第1話 あれ? 俺のスキル文字化けしてない?
ここは『創造神トゥリアナ』が創ったとされる異世界アストレア。 グルーム大陸のとある街の街道に隣接する森の中、ここに一人の男が立っていた。
名を『三嶋 悠斗』26歳独身。 どこにでもいる普通のサラリーマン。 最近の悩みは、後4年経つと魔法使いにジョブチェンジする事だ。
本来ならスーツを着ているはずの男は、ファンタジー世界の旅人の様な服装を纏っている。 決して裸ではない。
腰にはベルトが巻かれてあり、鞘に収まった一振りの片手剣がベルトにぶら下がっている。
悠斗の側には鞄が落ちてあり、中には創造神トゥリアナが用意した食料や道具が入っているのだろう。
「おっと、ここは……どこだ?」
悠斗はキョロキョロと周りを見渡すが、大小様々な木々が乱雑に生えており、悠斗以外の生物は見当たらない。
見上げれば、空は青々として雲一つもなく晴天だ。
時々鳥の鳴き声が聞こえ、木々の葉を揺らして流れる風は寒すぎることもなく、少し暑い日和には丁度いい。
そう、ここは森の中だ。
「あ~確か森の中だっけ? 思い出してきた。 俺は転生したんだったな。 あ~まさか俺が異世界転生するとはな。 あ~困ったな~困ったな~」
「困ったな~」と言いながらも顔はニヤニヤと馬鹿面を晒している。
「おっと、こんな所で困ってる場合じゃないな。 すぅー……」
大きく息を吸い込んで息と貯めている。
そして――。
「!!ステータス!!」
こんなに大声で叫ばなくてもステータスウィンドウは表示されるのだが、気が高まったのか、もしくは頭がおかしくなったのであろう。
悠斗が大声で叫ぶと、青色をしたSFチックな半透明のウィンドウが空中に現れた。
ウィンドウには文字が描かれていて、それを繁々と眺めている。
「さてさて、俺のステータスは……」
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■名前
三嶋 悠斗
■職業
無職
■種族
ヒューマン
■ステータス
LV.1
HP : 50
MP : 10
STR :8
DEX :6
VIT :7
AGI :5
INT :1
MND :3
LUK :2
■スキル
・くぁwせdrftgyふじこlp(Lv.1)
・言語理解(Lv.∞)
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「ふ~ん……ステータスは普通なんだな。 いや、この世界の普通がどれぐらいか分からんな。 にしても無職はないだろ無職は。 せめて冒険者とか違う表記をしてくれよ。 このままじゃニートじゃん」
そのまま画面をスクロールしていくと。
「えぇっと……スキル名は何々? 『くぁwせdrftgyふじこlp』え? ちょっと待って。 俺のスキルが文字化けしてるんだけど!? 確かトゥリアナ様はこう言ってたな」
『お主に与えるスキルは専用スキルで嘘はない。 お主だけしか使えん、お主だけの固有スキルじゃ。 そのスキルと同じものを持っておる奴はおらん』
「いやいやいやいや。 これはない、これはないぞトゥリアナ様! 何が専用スキルだよ、何が固有スキルだよ。 文字化けしてるじゃねぇか! 確かにこんな文字化けしてるスキルをもってる奴はいないだろうな! ……あれ? 俺もしかしてトゥリアナ様に騙されたのでは?」
頭が弱い悠斗はようやく疑問に思い始めた。 だが、既に賽は投げられたのだ。 異世界転生してしまったので戻ることはできない。
「とは言っても、既にこっちへ来てしまったしな。 戻ることは出来そうにないし受け入れるしかないよな……。 でも、これなんと言えばいいんだ?」
「ん~」と思案するが、そもそも文字化けしているので考えてもあまり意味はない。 読めないものは読めないのだ。
ここでナニカ閃いたのだろう。 悠斗は何故か前方に手をかざして力いっぱい叫ぶ。
「ファイア!」
悠斗の「ファイア!」という声だけがこだまする。 かざした手から火のような物がでるわけでもなく、ただただ木々から流れる風が悠斗の髪をなびかせる。
「……一人ぼっちで心底良かったと初めて思ったわ。 まぁ出るわけないなと思ったんだよ。 トゥリアナ様も専用スキルだって言ってたし、ファイア程度のスキルなわけないよな、うん」
強気になって「うん」と頷いたものの、少し悲しかったのか目が潤んでいた。
「これ以上突っ立っても仕方ないし、気を取り直して行くとするか。 確かトゥリアナ様は数日も歩けば人里につくと言ってたよな」
ここは森の中。 木々に囲まれており、人の気配もなく、街道が敷かれてある道も見えない。
「どこへ歩けばいいんだ? 不親切なトゥリアナ様だな。 それぐらい教えてくれてもよかったのに」
悠斗は地面に落ちていた木の枝をおもむろに拾うと、地面に立ててそのまま手を話した。
木の枝は物理法則に則って地面に倒れていく。
「太陽のある方向に倒れたな。 よし、こっちへ歩いていくか! 俺の運を信じろ!」
悠斗よ、本当にそれでいいのか。 あまりにも適当すぎるのだが、特に疑問に挟むこともなく鞄を肩にかけて歩き出す。
歩き出して何刻経ったのだろうか、少し小腹が空いたのだろう肩にかけた鞄の中を探っている。
取り出したのは赤い果実らしき実。 男性の拳大の大きさをした果実で、これが丸い形であったならりんごだったのだろう。 しかし、形が歪で悠斗が見た事のない形をしていた。
「これは……食べられるのか? りんごのような見た目をしてるけど、形はりんごじゃねぇな……まぁいっか」
危機感よりも食欲が勝ってしまったのだろう。 大きく口を開けて赤い果実にかぶりつく。
刃物で果物を斬ってみて、肌に押し当てて問題ないかどうか調べるなど事前の検証方法はあったりするのだが、そんなサバイバル知識なんて持ち合わせていないので知りようがない。
警戒心もなく口に含むと、シャクリと心地よい音がなり果実からはシャキシャキとした食感と共に蓄えていた潤沢の水分が悠斗の口の中を潤していく。
「うまい! 甘い!」
転生してしまって語彙力まで失ってしまったのか、あまりにも言葉が乏しい。
語彙力が低下した感想を言いながら拳大の果実を腹の中へ収めていく。
「あ~美味かったな。 もう一つぐらい食べても大丈夫だろ」
悠斗は鞄の中に入ってる赤い果実を取りだろうとしたのだが、どこからか女性の叫び声が聴こえてきた。
「ん? こっちか!」
女性の叫び声が聴こえた悠斗は、取り出そうとした果実を鞄の中へ入れて、声のある方へ全速力で走り出していく。
※ステータスの値は適当です。
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