第24話 いつものシルベスタさんじゃない!
お ま た せ し ま し た
「今戻りましたシルベスタさん」
そう言って『天の方舟』まで戻ってきた悠斗の声にシルベスタが笑顔で出迎えに来る。
悠斗はいつもいつも出迎えてくれるシルベスタに安心していた。
まだこちらの世界に異世界転生してから短い日々だが、少しずつこの世界の流儀や常識にもなれていく。
側にはいつもふじこがいるが、時折元の世界に残していた両親や妹、それに友人の事を思い出すと寂しくなる時がある。
そんな悠斗の感情にシルベスタは気づいているのか、いつも笑顔で出迎える彼女の顔を見た悠斗は『帰ってきたんだな……』と実家の様な安心感を覚えるのだ。
だがしかし、今日はいつもと違った。
正確に言えば同じだったのだが、言葉も笑顔も悠斗のとなりを見て固まった。
「おかえりなさい、悠斗さ……」
「どっどうしたんですか? シルベスタさん」
「そっそれはこちらのお話ですよ! なっ何故ローゼリア様が……ここに!」
「ふふっ。久しぶりねシルベスタ」
動揺しているシルベスタの姿が可笑しかったのか、「ふふふ」と笑いながらローザ……もといローゼリアは呑気に手を振っている。
「悠斗様! 一体どこで拾ってきたのですか!」
「いや、それは……洞……」
圧の強い顔で迫るシルベスタに圧倒されながらも話そうとした悠斗の声を遮る様にローゼリアは声を上げる。
「『拾ってきた』だなんて酷いわシルベスタ……しくしく」
演技にもなっていない下手くそな泣き真似を見て狼狽をするシルベスタ。
普段の彼女なら当たり前ながら見破っていたのだが、動揺しすぎて世界が終わった様な顔をしている。
「もっ申し訳ありません! ――ってなんで私が謝っているのですか!」
謝ったものの、冷静に考えればシルベスタは何も悪くない事に気がついた。
「ふふふっ。そういう所昔と変わらないわね」
そう言いながらローゼリアは長年のカップルの様に自然と隣にいる悠斗の腕と自分の腕を絡ませて身を寄せた。
悠斗の空いている右手にはふじこと繋がれており、その姿はまるでカップル……もとい若い子連れ夫婦の様にも見える。
「なっ! ローゼリア様とあろうお方が何をなされているんですか!」
悠斗とローゼリアの腕を引き剥がそうとシルベスタが間に入る。
あっさりと腕を解いたローゼリアの胸の感触がなくなり、少し勿体なさを覚える悠斗。
「あらっ。もしかして……嫉妬?」
口に手を当てて、むふふと笑うローゼリア。完全にシルベスタをおもちゃにして遊んでいる様だ。
「違います!」
間髪入れず即答するシルベスタの返答に地味にショックを受ける悠斗であった。
そんな悠斗を他所にキャーキャー騒いでいるローゼリアとシルベスタ。どうやら劣勢なのはシルベスタの様だ。
「はぁ……はぁ……」
「うふふ♪ そんな事よりもシルベスタ、こんな所で時間を食っていいの? そろそろ中へ入りたいのだけれど」
ローゼリアの慈悲なのか哀れみなのか、それとも単に飽きただけなのか……おそらく後者であろうローゼリアはシルベスタに問いかけた。
「はっ! そうです、こんな事をしている場合ではありません。私は少し用事を思い出しましたので中でお待ちになっていてください」
ローゼリアの言葉で冷静になったシルベスタはそう言い残すと一例をして王城の方へ駆けて行くのだが、途中で止まると踵を返して戻ってきた。
眉間にシワを寄せてローゼリアと悠斗を睨みつけると。
「勝手にどこかへ消えてはダメですよ。絶対……ぜ~ったいにですよ!」
「心配性ねシルベスタ。今日はもうどこへも行かないわ」
「今日はじゃなくて普段から勝手にどこかへ行かないでください!」
そう言い残してシルベスタはもう一度王城の方へ走っていく。
メイド服に身を包んでいるのにも関わらず、その走る速度は速くあっという間に姿が見えなくなった。
「行っちゃったな、シルベスタさん」
「ふふっ。少しからかい過ぎたかしら。戻ってきたら謝っておかないと」
悠斗とローゼリアがシルベスタの走った方を見ていると、悠斗の手がふじこに引っ張られる。
「おっそうだな、ふじこ。そろそろ中へ入るか。行こうかローザ」
「えぇ、そうしましょう悠斗」
天の方舟へ歩きだす悠斗とふじこ。
ローゼリアは少し立ち止まると小さい声で言葉を紡ぐ。
「もう少し……もう少しだけ……」
名残惜しそうにその温もりを右手で確かめる様ギュッと握りしめる。
「何か言った?」
少し前を歩いていた悠斗は振り向きながらローゼリアに話しかけるが。
「いいえ、何でも」
そう言って何かを誤魔化すかの様に笑顔になったローゼリアは、悠斗の隣に並んで歩きだす。
順調であれば次週も更新すると思います。
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