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第116話 ヘルフレイム

2021年最後の更新となります。

こうして116話も続けられたのは皆様のおかげでもあります。


来年も変わらず更新を続けていく予定ですので、皆様、どうぞよろしくお願いいたします。

そして、よいお歳をを。

「いかん! 今のあやつに近づくでない!」


 駆け寄ろうとした悠斗の手を引っ張って動きを止める。

 するとアブラを中心に膨大な赤い魔力が膨れ上がる。

 目で確認できる程大きな赤い魔力は、アブラが燃えるが如く包み込んでいく。

 鼓動の頻度はどんどん短くなり、アブラが苦しむ度に変化が起きた。

 肌の色は赤く、額からは二本の角が生え、背中からは大きな翼が生える。

 鼓動の音が鳴り止むと、そこには人の姿を捨てたアブラがいた。


「ははッ……力が漲りますね。……最初からこうすればよかったのです」


「ばっ化け物に……」


 誰が言ったのか、周囲にいる誰かがそう声を漏らすと、アブラであった者は兵士や野次馬として集まっていた者達に顔を向ける。


「邪魔ですね」


 周囲に飛ぶ蝿を払い退けるように手を降るだけで、集まっていた人々は次々と燃え盛り炭となっていく。

 突然近くにいた者が燃えた光景を見た人々は、みんな大きな叫び声を出しながら逃げ去っていく。

 罪のない人々に手を出してもアブラは興味がないのか、意にも介さず悠斗へ視線を向ける。


「それでは初めましょうか!」


 何事もなかったかのように声を出すアブラは、今度は両手に大きな魔力を込めていく。

 アブラの手から集まっていく大きな魔力はやがて巨大な火球となる。


「この程度でアッサリと終わらないでくださいね? ヘルフレイム!」


 不気味な笑みを浮かべるアブラは『ヘルフレイム』を悠斗に向けて放った。

 こうして放たれたヘルフレイムに悠斗は対応できず、逃げようにもあまりに大きすぎて逃げ場がなかった。

 しかし、ここでリーエルが悠斗の前に出る。


「やらせぬ!」


 リーエルは前に出るとすかさず魔力を放出して悠斗たちを守る水の障壁を創り出した。

 彼女の素早い行動によりヘルフレイムが悠斗達の元へ到達する前に、水の障壁によって防がれる。


「ぐぅ……っ!」


 しかし、アブラの放ったヘルフレイムの威力が高いのか、水の障壁は徐々に蒸発していく。

 火球によって水の障壁は蒸発してすり減っていくのだが、その度にリーエルが自身の魔力を放出して修復していく。

 だが修復するスピードは火球が水の障壁を蒸発させるよりも遅く、もはや突破されるのは時間の問題だった。


「ふじこ!」


 リーエルの魔力不足を察した悠斗は、ふじこを通して魔力を補給させようとするのだが。


「粘りますね……それでは、もう一つオマケはどうです?」


 アブラはいとも簡単に同じヘルフレイムを創り出した。


「なっ!?」


 驚く悠斗の顔を見て不敵な笑みを浮かべるアブラは、創り出した二つ目のヘルフレイムを放つ。

 放たれたヘルフレイムはまっすぐ悠斗たちの方へ向かい、やがて水の障壁とせめぎ合っているヘルフレイムと衝突する。

 二つのヘルフレイムは混ざり合い、より巨大な火球へと質量を膨れ上がらせた。

 その影響によりヘルフレイムの威力もさらに増して、壁や天井あらゆる物が崩れていく。


「ぐぬぉぉぉぉぉぉ!」


 リーエルは全力で魔力を放出してなんとか抑え込もうとするのだが、ここでヘルフレイムに変化が起きる。


「粘りますね。……これはどうですか?」


「ぐぬ…………っ!? みな逃げよ!」


 ヘルフレイムも変化が現れると、突如リーエルは悠斗たちに向かって叫ぶ。

 その叫びと同時にヘルフレイムは、今にも破裂するかの様に膨張を始める。


「今日はお祭りですから、壮大にしないといけませんからね」


 アブラはそう話すと、パチンッ! と指を鳴らす。

 それを合図に膨張を初めたヘルフレイムは突如爆発する。


 リーエルの言葉も虚しく、ヘルフレイムは周囲の全てを吹き飛ばす。

 宮殿と周囲一体はヘルフレイムの爆発に巻き込まれ、人も建物も全て爆発に飲まれていく。

 周囲一体は瓦礫の山。そんな中にただ一人だけ……アブラと呼ばれていた()()()は立っていた。

 静寂に包まれた周囲を見渡したアブラは。


「……フハッフハハハハ! やったぞ! 私は大精霊をも凌駕したのだ!」


 空に向かい己の存在を世に示すかの様に笑い声を叫び続ける。

 その狂喜に包まれた笑みの中には人としての感情なぞ残っていないのか、ただただ狂ったように笑い続けていく。


 化け物となったアブラが空に向かって笑い続けている中、悠斗は意識を失い傷だらけになって倒れていた。


「――――ゃん」


「おき…………だ。ダー――――」


 まだ幼い少女の声と特徴のある幼女の声、そしてペチペチと自身の頬を叩く小さな手のひら。

 意識がどこか遠くへ行きそうな所を、悠斗は強く引き戻されていく。

 そして……。


「…………ふじこ?」


 どこか心配そうに見えるいつもの無表情な顔が悠斗を上から覗いている。

 その左から「お兄ちゃん!」と心配だったのか泣きそうな顔になっているナルシャ。

 右からは「起きたのだ、ダーリン!」と変わらず元気そうなミラ。

 ナルシャとミラの二人は少々傷と汚れはあるが、無事な姿をしている。

 ふじこ()()()傷も汚れもなく、いつもと変わらなかった。

 無事な三人を見た悠斗はホッと安心するも、()()()()()()()()()()()()()


「あれ、リーエルは……」


「リーエルさ……いえ、リーエルちゃんは…………」


 ナルシャの吃る姿を見て、悠斗は最後まで言葉を聞かずに勢いよく起き上がった。


「リーエル!」


 探すまでもなくリーエルはすぐ側で横たわっていた。

 だがその姿はボロボロで、眠りについているように静かであった。

 悠斗はリーエルの側まで行くと、そっと優しく彼女の身体を抱える。


「リーエル……何で…………何でこんな!」


 ポロポロと悠斗の涙がリーエルの頬へこぼれ落ち、彼女の顔を濡らしていった。

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