第14話 歓迎会前編
ワイワイガヤガヤ会話回その1
冒険者ギルドを出て、悠斗達は定住してる宿『天の方舟』へ戻ってきた。
「さてみんな、私達『戦場の戦乙女』のGランク昇格と! ふじこちゃん……ついでに悠斗。ようこそ王都『アルヴェイム』へ!」
「「「かんぱーい!」」」
「かんぱーい! って俺だけ扱い適当すぎない!?」
無表情なふじこも膝の上にくまのぬいぐるみを乗せ、両手で果物を絞って作られたシルベスタお手製のジュースを飲んでいる。
足をバタバタさせており、嬉しさを表現しているのだが、こういった事は顔に出して欲しいと悠斗は思った。
レイとニーナはふじこの世話を焼いており、とくにニーナは慣れているのかソースで汚れたふじこの口元を拭いたりと甲斐甲斐しく世話を焼いている。
レイはふじこに時折食べ物を口へ持っていって餌付けをしている。自身の好感度を上げる事に必死なようだが、普段が普段なのであまり効果はないように見える。
「……なんだ」
「いえ、なにも……」
「ふん! ほら、ふじこちゃんあ~ん♪」
たった2日しか経っていないが、レイの対応の違いには慣れた悠斗であった。
アルマはアルマでシルベスタに配膳された料理を黙って食べている。
シルベスタは程よいタイミングで皿を下げたり、グラスの飲み物が無くなりそうになると声をかける前に注いだりと給仕は完璧だ。
アルマも慣れているのか時折「シル、ありがと」と
音を立てない綺麗な食事風景を見て、悠斗はもしかして貴族ではないか? と考えた。
「なぁアルマ」
「……ん。なぁに?」
「もしかして、アルマって貴族だったりするのか?」
悠斗の発言にアルマもレイもニーナも動きが止まる。
「なんで?」
「いやだって……」
そういいつつ周囲を見る悠斗。現在悠斗達が食事をしている部屋は清潔感がある白で統一されている家具や調度品が綺麗でホコリ1つも見当たらない。
よく漫画やアニメで見かける場末の酒場とは大違いだ。
なによりも悠斗とふじこが止まっている部屋は、現代の1000円~2000円程度の格安宿よりも遥かに綺麗で、「一泊1万円です」と言われても納得するクオリティとなっている。
悠斗がはじめてこの宿へ来た時から疑問に思っていたことであり、いつツッコんでいいのかと思っていたのだ。
「どう考えてもグレード高そうな宿だし、アルマの作法が凄く綺麗なんだ」
「あっありがと……」
作法を他人に褒められる事が慣れていないのか、アルマの頬は少し赤みがさす。
「なによりも……」
「なによりも?」
「俺達以外誰も見かけないじゃん」
そう、ゆったりとしたこの広い部屋の中で、いくつかテーブルがあるにもかかわらず誰もないのだ。
これがご飯時でなければ疑問に持つ事もなかったのだが、宿への帰り道に見える酒場は明かりが灯り、ガヤガヤと冒険者の喧騒にまみれていた。
この宿だけ静寂が訪れているのだ。
もちろんこの宿が高すぎて誰も泊まってないという判断もできるのだが、今のアルマを見た悠斗にとっては、この宿を貸し切ったと考えた方がシックリ来たのだ。
「他の客が高くて、誰も泊まれないって考えられないの?」
「そりゃ考えたけどさ、シルベスタさんの料理は凄く美味しいし、ホコリ1つもない。だから宿泊費が高いっていうのは何となくわかるよ。でもさ、王都の冒険者ギルドにいる人間が駆け出しやGランクしかいないって訳じゃないだろ?」
「えぇ、そうね」
「なら高ランクの冒険者がいるなら、こういった高級宿に泊まってると思ってもおかしくないだろ。 なんだって危険は大きいけど、その分稼げる仕事なんだからさ。だからアルマ達が駆け出しだったのにこの宿に泊まってるのはおかしいって考えたんだ」
「なるほどね」
「ってわけなんだけど、間違ってるか?」
「――えぇ、確かに私は貴族よ。それで貴方は私にこの指摘をして不味い状況になるって考えられなかったの?」
「えっ!?」
「だってそうでしょ? 私が貴方に身分を隠していたんですもの。隠さないといけない秘密があるって考えられない?」
鋭い目をして悠斗を見るアルマ。
「そっそれは……」
険しい雰囲気が漂う空気の中、冷や汗を垂らす悠斗が口を開いた。
「アルマ……いや、アルマ様お願いがあります」
「なぁに? 悠斗」
この時の悠斗の頭の中では水○黄門に出てくる印籠を思い浮かべていた。
大変な無礼を働いてしまったので、何とかして乗り切らないといけないと思い、何ならお得意の『DO☆GE☆ZA』でも華麗に決めて謝れば、打ち首だけは勘弁してもらえないかなと思った。
考えたら即行動が基本の悠斗はおもむろに席を立つ。
「えっ?」
完全に虚を疲れたアルマは目が丸くなる。
悠斗は地面に両手とひざを付き頭を下げた。
「すいませんでしたーー!!」
「えっちょっ!」
いきなりの華麗なDO☆GE☆ZAに慌てるアルマ。
レイとニーナも完全に手を止めてポカーンと呆けている。
ふじこだけは変わらずにもぐもぐと口を動かしている。
「おっ俺はどうなってもいい……いや、よくないんですけど、ふじこだけは、ふじこだけはどうか……!」
こういう時に『俺はどうなってもいいからふじこだけは!』というカッコよく言い切らない素直な所が悠斗の良いところかもしれない。
あまり自分が頭よくないと自覚している悠斗は、変に言い訳するよりも、素直に謝った方がいいと思った。
そんな姿をした悠斗を見てアルマは虚を突かれた顔から、笑みに変えて笑い出す。
「ふふふ……あはははは」
「お嬢様はしたのうございます」
「ごめんシル……だって……ふふふ」
「お嬢様」
シルベスタは悪い子を叱るようにアルマを戒める。
「悪かったってシル。悠斗、顔を上げて」
今度は悠斗が虚を突かれて目を丸くした。
「ほらっそんな所に座ってないで椅子に座りなさい」
アルマの言葉に従うように椅子に座る悠斗。
「許してもらえるので?」
「あはは、その取って付けたような敬語やめてよ。悪かったわ悠斗、冗談よ冗談。今まで通りでいいわ」
「じょう……だん……?」
「えぇ、っといっても私が貴族なのは本当よ。ちょっとした……そう、ちょっとしたイタズラよ」
安心したのかため息を吐いて崩れる悠斗。
「……はぁ~。冗談キツイぜ……心臓が止まるかと思った。でも何でこんな事を?」
「だって悠斗、貴方をどこからどう見ても怪しいと感じていたからよ」
「え? 俺そんなに怪しいか?」
悠斗はレイとニーナに顔を向けるが、レイは無言で顔を縦に振り、ニーナは苦笑している。
シルベスタに顔を向けるも、目を瞑って表情は変えない。これが答えだった。
「そりゃそうでしょ。私達が盗賊に襲われている所へたまたま運良く駆けつけた。この時点で怪しいと思ったし、最初は盗賊の仲間か他国の諜報者と考えたわ」
「盗賊の仲間でも他国の諜報者でもないぞ!?」
「えぇ、わかってるわ。その後すぐふじこちゃんが現れて、貴方明らかに動揺していたもの。他国の諜報者ならもっとマシな演技をするわ。だからその線は無くなった」
「その線は?」
「だから次は暗殺者か何かと考えていたのだけれど……絶対にそれはないと思ったわ」
「いやいや、もしかしたら俺が暗殺者かもしれないぜ?」
「あはは、絶対にないわよ。だって貴方ギルドで凄く目立ってたもの。暗殺者ならもっと上手くやるわ。なによりも……」
「なによりも?」
「暗殺者がLv1のはずがないし、それにグリーンスライム程度に……ぷふふ」
「笑うんじゃない!」
「ごめんごめん。暗殺者にしてはどう考えても弱すぎるでしょ?」
「弱くて悪かったな」
「そう不貞腐れないでよ。そういった理由で少し警戒していたんだけれどもう安心ね」
「はぁ……無罪放免ありがとうございますお嬢様」
肩の力を抜いて安心した顔をして椅子に座り直す悠斗はふと疑問に思った事をアルマにぶつけた。
「それでアルマ達って誰かに狙われる程に重要人物なのか?」
「えぇ。実は私達これでも有名人なのよ?」
「マジで!?」
『まさか俺が知らなかっただけで、アイドルか何かだったり? サインもらった方がいいかな?』とワクワクした顔でアルマを見る悠斗。
そんな彼の顔を見て笑った彼女は。
「ふふ。私はこの国で王の左腕と呼ばれているアーヴァイン公爵家の三女よ」
「えぇ!? 公爵令嬢!」
15話に続きます。
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