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第22話 涙の後はハッピーエンド

新年一発目の更新です。

今年もよろしくお願いいたします。

 叫んでいた声は鳴り止み、変わりに悠斗の胸を涙で濡らしていくふじこ。


 そんな彼女をあやす様に悠斗は優しく語りかける。


「ほらっそんなに泣いてたらホーンラビットだって悲しむぞ?」


 ふじこの瞳からこぼれ落ちていく涙を優しく拭っていく。


「行こう、ふじこ。あいつ(ホーンラビット)の所に」


 悠斗はふじこを抱えたまま横倒れたホーンラビットの元へ向かう。


 ふじこが小さな手で体を揺すっても反応はない。


 悠斗の命を救ったホーンラビットは即死を免れていたが、すでに虫の息だ。


 このままだと時期に息を引き取るだろう。


 勝手についてくるこのホーンラビットに情が移ってはいけないと思い、悠斗は名前をあえて考えなかった。


 それでもこの魔物はふじこから離れず、彼女を守るナイトに。


 そして自分の命を使ってまで悠斗を守った。


 そんなことをされて『情が移らないはずないじゃないか』と悠斗は思っており、ふじこの手前涙だけは流さない様に我慢している。


 こんな時にニーナがいたらこのホーンラビットは助かっただろうと考えると、自分達だけでここへ来る選択や行動をした自分を悔やんでしまう悠斗。


 回復魔法が使えるわけじゃない。


 異世界に来ても、俺は何もできないままなのか。


 命の恩人である小さな命1つすら助ける事ができず、悔しさと自身の無能さ加減に心が挫けそうになる悠斗。


 魔法が使えないのであれば、念の為にポーション等の回復薬準備しておくべきだった。


 駆け出しダンジョン、しかもふじこのスキルで何とかなると思っていた結果がこれだ。


「ポーションさえあれば……ポーション……ポーション!?」


「助かるかもしれないぞふじこ!」


 その言葉にピクリと手を止めるふじこ。


 カバンの中をガサガサ探る悠斗。


「これじゃない……これじゃ……あった!」


 取り出したのはポーションの原液3本。


 そう、これは商人夫婦からもらった物。


 原液というのもあり、回復量は中級ポーション並みにある。


「これなら……!」


 悠斗は瀕死のホーンラビットの口にポーションの原液を2本流し込み、残りの1本を体の傷口に振り掛けた。


「どうだ……」


 悠斗とふじこが祈る様に見守る。


 するとホーンラビットがピクリと動き出す。


『きゅっきゅ~ん……』


 弱々しくも鳴くホーンラビットは、ふじこの小さい手をペロペロと舐めている。


 目を見開いたふじこは堪らず抱きかかえる。


 もう絶対に離さないといわんばかりに抱きしめ、ホーンラビットの体に顔を埋めている。


 傷が塞がったばかりのホーンラビットは、堪らず『きっきゅ~ん……』と苦しそうに鳴いているが、それでも構わずに抱きしめるふじこ。


「ほらっこいつ(ホーンラビット)が苦しがってるだろ?」


 そう言いつつもふじこの頭を撫でて笑顔にする悠斗。


 ふじこを泣かせたんだ、これぐらい我慢してもらおうと内心考えていた。


 悠斗はもうこの魔物を家族の様に思っていて『名前を考えてやらないとな』と考えていたその時、背後から声がかけられる。


「あの……」


 剣の柄に手をやり、素早く振り返るとそこには街娘の恰好をした女性が立っていた。


「あっ……」


 戦闘と瀕死になっていたホーンラビットの件もあり、この女性の事をすっかり忘れていた悠斗。


 少し人見知りがちなふじこはホーンラビットを抱えたまま悠斗の後ろに隠れる。


「ごっごめんなさい、急に声をかけて脅かしてしまったみたいで」


「いや、俺の方こそ怖がらせてごめん。俺は悠斗。それで後ろに隠れてるのが妹のふじこだ」


「わたくし……いえ、私はローザと言います。本日は助けていただいてありがとうございます」


 頭を下げてお礼を言うローザ。


 ローザは街娘の様な恰好をしており、長くて綺麗な金髪に蒼い瞳。


 顔立ちはかなり整っておりスタイルもいい。


 出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる。


 まさに美女と言っても差し支えない美貌をしていた。


 アルマ達も美女であるが、ローザはそれ以上の容姿をしている。


「あの……どういたしましたか?」


 ボーッとしていた悠斗はローザの言葉に慌てて目を覚ます。


「あっいや、その……ローザさんはどうしてこんな場所にいるんですか?」


 貴方に見惚れていました……なんて口に出せる様な男ではない悠斗は、話を誤魔化すので精一杯だった。


「ふふっこんなに気持ちいいお天気ですもの。お昼寝ぐらいしたくなりますわ」


「あっ……え?」


 違う、そうじゃない。


 確かにこのボス部屋は春の様な気温で過ごしやすく気持ちいい。


 これが平和な街中だったらお昼寝もいいかもしれない、しかしここはダンジョンの中なのだ。


 決して街娘がお昼寝に来ていい場所ではない。


「そうですよね、こんなにいい天気だったら昼寝しちゃいますよね……って違ーーう!」


「ふふっこんにちはふじこちゃん」


「もう俺の話聞いてないし……」


 『何なんだこの人……』残念美人だなと内心思ったが口には出さない。


「ローザさんは見た所……冒険者……には見えないですね」


 武器も防具も見当たらなく、それどころかバッグさえ見当たらない。


 どうやってここまで来たんだ? と悠斗は疑問に思った。


「はい、ただの王……」


「王?」


「街娘です!」


「絶対うそでしょ」


 目が左右に泳いでおり、どう考えても怪しかった。


「街娘です!」


「街娘じゃないですよね?」


「街娘です!」


 どう言っても『街娘です!』で通そうと思っている様だ。


 悠斗は諦めて話題を変える。


「もう街娘でいいですよ……それでどこから来たんですか?」


「それは……あら?」


「どうしました?」


「実は秘密の抜け道を通ってこちらに来たのですが、見当たりませんね……」


 「おかしいわ」と言いながら首を傾げている。


「秘密の抜け道?」


 ローザが指さす方向へ顔を向けても壁しか見当たらない。


 悠斗はペタペタと壁を触るが、とくにいたって変化はない。


「本当にここから来たんですか?」


 訝しむ悠斗にローザは頬を膨らませてご立腹の様だ。


「本当ですよ! 失礼な悠斗さまなんですから!」


「ぷっ……あはは」


 自分は怒っているのに笑いだす悠斗を見てローザはますます怒りを露に出す。


「何が可笑しいんですか!」


「ごめん、本当にごめんなさい。だってその膨らました頬を見てると全然怖くないんですよ。怖いどころか可愛くて……くくく」


「かっかわ……!」


 急激に赤くなっていくローザの顔を見て、悠斗は「あっ」と自分が言った事に気が付いて顔が赤くなっていく。


「……」


「……」


 お互い沈黙をしてしまい、妙な空気が流れる。


 急に黙り込む2人の顔を見たふじこは顔をしかめていく。


 沈黙が空気を包み込む中、ふじこが悠斗の足を足蹴りしたのを機にローザが沈黙を破る。


「そっそういえばふじこちゃんが抱いているその魔物は?」


 明らかに話題を変えようとしているローザにそのまま乗っかろうと思った悠斗も


「こっこいつは角が折れてる以外はただのホーンラビットだけど、なんていうか俺の命を助けてくれたいい魔物なんです。いや、魔物なんですけど家族みたいな奴っていうか何ていうか……」


 得意な話題になると突然早口になるオタクの様になる悠斗だが、ローザは馬鹿にせず微笑みながら言葉を出す。


「魔物……本来は敵同士なのに、家族って何だかすごく平和で私は好きですね……この子の名前は?」


 ローザの優しい微笑みに悠斗の心臓がトクントクンと音を奏でる。


 『恋をした』そうハッキリと思った悠斗であったが、その想いを隠す様にふじこを見る。


「そっそういえばこいつの名前を考えていなかったな……どうする?」


 自分の顔が熱くなっているのがわかる悠斗は、それを隠すようにふじこへ話をふる。


 悠斗がふじこへ問いかけても、一言も返さないのは分かり切っていた事だ。


 その場凌ぎにしか過ぎないのだが、今の悠斗にはこれで精一杯だった。


 案の定ふじこは黙ったままだが、いつもと少し様子が違う。


 地面をキョロキョロとして何かを探し出す。


 落ちていた木の枝を拾い、小さな手でギュッと握りしめて何かを書きした。


 今まで見たことない変化に悠斗は戸惑う。


 ふじこが書き終わるのをジッと待っていた悠斗はそれを見る。


 ふじこは力作なのか『ムフー!』と鼻息を荒くしていた。


「え~なになに? う……さ……こ……」


 ふじこが書いていたのは日本語で『うさこ』。


「お前いつの間に文字を書けたんだ。にしてもふじこらしい名前だな」


 ふじこの頭を撫でる悠斗。


 『こいつ、少し表情が豊かになったんじゃないか?』と思うぐらいふじこは少し嬉しそうにしていた。


「しかしふじこ、こいつの性別を知ってるのか?」


 そういって悠斗は『うさこ』と名付けられたホーンラビットを抱き上げる。


 下腹部に目をやると付いている。


 立派なオスのホーンラビットだ。


「ふじこ、本当に『うさこ』でいいのか? こいつオスだぞ?」


 コクリと頷くふじこを見た悠斗は、ホーンラビットに語り掛ける。


 魔物と人間、言葉は話せないが、自分達の言ってる事はなんだか分かってるような気がしてるのだ。


「お前『うさこ』って名前にさせられそうなんだがこのままでいいのか?」


 このままだとオスなのに『うさこ』と名付けられるのは可哀そうだ。


 「訂正するなら今しかないぞ」と語り掛ける悠斗であったが、当のホーンラビットは。


『きゅ~♪』


 どうやら気に入った様だ。


「……まぁ本人が気に入ってるならいいか。ってことでこいつの名前は『うさこ』です」


「私はローザです。よろしくね『うさこ』ちゃん」


『きゅ~♪』


 差し出されたローザの手に自身の顔をこすりつけるうさこ。


「それにしても……これは悠斗様の住んでいた国の文字ですか?」


「そうですよ。日本語って言う俺達の国の文字です」


「私達が話す『トゥリアナ語』以外にもあるんですね。良ければどちらから来たのか教えていただいてもよろしいですか?」


「えっとジパングって言う国で、東のずっと先にの方にあるんですけど……こんな所で話をするのもなんですし、戻ってからにしましょう」


 これ以上突っ込まれたら困ったことになる悠斗は話を打ち切る事にした。


「私ったらいけない。そうですね」


 しゃがみ込んでいたローザに手を出す悠斗。


 ローザは悠斗の手を取り立ち上がると「ありがとう、悠斗様」とお礼の後に続けながら話す。


「私は街娘なんですから気軽にローザと呼んでください」


「俺の方こそ、様付けなんてしなくていいですよ。悠斗と気軽に呼んでください」


「はい、()()()! ……あっ!」


「様付けは要らないって言ってるじゃないですか()()()()() ……あっ」


 どちらからともなく笑い合う悠斗とローザ。


「改めてよろしく、ローザ」


「こちらこそ、よろしくお願いします悠斗」


「それでは戻ろうか、王都に」


 そう言って歩きだす悠斗は『うさこ』と名付けられた1匹の魔物と街娘? のローザを連れて王都に戻るのだった。

2020/01/17時点でストックなくなりました。

再開まで今しばらくお待ち下さい。


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