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第121話 ナルシェリア = ロズ = サウガダナン

 悠斗がリーエル達に三日間の出来事を語っていた時、ドアを叩く音が鳴る。


「ん? 誰じゃろな」


 そう言ってリーエルが扉を開くと、そこにはフーゴとラドゥールが立っていた。


「ユートどの、もう身体の方は大丈夫なのかの?」


「はい、心配おかけしました。今はほらっこの通り……っ痛!」


 元気な姿を見せようと張り切った悠斗であったが、まだ本調子じゃないのか身体の一部はまだ痛みがあった。


「ユートお兄ちゃん!」


「これ、まだ無理をするでない」


「んっ!」


「あはは~。怒られているのだ~」


 ナルシャは悠斗を心配し、ふじことリーエルは無茶をする悠斗に呆れと怒りを出している。

 ミラだけは怒られている悠斗を見て笑ってはリーエルに頭を叩かれていた。

 そんな彼女たちに向かって、自分は大丈夫だとふじこたちの頭を撫でておだてる悠斗。


「悪い悪い、でも動けないわけじゃないって……っで、お見舞いに来た――だけじゃないみたいですね」


 二人の顔を見てなにかあるなと思った悠斗は、そう話を切り出してみた。


「うぬ。実はの……」


 話そうとするフーゴを止めて、代わりにラドゥールが口を開く。


「そこからは私が。ユート殿、お身体の方は……ふふっ大丈夫そうですね」


「はい! この通り、無茶をしなければ動けますよ!」


 元気そうな悠斗を見て安心したラドゥールは、真剣な顔に変えて悠斗を見据える。


「さてユート殿、今回は本当にありがとう」


「うん?」


 ラドゥールは悠斗へお礼にと頭を下げるのだが、肝心の悠斗に思い当たる節が見当たらなかった。

 疑問符を頭に浮かべる悠斗の表情で察したラドゥールはその疑問に答える。


「君が……いや、君と大精霊様たちがアブラを打倒してくれたおかげで、この国は偽りの大精霊とアブラたちから開放されただろう。お礼を言うのは当然のことだよ」


「あ~お礼を言われるほどのことはしてないですよ。俺は……いや、俺たちはナルシャを取り戻したかっただけですから」


 事実、悠斗の中ではこの国をどうにかしたかったわけじゃなく、ナルシャを取り戻したかっただけなのだ。

 サウガダナンが何かしら変わったとしても、それは付随した結果に過ぎない。

 それでもフーゴやラドゥールからすれば、悠斗はこの国の為に力を貸してくれた英雄なのだ。

 だからこそラドゥールはサウガダナンの元貴族として悠斗に頭を下げた。


「それでも、この国を想っている元貴族としてお礼を申し上げる。本当に感謝する」


「あ~わかりました! 素直に受け取りますから頭を上げてください!」


 目上の方、それも貴族であったラドゥールに頭を下げられては慌てるしかない悠斗。


「ははっ! 無理やり受け取らせたみたいですまないね。でも本当に感謝しているんだよ。ユート殿、君に救われた者たちは多いからね」


 したり顔でラドゥールはそう話しながら笑う。

 そんなラドゥールの顔を見て、悠斗は疑問に思ったことを口にする。


「それで、これからこの国はどうなるんですか?」


「そうじゃな……これですぐ解決した……とはいかないじゃろう。暫くは荒れるじゃろうな」


「えっでもアブラは……」


「ああ、アブラは倒れた。……しかし、この国の政治中枢を動かしていたアブラが魔物の姿になったともあれば混乱は必然」


 フーゴの言う通り、中枢にいたアブラが魔物の姿のまま死んでしまった。

 その姿に変わった所を見た者も多く隠すことは難しい。

 もちろん政治を動かしているのはアブラだけではないが、他にも化け物が混じっているんじゃないかと疑心暗鬼になることは必然。

 混乱は避けられないだろう。


「しかし、何も変わらないわけじゃないわい。今回の事で今の在り方に疑問を持つ者達も多く出るはずじゃ」


「我々に賛同してくれてはいたが、日和見を決めていた元貴族達もいるからな。この国がどうなるか、本当の戦いというのはこれからだよ」


「後は我々が何とかする出番というわけじゃ」


 今回のことで、今の政権が一枚岩のままこれからも……というのは難しいだろう。

 だからこそ、アブラがいなくなり弱体した今の政権に対し、元貴族たちが『国の為に!』と再び政権の確保として貴族は立ち上がろうとするだろう。

 そうなると、政に関しては外様である悠斗に手伝えることはない。


「そうですか……それならもう俺たちが手伝えることはなさそうですね」


「いや、最後に一つだけ……。一つだけ、君たちユート殿と大精霊様方にお願いしたいことが」


「なんでしょう?」


「なんじゃ、言ってみよ」


 ラドゥールはなにかを決意したような顔をして口を開く。


「――この国を出る時、彼女……ナルシャ嬢を連れていってはくれませんか?」


「えっ!?」


 予想外のことに驚く悠斗。

 悠斗はこのままナルシャを連れて行こうとは思っていなかったからだ。

 家族であるフーゴと一緒に暮らすべきだと思っている。

 しかし、その唯一の家族であるフーゴもラドゥールに賛同するよう頷きだした。


「わしからも頼む……」


「おっおじいちゃんまで何を言って――」


 動揺するナルシャに向かってラドゥールは片膝をついてこう話す。


「ナルシャ嬢……いや、ナルシャ様。貴方様はサウガダナン王朝王族最後の生き残り。本当の名は()()()()()() = ()() = ()()()()()()なのです」

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