第17話 もうスライムは飽きました。
あれから1週間ぐらいだろうか。
悠斗とふじこはひたすらスライムを狩り続け、そこらの駆け出しぐらいのレベルには到達した。
「おし、これでラスト。ふじこみずてっぽうだ!」
ふじこの指先から水圧の強い水が放射される。
放射された水はスライムの核をいともたやすく貫いた。
『俺、もしかしてポケ○ンマスターでは?』などと内心馬鹿な事を考えながら戦う余裕ぐらいはあった。
「おっ! レベルが上がったみたいだな。どれどれ……」
悠斗はステータスと言って、半透明の青ウィンドウを表示させる。
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■名前
三嶋 悠斗
■職業
冒険者(駆け出し)
■種族
ヒューマン
■ステータス
LV.10(+7)
HP : 212(+132)
MP : 36(+20)
STR :37(+24)
DEX :25(+16)
VIT :41(+27)
AGI :31(+22)
INT :1(+0)
MND :9(+4)
LUK :7(+4)
■スキル
・くぁwせdrftgyふじこlp(Lv.1)
・言語理解(Lv.∞)
-*-
■名前
ふじこ
■職業
スキル
■種族
くぁwせdrftgy
■ステータス
LV.1
HP : -
MP : 999999999999(固定)
STR :2
DEX :3
VIT :1
AGI :4
INT :999999999999(固定)
MND :32544(固定)
LUK :-
■スキル
・創造魔法
・生命共有
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「ふじこは相変わらずレベル1のままだな……」
悠斗はふじこに語りかけながら、頭を撫でる。
少しくすぐったそうにしているが、嫌じゃないようだ。
「そんでもって俺は……これでようやくレベル10か。長かったな……ついにスライムを倒すだけの作業から脱出だぜ」
ここまでずっとスライムを倒していたのも、冒険者ギルドのマスターであるクレヴィスに言われたからである。
レベルが1しかなかった悠斗が他のモンスターに出会ったとしても、すぐに死んでしまいそうだったからだ。
もちろん悠斗自身の心配というよりも、9割はふじこの事を思ってだった。
レベル10というのは、冒険者になりたい新人の平均レベルになる。
これで悠斗も一端の新人冒険者のレベルに追いついた。
「さて、さっそくおっさんに報告がてら帰るとするか!」
ふじこは悠斗の声を聞いたら両手を上に上げてバンザイのポーズをする。
そんなふじこを抱き上げた悠斗は、そのまま肩車をして歩き出す。
最近もっぱらスライム狩りの帰りはこうして歩いている。
実際に戦っているのはふじこだけなので、少しでも彼女を労おうとしているのだ。
ふじこも歩かずに済むので不満はない。
顔見知りとなった門番に挨拶をして王都へ入る。
毎日通っている大通りを抜けると冒険者ギルドだ。
最初の頃は奇異の目で見られたが、1週間も経てば人は慣れるもの。
肩車されている幼女が可愛いので、王都の人は気軽にふじこに声をかける。
もちろんふじこが話し返す事はないが、キョロキョロと声をかけられた方へ顔を向ける。
その行動が王都の住人には可愛く見え、声をかける住人は後を絶たない。
なお、肩車をしている悠斗本人の事は住人の間では【幼女の馬】と呼ばれている。
もちろん本人はその事を知らない。
この事を知らない悠斗は、ふじこに「今日も声をかけられてよかったな~」と笑顔で話しかけている。
そんな大通りを越えて悠斗とふじこは冒険者ギルドに入る。
1週間経っても悠斗とふじこに絡んでいく奴らは出てこない。
クレヴィスの専属冒険者だと思われている悠斗とふじこに絡んでもして、万が一目をつけられたりすれば溜まったものではないと思っているのだ。
冒険者という職業をしている者は感が鋭く、そうでなければ生きていけない。
悠斗はいつも通り暇そうに頬杖ついているクレヴィスのもとへ向かう。
「おっさん、今日の成果を持って帰ってきたぞ!」
「今日の成果ってお前……どうせグリーンスライムの核じゃねぇか」
「ノリが悪いおっさんだな。そんなんだから結婚できないんだぞ?」
「ぶち殺されてぇのか! それに俺は既婚者だ!」
「……え、マジ?」
幾度かの沈黙が2人の間を包み込む。
「まじ? 相変わらずお前が使う言葉はたまに意味が分からんが、俺が結婚してるのは本当だ。嘘をついても意味ないだろ」
「なんでこんなハゲたおっさんが結婚できるのに……」
「お前まさか……ほらっそんな事はいいからさっさとこの水晶に手を載せろ」
クレヴィスに憐れみの目を向けられた悠斗はガックリきたまま水晶に手を載せる。
悠斗のステータスを見たクレヴィスは。
「レベル10か……そんなんだから童貞なんだぞ?」
煽り返した。
「うるせぇぇぇぇぇ! 俺は未来の可愛い嫁のために残してるだけだ!」
「ガハハ! そう落ち込むな。強くなればいいんだ強く!」
豪快に笑いながら悠斗の肩を乱暴に叩くクレヴィス。
悠斗は悔しそうにしながら、話を打ち切るように話題を変える。
「そんなことよりも、レベル10になったんだし、他の依頼を斡旋してくれてもいいだろ?」
「と言ってもな~……」
駆け出しに斡旋できる依頼はそう多くない。悠斗とふじこばかりを優遇するわけにはいかないのだ。
ふじこは強いのだが、幼女。
いくら異世界でも、幼女を酷使する程ひどい世界ではない。
人道的にもクレヴィスの心情的に憚れる。
悠斗も特別強い冒険者であるわけでもないので、特殊なスキルと幼女を連れている以外に目立った長所はない。
理性も学もあるのだが、この世界の一般常識が少し弱い。
それならば幼女をいつも連れ歩く悠斗よりも、同じ駆け出しである他の冒険者に任せた方がいいし、依頼人も納得できるというもの。
それ故に実は誤魔化す様グリーンスライムの討伐ばかりさせていたのだが、単純に問題を先送りにしていただけで時間の問題だったのだ。
「何かないのか? ほらっグリフォン討伐やドラゴン討伐とか」
「相変わらずクソ弱ぇのに度胸だけは一丁前だなおい。そこの嬢ちゃんを少しは見習え」
「うるせぇな。別にいいだろ少しぐらい見栄を張ったって。それよりも何かないのか? 流石に1週間もグリーンスライム狩りは飽きたぞ」
「うるせぇヒヨッコ冒険者だな……ったく」
とは言ったものの、悠斗とふじこ2人に斡旋できる依頼はない。どうしたものかとクレヴィスは思案していると、名案を1つ思いついた。
「そうだ! お前ダンジョンには興味あるか?」
「ダンジョンがあるのか!?」
妙に食いつきのいい悠斗の反応を見て、クレヴィスは好都合だと思った。
「あるぞ。お前がいつもスライム狩りに行ってる場所があるだろ。あそこから少し奥へ入った所にある」
実は悠斗がスライム狩りに出かけている平原を抜けた先に小さなダンジョンがあるのだ。
「あ~たまに兵士さんが入り口守ってるな……って遠くで見てたけど、あそこか」
「おう、そうだ。まぁダンジョンつっても小さいんだけどな」
王都側にあるスライム平原の奥へ行った所に小さなダンジョンがある。
王都の近くということでもあり、ダンジョンは時として盗賊の塒になる場合がある。
その為ダンジョン入り口には兵士が常に常駐している。
王都の近くなんて危険だから埋めてしまえとも思うのだが、不思議な事にダンジョン内には宝箱を回収しても、モンスターを倒しても一定の時間が経つと復活する。
理由は解明されておらず、この世界の住人も仕組みは分からない。
どこぞの英雄や賢者が創ったとか、古びた古代技術で動いている……といった信憑性のない噂がある程度で、解明されたこともなく謎の包まれている。
『ダンジョン』という言葉にテンションを上げた悠斗は少し前のめりになりながらクレヴィスに話しかけた。
「へ~どれぐらいの大きさなんだ?」
若干引き気味になりつつも、前向きになっている悠斗にはこのまま興味を持ってもらおうと詳細を語る。
「地下5階しかない小さなダンジョンだ。出てくる魔物も駆け出しが倒せるぐらいの強さしかないからお前達なら丁度いいだろ」
「そこの魔物ってさ、倒したら消えたりするのか?」
「常識は知らないのにそういう事は知ってるんだな。そのとおりダンジョン内で死亡した生物は一定時間が経つと消えてなくなるぞ」
変な所だけ知ってるし、こいつは本当どこから来たんだ……と疑問には思いつつも、今は頭の片隅に追いやるクレヴィス。
「本当にお前は……。まぁいい、とりあえずそういうことだ。今斡旋できる依頼はないが、お前もレベル10になったんだからダンジョンぐらいは許可しよう」
「やったぜ!」
「だけど気をつけろよ。弱い魔物しか出てこない小さなダンジョンと言ってもダンジョンだ。油断すると足元を掬われるぞ」
「分かってるって! 何があったってふじこだけは必ず守る。な? ふじこ」
『普段守ってやってるのは私の方だろう』と言わんばかりに、ふじこは悠斗に1発足蹴りを食らわせた。
「痛てぇよふじこ!」と笑いながら仲良くしている悠斗とふじこを見て、クレヴィスはいい家族だなと思って笑みを浮かべる。
というわけで、ダンジョン編開始です。
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