第117話 再戦の決意
明けましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
「あれ、リーエルは……」
「リーエルさ……いえ、リーエルちゃんは――――」
ナルシャの吃る姿を見て、悠斗は最後まで言葉を聞かずに勢いよく起き上がった。
「リーエル!」
探すまでもなくリーエルはすぐ側で横たわっていた。
だがその姿はボロボロで、眠りについているように静かであった。
悠斗はリーエルの側まで行くと、そっと優しく彼女の身体を抱える。
「リーエル……何で…………何でこんな!」
ポロポロと悠斗の涙がリーエルの頬へこぼれ落ち、彼女の顔を濡らしていった。
「リーエル……?」
悠斗の腕に抱かれていたリーエルに変化が起こる。
体がぷるぷると震えているのだが目を開ける気配がない。
悠斗は必死に何度も何度もリーエルへ呼びかける。
すると……。
「………………もっ……もう我慢できんわい!」
「リっリーエル! 心配したんだぞ!」
「ぬはは! この程度でやられる大精霊ではないわい!」
ドヤ顔でそう語るリーエルは元気そうだった。
ここで悠斗はふとリーエルが語った言葉を思い出す。
「そうか、元気そうで何よりだ、うん。それで、いつから起きていたんだ?」
優しく語りかけているはずの悠斗の顔は笑顔であったのだ、何処か底知れない凄味を帯びていた。
不味いと思ったリーエルは慌てて弁解を述べる。
「えっと……うんと…………そうじゃな、いつだったかの…………頭をちょっと強く打ってしまって記憶があやふやでの……」
リーエルのキレイな水色の瞳はキョロキョロと左右に揺れていた。
悠斗は手っ取り早くとナルシャに向かって声をかける。
「ナルシャ? リーエルはいつから意識があったんだ?」
「ひゃい! えっとね、うんとね……」
今ナルシャの心の中では、人生で一番答えに迷っていた。
主であり大好きなお兄ちゃんである悠斗に嘘をつきたくないという心と、本当のことを言ってしまえば大精霊であるリーエルが非常に困ったこととなるからだ。
ナルシャが「あ~」とか「う~」と悩んでる所に、ミラが大きな声でこう叫ぶ。
「最初っから起きていたのだ!」
「これっ! ミラ! 何を言って――――――」
リーエルは最後まで言葉を紡ぐことができなかった。
なぜならば、悠斗の顔が壊れた機械の様にギギギと異音が鳴っていると錯覚するほどにゆっくりとリーエルの方へ向いていく。
「リーエル?」
悠斗の一言に色んな意味が込められていた。
その意味を察せないリーエルではなく、素直に反省の色を示す。
それに対して、悠斗はリーエルを正面に座らせると、両手でリーエルの頭を持つ。
リーエルは悠斗が今から何をやるのかさっぱりとわからないでいた。
そして……。
「にぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
悪い子にはお仕置きと、リーエルの小さな頭を容赦なく両手でグリグリと痛めつける悠斗。
「ごめんなさいなのじゃ~」
謝るリーエルだったが、悠斗はしばらく頭グリグリの刑を続けることにした。
「う~頭が割れると思ったのじゃ~。」
自信の頭を擦りながら、小声で「わしのプリティな頭が割れたらどう責任を……」とぶつぶつ言っている中、悠斗は真面目な顔をしてリーエルの方を持つ。
「ったく、本当に心配したんだからな」
そう言って笑顔になりながらも、目に涙を浮かべた顔をする悠斗は、リーエルの頭を優しく撫でる。
「ほぇ……」
突然のことに驚いたリーエルは頬を真っ赤に染め上げる。
リーエルの心情なぞ露知らず、悠斗は本当にリーエルの無事を喜んでいた。
そんな二人だけの空気が悠斗とリーエルを包み込む中、何だか蚊帳の外の置かれているっぽく感じたふじこ・ミラ・ナルシャは。
「リーエルばっかりズルいのだ~」
我慢できずに悠斗へ特攻するミラ。
「んっ!」
不機嫌そうな雰囲気を出しながら、ミラと一緒に駆けるふじこ。
「わっわたしも~」
その二人を追って、珍しくナルシャも不機嫌顔になっていた。
こうして全員の無事を確認した悠斗たちは、今後の方針を話し合うことにした。
というのも、まだアブラには見つかっていないからだ。
「さて、アブラの奴をどうするか……」
「お主、あやつと戦う気か!?」
まだ戦うのかと驚くリーエルに悠斗は。
「本音を言うと、当初の目的だった火の大精霊であるミラと契約できたし、ナルシャも取り戻せた。……それに奴隷も解放できたしな」
「じゃったら何故戦うのじゃ? 今のあやつはかなり危険じゃぞ」
「確かに、少しリーエルが相対しただけでこの有様だしな……」
そう言って周りを見渡せば瓦礫の山ばかりで、今悠斗たちがいるのも、奇跡的に形を保っている所へたまたま吹き飛ばされただけだからだ。
今までの敵とは違い、簡単にここまでやれる相手と戦えば無事では済まない。
だからこそ、その理由を問うリーエル。
「ならば何故じゃ?」
「何でって、そりゃ今対処できる奴って言ったら俺たちしかいないじゃん」
「しかし、お主はここの生まれでも何でもない。ここで逃げ出しても誰も責めはせんぞ?」
「そうだけどさ……でもここには女将のマルガさんやリアちゃん、集落のフーゴ爺さんにウーラとか、世話になった人達ばかりだからさ」
「悠斗、お主……」
「それに、ここはナルシャの生まれ故郷だろ。あいつを放っておいたらここ一帯がなくなるかもしれないだろ? 帰る場所がないって結構辛いんだぜ」
「お兄ちゃん……」
「だから……俺一人じゃ勝てそうにないし、みんな少し手を貸してくれないか?」
ここで一人で戦おうとせず、素直に力を貸してほしいと言う悠斗を四人は笑って返す。
「ふっ。少しじゃと? お主とわしは一心同体! 少しと言わず、全力で力を貸そうではないか!」
「ぼくも久々に全力で力を貸すのだ!」
「んっ!」
「わっわたしはふじこちゃんや大精霊様たちみたいに力はないけど……でも! ナルシャも全力でお兄ちゃんを応援しているから!」
悠斗はみんなの頭をわしゃわしゃと撫でると、気合を入れて立ち上がる。
「それじゃ、俺たちみんなの力を見せてやりますか!」
悠斗たちはアブラと再戦をするため、再び立ち上がった。
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