第28話 あっあの……どちらさまですか? 自分は怪しい者じゃありません
数刻経った頃だろうか、食事を済ませた悠斗達はのんびりと寛いでいた。
「シルベスタさん、アルマ達って今日戻ってくるの?」
「はい、そろそろお戻りになられるかと思います」
お風呂にも入り、食事も済ませた悠斗はシルベスタからお茶のおかわりをもらい、優雅に寛いでいる。
「はぁ~至福ぅ~」
あまりにも至福の時間を過ごす悠斗はこのまま寝落ちしそうになっていたが、タイミングが悪いのか誰かが戻ってきた。
悠斗がお世話になっている『天の方舟』は宿……とは名ばかりで、実質アルマ達の自宅になりつつある『アーヴァイン家』が用意した屋敷。
ふじこと一緒にお世話となって早数週間。
戻ってくるのはシルベスタかアルマ達のどちらしかおらず、現在出かけているのは報告に行ったアルマ達。
だからこそ悠斗はアルマ達だろうと油断していたので、いつもどおりダラけた姿勢のまま声をかけた。
「おかえ……り?」
ソファから顔を逆さにして入ってきたであろう人物を見ると、いつもの女性3人の姿ではなかった。
そこにいたのは壮年の男性2人と綺麗なお姉さん。
『寝ぼけていたのか……』と思い姿勢を正して目をこすってみるが、振り返るとやはり壮年の男性2人と綺麗なお姉さん。
「……」
「「「……」」」
両者とも無言でお見合い状態。
相手はみな悠斗を品定めをするように見ており、悠斗は冷や汗を流しながらどう切り返そうか脳を全力でフル回転させている。
「あっあの……どちらさまですか?」
「それはこちらのセリフだよ。君こそ……どちらさまかな?」
「えっと……俺……あっいや、私は『三嶋 悠斗』と言います。こっちは『ふじこ』と言いまして、少し前からここでお世話になっています」
悠斗がふじこを紹介しようと前に出すのだが、足にしがみついて離れない。
顔をよく見ようと思った3人足元から見えるふじこの顔を覗き込もうとするのだが、恥ずかしかったのか悠斗の後ろに隠れてしまう。
「こいつ恥ずかしがり屋なもので……すいません、すいません」
よそ行きの顔をしながらペコペコしてい時、『きゅ~!』と言った鳴くうさこの声。
それは『自分を忘れるな!』と声に出して言いたかったのだろうが、魔物の鳴き声はさすがの悠斗も分からない。
「あっこら。面倒な時に出てくるんじゃない!」
うさこの言いたいことは当然伝わる事もなく、悠斗の腕の中で捕まってしまう。
脱出しようともがくのだが、悲しいかな魔物とはいえ小さいホーンラビット。
レベルも上がっている成人男性の腕の中から脱出できない。
「ぷっあはははは! あ~申し訳ない。申し遅れたが私の名はマルクス。『マルクス = ニル = アーヴァイン』と言う。よろしく、悠斗君にふじこちゃん」
先程までの品定めをする様な顔から一転、爽やかな顔で出迎えるマルクス。
「マルクス = ニル = アーヴァイン……? あれ、どこかで聞いたことあるような……」
悠斗が考え込んでいると、もうひとりの男がマルクスを押しのけて出てきた。
「よう坊主ども。俺の名は『ハイン = ウル = コルニクス』ハインでいいぞ、よろしくな」
そう言った男はマルクスと違って筋骨隆々。
正確にはマルクスもガッシリした体格をしているのだが、ハインの方は目に見えてムキムキ。
余談だが、悠斗は内心「(範馬○次郎かな?)」と失礼な事を考えていた。
「マルクスにハイン、2人とも……ふじこちゃんが怯えてるじゃありませんか」
そう2人に言いながら前に出てきたのは聖職者の服を纏った女性。
彼女はしゃがみこんで視線をふじこに合わせながら口を開く。
「始めまして、ふじこちゃんと悠斗さん。私の名は『セレナ = ウォルシュテッド』と言います」
丁寧に挨拶をする綺麗で美しいお姉さんに挨拶をされるのだが、そんな悠斗の視線は一箇所に集中している。
セレナの服装は聖職者が着る服なのだが、なぜだか胸元が少し空いているのだ。
そして彼女はしゃがみこんでいる……そうなると、大変豊か……いや、巨大な胸部装甲が悠斗からは見えてしまい、悠斗は石化でもしたかのように視線が固定かされてしまっている。
そんなセレナは悠斗の視線を気にしないのか、それとも気づいていないのか何とかふじことコミュニケーションを取ろうと四苦八苦していた。
そんなふじこは相変わらず悠斗の足にしがみついていたのだが、ふと彼に目線をやるとセレナの胸部装甲に目がいってる事に気づき、何故か腹がたったふじこは悠斗のふとももをつねる。
「いってぇ! ふじこ、お前なにするんだよ」
そう怒った悠斗であったが、ふじこはセレナの胸部装甲を隠すように抱きつく。
それを勘違いしたセレナは。
「あらあら♪ まだまだ甘えん坊さんよね」
そう言いながらニッコリと笑顔でふじこの頭を撫でるセレナであったが、当のふじこは彼女の胸部装甲を悠斗の視線から隠す様にしがみついているだけだ。
しがみついたふじこの顔を見る悠斗であったが、彼女は眉間にシワを寄せて悠斗を睨みつけていた。
「うっ……」
叱りつけようとした悠斗であったが、ふじこの突発な行動の理由が分かってしまい怒るに怒れない。
「ガハハ! まぁ嬢ちゃん許してやりな。男ってのはこう……ついつい目線がな……」
悠斗の肩を雑に叩くハインであったが、彼も視線がセレナの胸元にいき、鼻の下は伸びて目線どころか顔が胸部装甲へ向いていた。
普段から抜けている事が多いと言われるセレナだが、この流れとハインの露骨すぎる視線には流石のセレナも気づき。
「ハイン?」
セレナは笑顔でハインの顔見ながらの一言。
笑顔なのだが、背筋にゾクリとくるこの顔に既視感が覚える悠斗。
「じょっ冗談じゃねぇかセレナ……ハハッ……」
「この事はテレジア様にもお伝えしないといけません。そうよね? レイちゃん」
そういいながらセレナは後ろを振り返ると、アルマ達3人がいつの間にか立っていた。
セレナから話を振られたレイは。
「そうですね、セレナ様。父上、この件は母上にご報告させていただきます」
処刑宣告を伝えるレイの姿に怯えるハインは縋りつこうとするのだが。
「たっ頼む! テレジアにだけは言わないでくれ……! この通りだ!」
自らの足元に縋りつき懇願する父親を見るレイの目は、完全にゴミを見るような目をしている。
そんな親と子の図を見た悠斗は「(絶対にああはならない様反省しよう)」と心に決めた。
会話シーン長いですが、もうちょい続きます。
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順調であれば次週も更新すると思います。
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