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第21話 巨大な敵と暴走

初めてのボス戦

 新しくホーンラビットを仲魔に加えた悠斗とふじこ一行。


 今までの進行ペースと変わりなく、淡々と進む。


 道中現れるスライムやゴブリンにコボルトも問題なく悠斗とふじこの連携で処理していく。


 『ホーンラビットが現れた時はどうしよう』……と悠斗は考えていたのだが、仲魔のホーンラビットは他の魔物と変わらず、ふじこの前に立ち威嚇している。


 その姿はさながらナイトの様だった。


 同種族が倒されても気にする様子もなく、暇があればふじこに頭を擦りつけて甘えている。


 なお、現在まだ名前を付けてない。


 名前を付けてしまったら悠斗自身も愛着が湧いてしまうと考えたからだ。


 戦闘以外も特に何も起きず、ダンジョンといえば宝箱なのだが、1階でフードを見つけた以降は何も見つからない。


 ペースが落ちることもなく、淡々と進み続けて現在は5階層。


 重圧の扉の前に立っていた。


「如何にも……って感じだな」

 

 金属でできた重そうな大きな扉が悠斗達の目の前に立ちはだかる。


「さて、お前等準備は万全か?」


 コクリと頷くふじこに『キュ~♪』と鳴くホーンラビット。


 余談だが、ホーンラビットの怪我はすでに悠斗がポーションを飲ませて治している。


 魔物にも効くのか? と思ったのだが、きちんと効果はあった。


「それじゃ行くぞ!」


 『おー!』という返しが返ってくるはずもなく、悠斗は気にせず扉を開ける。


 扉は地を揺らす様な音を鳴らし、悠斗達を迎え入れる。


 土塊の壁に変わりないが、この部屋からは地面から草花が咲いている。


「洞窟の地下なのに何で草花が咲いてるんだ?」


 室内の気温も程よく、春の季節の公園にいるようで心地よい。


 『ここがダンジョンじゃなければゆっくり昼寝でもするんだけどな』と心の中で愚痴りながら歩いていく悠斗。


「一気に広くなったな。順当に行けば、ここがボス部屋のはずなんだが……」


 悠斗は周囲を見渡すがそれっぽい影は見えない。


 ふじこは飛んでいる蝶々に視線を奪われて呑気にしている。


 ホーンラビットも気持ちよさそうな顔をしながらピョンピョンと跳ねていた。


 悠斗達が扉から真っすぐ進むこと半刻ぐらいだろうか。


 小高い丘が見えてきた。


「あそこまで上がってみるか」


 『あの小高い丘から見渡せば、何かみつかるかもしれないな』そう考えての行動だ。


 丘に上がる悠斗とふじこ。


 悠斗はさっそく周囲を見渡す。


「何でこんなに大きいんだよ……ん?」


 少し奥の方で人が横たわっているのを見つける。


「ふじこ、あそこに倒れてる人がいるから行ってみるぞ」


 悠斗はふじこを抱えると、少し駆け足ぎみで丘を降りていく。


 近づいていくと女性だというのがわかる。


「何でこんな所で倒れてるんだ? しかも完全に場違いだし……」


 女性の姿は冒険に出る様な服装ではなく、街娘の様な恰好をしているのだ。


「んぅ……」


 悠斗達の足音で気が付いたのだろう、女性が目を擦りながら起きだす。


 まだ視線はぼーっとしており、彼女は単に寝ているだけの様だった。


「はぁ……何だ寝てただけか……」


 安心したのか、悠斗は駆け足を止めてふじこを降ろす。


 倒れているのではないのであれば、急がなくていいだろうと思ったのだ。


 まだ彼女とは距離がある。


 こんな所に女性一人寝ているなんて不自然だ。


 少し警戒しながら進む事にした悠斗。


 ゆっくり歩こうとしたその時、悠斗達の上空に突然影が差してきたと思ったら、何かが悠斗達を飛び越えてきた。


 その何かは地面に着地すると地を揺らしながら土煙を巻き起こす。


「うわっ何だ!?」


「きゃっ!」


 土煙が止んだ先に立っていたのは、巨大な魔物が立っていた。


『グギュー!!』


 大きな鳴き声に慌てて目と耳を塞ぐ悠斗とふじこ。


 目を開けると、そこには見上げる程巨大なホーンラビットだった。


「ホーンラビット……? いや、にしてもデカくない? まさかとは思うが、お前の親とかじゃないよな?」


 ふじこの傍から離れない小さいホーンラビットに目を向けるが、顔を左右に振っており関係ないようだった。


「まさかここのボスってこの巨大なホーンラビットか? 聞いた話じゃボブゴブリンだった様な……」


 クルヴィスから事前に聞いている情報によると、この駆け出しダンジョン最下層にいるボスは『ボブゴブリン』が1体。


 普通のゴブリンよりも強く、体格も成人男性ぐらいと大きくなっているが、所詮はゴブリンに変わりない。


 今の悠斗でも倒せるぐらいの強さであり、最悪ふじこのみずてっぽうを使えば瞬殺できるぐらいの魔物だ。


 そう思っていたのだが、蓋を開けてみればゴブリンどころかホーンラビットだった。


 しかも見上げる程大きい。


 悠斗が剣を抜いて構えようとしたその時、巨大なホーンラビットが先に動き出す。


 巨大なホーンラビットは自分から一番近い女性に向かって、巨大な手を振り下ろそうとした。


 悠斗が駆けつけようにも、巨大なホーンラビットの攻撃の方が先に届くだろう。


 間に合わないと思った悠斗はふじこに指示を出す。


「ふじこ、巨大なウサギさんにみずてっぽうだ!」


 いつも通りふじこの指先から高圧の水が巨大なホーンラビットを斬りつけようとするのだが、突然巨体が悠斗とふじこの目の前から消えた。


「は? 消え……ぐわ!」


 目の前から突然消えた……わけではない。


 巨大なホーンラビットは素早く上に飛び上がっただけだった。


 しかも今度は狙いを攻撃してきた悠斗とふじこに決めたようだ。


 消えたと思ったら、突然目の前に現れた巨大なホーンラビットは前足を大きく振り上げて悠斗とふじこを殴りつけようとした。


「危ない!」


 巨大なホーンラビットの後ろから女性の叫び声が聞こえてくる。


 突然の事に回避行動が間に合わない悠斗とふじこ。


 咄嗟にふじこの後ろ襟を掴んで横の放り投げた。


 ふじこの体重は軽い。


 悠斗のレベルも上がっており、片手で幼児一人を投げるぐらいの力はあるのだ。


 巨大なホーンラビットの攻撃がどれぐらいあるか分からないが、自分が庇うよりも横に放り投げた方がいいと悠斗は考えた。


 ふじこを放り投げた悠斗は、咄嗟に両腕を交差させて頭を庇う。


 しかし巨体から放たれた腕は成人男性である悠斗を軽々と吹き飛ばす。


「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」


 地面に何度も叩きつけられながら吹き飛ばされる悠斗。


 両腕で頭だけでも守っており生きているようだ。


「ぐっ……痛てぇ……けどレベルが上がってるお陰で我慢できるな」


 といいつつもダメージを受けた時に現れたHPゲージを見ると20%程減っていた。


 投げ飛ばしたふじこの方へ顔を向けると、ホーンラビットがクッション代わりにふじこを守っていた様だ。


「立派なナイト様だな……」


 少しふらつきながらも立ち上がる悠斗。


「へへへ……」


 剣の柄をしっかりと握り、鞘から抜いて構える。


「これだよこれ! 痛てぇけど……異世界って感じがしてきたぁぁぁぁ!」


今までのヌルい戦闘とは違い、はじめて出会った強敵に悠斗は興奮しているようだ。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」


 足に力を入れて強く踏み込む悠斗。


 地を乱暴に踏みつけながら、その速度を増していく。


 巨大なホーンラビットへ真っ直ぐ向かう悠斗は足を止めずに剣を構えた。


 対するホーンラビットも自身へ向かってくる小さい生き物の敵意を感じとり、後ろ足で立ち上がると前足を構えて迎撃の体制に移る。


 両者は互いの射程圏内に入ったと認識したのは同時。


 ホーンラビットは前足を振り下ろし、悠斗は斜めから逆袈裟に剣を叩きつける。


「ぐっ……重いな……」


 巨大なホーンラビットの爪と悠斗の剣が鍔迫り合いをしている。


 しかし相手の方が体格もデカく、体重の乗った前足の攻撃で徐々に押され始める悠斗。


 彼は興奮しているが、決して相方の存在を忘れない。


 悠斗は大きな声を出して幼女の名を叫ぶ。


「ふじこぉぉぉぉぉぉ!」


 ふじこと名のする幼女は立ち上がると、巨大なホーンラビットと鍔迫り合いをしている悠斗に顔を向ける。


 自分のやる事が分かっているのだろう。


 コクリと顔を上下に動かすと、指先を巨大なホーンラビットに向けた。


 高圧の水が再び巨大なホーンラビットに襲いかかる。


 悠斗と鍔迫り合いをして避ける事ができずに直撃すると感じた巨大なホーンラビットは、左前足で防ごうとするのだが、高圧の水は強く斬り裂いて傷口から血飛沫が吹き出す。


 深く斬り裂かれた痛みに巨大なホーンラビットは鳴き声をあげる。


『ギュオォォォン!』


 自身に傷をつけたより小さな生き物を脅威と感じた巨大なホーンラビットは、ふじこに向かって駆け出そうとするのだが、それを悠斗は見逃さない。


「あんな小さい幼女に敵意を向けるんじゃねぇよ!」


 悠斗から視線を外してしまったのがいけなかった。


 ふじこに視線を向けた隙に悠斗は持っている剣を水平に構え、無防備に晒しているお腹へ一突き入れる。


『ギュオォォォン!』


 深く突き刺された剣の痛みに巨大なホーンラビットはもだえ苦しむ。


 傷口から吹き出す血飛沫が顔にかかるのも気にせず、悠斗はもっと深く突き刺そうと剣の柄を強く握りしめて奥へ奥へと突き刺していく。


 巨大なホーンラビットもやられぱなしではない。


 体を強く回転させて、剣を握りしめる悠斗を振り回す。


 『離すもんか!』と剣を強く握りしめて絶えていたのだが、遠心力には逆らえず手を離してしまう。


「しまった……!」


 吹き飛んでいく悠斗は受け身を取りながらゴロゴロ地面に転がっていく。


 すぐに立ち上がろうとするのだが、少し目を回していてフラついてしまう。


 巨大なホーンラビットもこの部屋の主としての矜持がある。


 体制を低くし、額にある巨大な角を悠斗のいる方向へ向けた。


「危ない! 早く逃げて!」


 名も知らない女性からの声に反応して巨大なホーンラビットへ顔を向けるが時はすでに遅く、今すぐにでも悠斗を突き殺さんと、その強靭な後ろ足で地面を蹴り上げようとしていた。


「やっべ……!」


 もう逃げられない。


 『あんな大きい角で貫かれたら、ひとたまりもないな』と考えた。


「俺の負けか……」


 その呟きと同時に巨大なホーンラビットは悠斗に向かって一直線に飛んでくる。


 悠斗は目を閉じて諦めようとした時、何かが悠斗に向かって飛んできた。


「ホーンラビット……!?」


 ゆっくり……ゆっくりと世界が流れるような錯覚に陥る。


 悠斗とふじこは過ごした時間が僅か。


 それでも彼と彼女に情愛を感じた感情は本物だった。


 角が折れたホーンラビットは、同族である巨大なホーンラビットではなく、悠斗を守ろうとしたのだ。


 人に懐いたホーンラビットも魔物。


 その体当たりは成人男性を吹き飛ばすぐらいの威力はある。


 悠斗の体は巨大な角で貫かれることもなく、ホーンラビットの体当たりで体が横に吹き飛んでいく。


 目撃してしまう。


 自分の変わりにホーンラビットが巨体に飲み込まれる姿を。


「ホーンラビットォォォォォォォ!」


 そして、その姿を見たのは悠斗だけではなかった。


 そう、ふじこもその瞬間を目撃していたのだ。


「;kjァsdsjン;vsljcmgh:かlsふぁsdぅjふぃおjl;せあsdjふぃshゔsp;あc;いじlfj;いlvjlksjdvgdkはゔぁfんjkdsh!」


 声にならない音を口から叫び取り乱すふじこ。


「ふじこぉ!」


 痛む体に鞭を打ち、それでもふじこの元へ駆け出す悠斗。


 取り乱したふじこは、無数の魔法陣を召喚する。


 巨大なホーンラビットを囲むように現れた無数の魔法陣が展開されると、光の線が照射される。


 照射された光の線は巨大なホーンラビットの体を易易と貫いていく。


 次々と穴だらけにされた巨大なホーンラビットは二度と立ち上がる事ができず、声も出さずに倒れていった。


 それでもふじこの攻撃は止まない。


 存在を消滅させようとしているのかふじこの魔法が止まることはなく、悠斗はもう見てられないとふじこに語りかける。


「ふじこ、もういい、もういいんだ!」


 未だに声にならない音を口から叫ぶふじこをギュッと抱きしめる悠斗。


 想いが届いたのだろうか。


 少しずつ正気に戻っていくのと同時に、展開された無数の魔法陣も光の粒子に変わりながら溶けてなくなっていく。


 その光景は泣き止んだ幼女の涙のようだった。

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