第123話 いってらっしゃい
第五章ついに終了!
悠斗は涙で濡れているナルシャの顔を両手で挟んで持ち上げると。
「そうだな……三日後。三日後の朝になったら門の前で待ってる」
「三日後……」
「ああ、それまでちゃんとフーゴ爺さんと自分がどうしたいのか話し合ってほしいんだ。ナルシャがどんな決断をしたとしても、俺たちみんなはナルシャの決断を尊重するから」
悠斗が頭を撫でるも、終始無言でうつむいたままのナルシャ。
彼女はフーゴとラドゥールに連れられて部屋を出た。
そして三日後……。
「長いようであっという間だったな……」
「んっ」
「うむ、なんというか色々あったが、時が経つのは早いものじゃの」
「楽しみなのだ~♪」
サウガダナンの正門前で街並みを見つめる悠斗達。
あちこち建物が崩れていたりと、まだまだ復興が始まったばかりだ。
そんな中、悠斗達に向かって歩いてくる集団が現れる。
「フーゴ爺さん、それにラドゥールさんも」
「見送りぐらいはの……ホホッ」
「ええ、何もお礼ができていませんからこれぐらいは」
そう言って悠斗達の見送りに来たフーゴとラドゥール。
それ以外にも。
「マルガさん、それにリアちゃんも!」
悠斗がサウガダナンで滞在中お世話になったブロデリック亭の女主人であるマルガ。
その娘である看板娘リアも見送りに来てくれていた。
「長いことご利用ありがとうね」
「いえいえ、こちらこそ大変お世話になりました」
悠斗とマルガが別れの挨拶をしている間、ふじこ達はリアと別れを告げていた。
「ふじこちゃん、リーエルちゃん、それにミラちゃんも……寂しくなるね……」
長いこと利用していたことで、お礼に来た……というのはついでであり、
実際の所は、娘であるリアがふじこ達と別れを惜しんでいるからだろう。
泣きそうなリアの表情を見たリーエルは、彼女の瞳に貯まる涙を拭って。
「なに、永遠に会えなくなるわけじゃないわい。のうふじこにミラや」
「んっ!」
「その通りなのだ! また遊びにいくのだ~♪」
リアと幼女達はまた再開するための約束をして、抱き合ったり手を繋いだりと微笑ましくしていた。
リーエルの言葉に同意するようにふじことミラも答える。
その答えに安心したのかリアは笑顔を取り戻す。
「絶対……絶対! 約束だよ! ……ってあれ? ナルシャちゃんは?」
ふじこ達はいるのだが、ナルシャがどこにもいなかった。
「ナルシャはの……」
言い淀むリーエルは、リアの耳元でボソボソと小さく呟いた。
すると、リアはすぐコロリと笑顔に買えて笑いながら悠斗をチラリと見る。
チラリと悠斗の方へ向いたリアの目と悠斗の目が合うと、バツが悪そうに目を反らすリア。
そんな彼女の行動を見て、悠斗は自分に気を使っているのだろうかと考えた。
ナルシャがいないことで、悠斗がいつもより元気がないことは誰が見ても明らかだったからだ。
「リアちゃんにも気を使ってもらうなんて……」
悠斗はナルシャを想いながら青空を眺めて。
「ナルシャ……お別れぐらいは言いたかったかな……」
誰にも聞こえない程小さな声をつい口ずさんでしまう悠斗。
そんな悠斗の心情を察したフーゴは、悠斗の気を反らす様に声をかける。
「ユート、本当お主には世話になった。集落の者達を代表して改めてお礼を言う」
腰を曲げてのお礼に悠斗は慌てて。
「爺さん、頭を上げてくれよ。こっちこそ本当にお世話になった」
「それはこちらの方……おっと、これじゃ永遠に終わらぬのホホッ!」
永遠に続きそうなやり取りに悠斗とフーゴは笑い合うのだが、別れも近い。
ふじこ達はリアとの別れを済ませたのか、フーゴと話している悠斗の所に集まる。
「ユート、それに大精霊様方も元気での」
「フーゴ、お主も元気で暮らすのじゃぞ」
「みんな、また合うのだ~♪」
「んっ!」
これ以上はお互い別れづらくなるからこら、悠斗はふじこ達に向かって。
「それじゃ……そろそろ行くか!」
そう答えた悠斗はフーゴ達に背を向けて、停めてある馬車に向かう。
去っていく悠斗に向けて、フーゴは大きな声をあげる。
「さよならは言わぬ。みんなと仲良く元気にやって行くのじゃぞ!」
フーゴの発する言葉は、永いこと一緒にいた家族と別れを告げるような言葉に聞こえた。
そう思った悠斗はフーゴの言葉に若干違和感を覚えたが、彼らしい別れの言葉だろうと納得する。
「行ってくるのじゃぞ!」
「おう、爺さん行ってきます!」
悠斗は顔だけ振り向いて、片手で手を振った。
みんなと別れを済ませた悠斗は馬車の中を確認する。
アルマ達のお土産や、道中の食料やフーゴとラドゥール達に貰った物などで馬車の中はいっぱいだ。
忘れ物はないなと確認した悠斗は、ふじこ達が馬車に乗ったのを確認すると、御者席に座ってふじこ達に声をかける。
「それじゃみんな乗ったな? なら出発だ!」
鞭を振って馬を走らせる。
馬車を走らせて遠ざかるサウガダナンを思って、思わず悠斗はため息をつく。
「はぁ……」
「なんじゃ、ナルシャがお見送りに来てくれなかったのがそんなに寂しいのか?」
悠斗が何故ため息をついたのかわかっているのか、そう話すリーエルに。
「そんなの当たり前だろ」
当然の様に答える悠斗。
ナルシャとはここで分かれるかもと覚悟はしていた。
次いつ会えるかもわからないからこそ、見送りには来てほしかったなとも思っていた。
そんな悲しそうな悠斗の顔を見たリーエルは嫉妬してしまったのか、およよ……と芝居がかった真似をしながら寂しそうにふじこへ抱きついた。
「わしらがいると言うのにの……の? ふじこ」
「んっ!」
「悠斗は寂しがり屋さんなのだ~♪」
馬車の中であるのに、飛び上がって抱きついてきたミラの腕がリーエルの首に直撃する。
グェ~っと幼女が出してはいけない声を出したリーエルは、起き上がってはミラに向かって「何をするんじゃ!」とポカポカ喧嘩を初めてしまう。
相変わらずの二人に呆れた悠斗は「はぁ~……」とため息をついて二人を注意する。
「こら、馬車を走らせてるんだから中で暴れるんじゃない」
馬車を走らせてる手前よそ見をするわけにはいかない。
前をむいたままそう注意する悠斗であったが、返ってきたのは謝罪ではなかった。
「……っというわけじゃ。良かったのナルシャや」
リーエルはふじこでもなく、もちろんミラでもなく、この馬車にいないはずの人間に話しかけだした。
リーエルが話しかけたのは荷物の一角。
そこからもぞもぞと少女が現れる。
「本当、ユートお兄ちゃんは寂しがり屋さんなんだから」
「そうだぞ、オレは寂しがり屋――――――――――っえ!?」
思わず自然に流れてきた言葉に返答したものの、聞こえるはずのない声が聞こえた悠斗は勢いよく後ろを振り向く。
「ユートお兄ちゃん、前見て前!」
ナルシャの注意も虚しく、悠斗はナルシャの顔を見て固まっていた。
「ナルシャ、お前なんでここに……」
呆然とする悠斗に向かって何度も注意をするナルシャであったが、悠斗の中ではそれどこれはなかった。
そんな悠斗の顔を強制的に前へ向けさせたナルシャは悠斗の質問に答える。
「なんでって、ナルシャはユートお兄ちゃんの奴隷で、それに妹だから当然だよ!」
「いや、そうじゃなく……サウガダナンに残ったんじゃ……」
当たり前の様に答えるナルシャであったが、悠斗はサウガダナンに残っていると思っていた。
悠斗の問い何を言っておるのだ? とリーエルは答え、続け様に。
「誰もナルシャがサウガダナンに残ったなど言っておらんじゃろ」
リーエルの言葉に、自分以外のみんながこの事実を知っていたのではと思いついた。
その悠斗の想像は大当たりであり、ふじこもミラもウンウンと縦に頷いていた。
「…………っえ!? まさかお前らみんな知ってたんじゃ――」
「んっ」
「ぬふっ」
「あはは! 知ってたのだ~♪」
笑う幼女三人衆に苦虫を噛み締めたかの様な顔をする悠斗。
その時、フーゴが最後に言った言葉を思い出した。
「あっ! だからフーゴ爺さんが最後に言った言葉が……」
「そうだよ、ユートお兄ちゃん。さよならじゃなくて、いってらっしゃいなの」
悠斗がたどり着いた答えにナルシャがそう補足する。
「お前らな……でも、お別れじゃなくて本当によかった」
笑顔でいつもの元気を取り戻した悠斗は、ナルシャの顔を見ては。
「これからよろしくな、ナルシャ」
「うん! ユートお兄ちゃん、それに大精霊様のみなさん、改めてよろしくおねがいします!」
「んっ」
「これから一緒なのじゃから、そう畏まることなくこれからも気軽にリーエルと呼ぶがよい」
「そうなのだ! ミラもミラと呼んで欲しいのだ~♪」
仲良く手を繋ぎ笑い合う四人の女の子達。
ナルシャはこれから向かうであろう国に思いを馳せて。
「あ~……ユートお兄ちゃんがお世話になっている人達と会うの楽しみだな~」
ナルシャは馬車の後ろから顔を出す。
遠くなっていくサウガダナンを眺めながらこう小さく言葉にする。
「いってきます」
一旦更新は打ち止めとなります(2022.02.22時点)。
不定期に更新(本筋外のお話や日常などを予定)しながら6章の執筆に入るのでしばしお待ちくださいませ。
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