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第122話 岐路

「――この国を出る時、彼女……ナルシャ嬢を連れていってはくれませんか?」


「えっ!?」


 予想外のことに驚く悠斗。

 悠斗はこのままナルシャを連れて行こうとは思っていなかったからだ。

 家族であるフーゴと一緒に暮らすべきだと思っている。

 しかし、その唯一の家族であるフーゴもラドゥールに賛同するよう頷きだした。


「わしからも頼む……」


「おっおじいちゃんまで何を言って――」


 動揺するナルシャに向かってラドゥールは片膝をついてこう話す。


「ナルシャ嬢……いや、ナルシャ様。貴方様はサウガダナン王朝王族最後の生き残り。本当の名は()()()()()() = ()() = ()()()()()()なのです」


 ラドゥールの発言に驚く悠斗。

 ナルシャもラドゥールの発言、そして家族であるフーゴも同意していることにかなり驚いており、言葉を受け止められないでいた。


「えっ!? でっでも、ナルシャはみんなと同じ集落の子供じゃ……」


 ナルシャは集落の子供と変わりなく育っており、何かの間違いじゃないかと今でも信じられないでいた。

 しかし、ラドゥールはナルシャのこの言葉を否定する。


「貴方様はフーゴ殿が当時の王妃より託された最後の子の血を引いておられる御方になります」


「おっおじいちゃん……この話は…………本当?」


 ナルシャは最後の綱であるフーゴにも問いかけるのだが、フーゴは辛そうな表情のまま床を見つめたまま答える。


「………………今まで黙ってて悪かったの。しかし、これは秘中の秘。この様な状況にならなければ、本人であるお主にも教えることはなかったのじゃ……すまぬ」


 フーゴの言葉に涙するナルシャ。

 今まで唯一の血縁と思っていたフーゴは血の繋がった家族ではない。

 この事実にナルシャは絶えられず、涙をポロポロ流してしまう。


「そっそんな……それじゃナルシャはおじいちゃんの本当の家族じゃ……」


「ナルシャよ、それは違うんじゃ! お主はたしかに王妃様より託された子。しかし、家族ではないと思ったことなぞ一度もない!」


「おっおじいちゃん!」


 フーゴは本心からの言葉を紡ぐのだが、語られた言葉の衝撃に瞳が揺れている。

 そんなナルシャにラドゥールは追い打ちをかけるような言葉を話す。


「ナルシャ様。だからこそ、貴方様がこの国にいては新たな政争の種となるのです」


「ナルシャが……」


「ラドゥールさん、あんた!」


 あまりの言葉に悠斗は掴みかかろうとするのだが、それをフーゴが止める。

 ラドゥールは悠斗の行動を見ても変わらず言葉を紡ぐ。


「それとも、ナルシャ様。貴方様はこの国の王として、再び民を導く覚悟がおありですか?」


 それは小さな一人の子供ではなく、一人の大人に対する問いかけだった。


「そっそれは………………」


 ラドゥールから語られた言葉は軽くなく、その重みにナルシャは簡単には答えられない。

 それを察したラドゥールは、改めて悠斗の方を見る。


「ですのでユート殿、貴方にこの方、ナルシェリア = ジル = サウガダナン様をただのナルシャとして引き取っていただきたいのです」


「俺が……ですか?」


「はい。この国の人間ではない貴方だからこそ託せると思ったのです。それに……」


 ラドゥールは悠斗の指に嵌っている指輪を見て。


「アーヴァイン家客人の証であるその指輪の持ち主であるユート殿なら信じて託せと思ったからです」


 ラドゥールの言葉に一応理解を示す悠斗であったが、やはりまだ少女であるナルシャをフーゴの元から離すことに抵抗があった。


「確かに俺ならナルシャを連れてこの国を出ても不審に思われることはないと思いますし、後ろ盾もありますからね。でも、この国で……いや、あの集落でフーゴ爺さんと一緒に今まで通り暮らすことだってできるんじゃないですか?」


「それは難しいでしょう……」


「えっそれはどうして……」


「ナルシャ様がアブラに連れ去られてしまっていたことが理由となります」


「それはどういう……?」


「アブラはこの国で実権を握っていた男。そんな男が宮殿に奴隷の少女を連れているとなれば、違和感を覚える者がおそらく居たでしょう……あの奴隷は何者だ? と……」


「なるほど。アブラがいない今、そのアブラが連れていた奴隷の少女であるナルシャは一体何者なんだと勘ぐる者が出てくるっていうことですね?」


「はい。アブラに追いやられた貴族は多く、その中でも王族の顔を覚えている者がナルシャ様を見れば、気づいてしまう者が出てくるということになります」


「そうなれば、余計ナルシャがわしの元で今まで通りに暮らすということは難しくなるのじゃ」


「フーゴ爺さんが王家の子を託されたから……だよな?」


「うむ。疑惑の子がわしと一緒に暮らしている……さらに面影までソックリとなれば隠し通すことは難しいじゃろうな」


「でも……俺はナルシャがどうしたいのか、ナルシャ自信の気持ちを尊重したい」


「ユートお兄ちゃん……」


「ナルシャが俺と一緒に行く道を選ぶなら、俺はその気持に応えよう。でも、ナルシャがこの国で暮らしたいと願ったなら…………」


「ユートお兄ちゃんがここで……っていうのは…………」


「悪いなナルシャ」


 申し訳無さそうに誤りながらナルシャの頭を撫でる悠斗。

 しかし、ナルシャはうつむいたまま顔を上げることはなかった。

 ポタポタと床が涙で濡れていく。


 悠斗は涙で濡れているナルシャの顔を両手で挟んで持ち上げると。


「そうだな……三日後。三日後の朝になったら門の前で待ってる」


「三日後……」


「ああ、それまでちゃんとフーゴ爺さんと自分がどうしたいのか話し合ってほしいんだ。ナルシャがどんな決断をしたとしても、俺たちみんなはナルシャの決断を尊重するから」


 悠斗が頭を撫でるも、終始無言でうつむいたままのナルシャ。

 彼女はフーゴとラドゥールに連れられて部屋を出た。

 そして三日後……。

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