者共、動くんじゃねぇぞ」
「アルマ……」
盗賊達に聴こえない様にボソっと声をかけるレイ。
「分かってるわ、レイ。 ニーナは馬車の中に隠れて」
「うっうん……」
背中を見せないようにゆっくりと下がっていくニーナ。 ニーナは神官見習いの冒険者。 パーティーの中で唯一のヒーラーで生命線でもある。
そんな彼女がいの一番にやられると本格的にまずいのだ。
「おっと、そこの神官ちゃん動くんじゃねぇぞ」
「ヒッ!」
臆病なニーナを守るようにアルマとレイは剣と槍を構えて威嚇するのだが。
「おうおう怖い怖い、威勢がいいねぇ」
「あなた達盗賊よね。 こんな事をしてタダで済むとは思わないことね」
「『こんな事をしてタダで済むとは思わないことね』だってよ。 ギャハハハハ」
「くっ……馬鹿にして!」
我慢の限界に来たのか、アルマは煽ってきた男に向かって剣で斬りつけようとするのだが。
「おぉっと、動くんじゃねぇって言ってんだろ! こいつが見えねぇのか!」
盗賊の頭は向かってくるアルマに言いながら右手を御者の方に向ける。
御者である商人の男は剣を首に突きつけられており、「命だけは……命だけは……」と命乞いをしている。
商人の妻である女は、剣を突きつけられている夫の姿を見て叫び声を上げてしまう。
「キャーーー! 貴方!」
「おっと女、それ以上叫び声を上げるんじゃねぇ! ……ってちょっと年食ってるが中々上玉じゃねぇか……へへへ。 カシラ! この女もいただいていきましょうや」
「俺の趣味じゃねぇ。 オメェ等の好きにしろ」
「話の分かるカシラだぜ!」
剣を突きつけられた商人の男は、大事な自分の妻を取られそうになり、勇気を振り絞る。
「たっ頼む! 金目の物は全部やる。 だから妻だけは……妻だけは見逃してくれ!」
「仕方ねぇな……ってんなわけねぇだろ!」
剣を突きつけていた盗賊の男は商人に鋭い蹴りを放つ。
商人は男の足蹴りをまともに受けて御者台から勢いよく落ちていく。
「貴方ー!」
「ぐぅ……」
「へへへ……もう我慢できねぇ」
「いやっ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
商人の妻が盗賊の男の餌食になろうとしたその時、森の茂みからガサガサと何かが出てくる音がする。
そう、この物語の主人公『三島 悠斗』である。
ヒャッハーーーーーーーーーーーーーーーーー!
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