第115話 巨大な獣との決着、しかし……。
クリスマスイブなのに、全然イブどころかちょっとグロ表現入っているかも。
「このまま一気に畳み掛けるぞ！」
悠斗はまだ体制を整えられていない巨大な獣に向かい蒼流の大剣を突き刺した。
蒼流の大剣は巨大な獣の腹部へ深く突き刺さり、悠斗はさらに傷口を広げようと剣を回転させる。
あまりの痛さに叫ぶ巨大な獣は、悠斗へ向かって乱暴に腕を振り下ろす。
しかし、そうする攻撃も察した悠斗は深追いせず、すぐさま引き抜くと後方へ下がりリーエルに声をかける。
「リーエル、ここを狙え！」
「うぬ！」
悠斗の意図を察したのか、リーエルは複数のみずてっぽうを束ねてはそれを一つの槍状へと変化させる。
「外側が硬い？ ……しかし、内側からならどうじゃろな？」
狙うは悠斗が作った腹部にある傷口。
ニヤリと笑ったリーエルは、振り上げた手を前面へ振り下ろした。
槍状へと変化したみずてっぽうは、リーエルの狙い通り腹部の傷口目掛けて突き進んだ。
それを防ごうとした巨大な獣は拳で受け止めようとするが。
「これは槍の形をしているだけの水じゃから、こういうこともできるのじゃ」
リーエルがつぶやくと、槍状へと変化したみずてっぽうは形を不形状になって巨大な獣の拳に纏わりつく。
そのまま腕を伝ってスルリと腹部へ移動すると、傷口から内部へと侵入していった。
「これでお終いじゃ」
リーエルが指で音を鳴らすと、傷口から侵入したみずてっぽうは腹部の中で槍状に変化。
臓器を突き破って見事巨大な獣の腹部を内部から貫いた。
『グォォォォ……』
腹部に大きな穴を開けた巨大な獣は足元に大きな血溜まりを作り、最後は咆哮と共にそのまま崩れ落ちていく。
血溜まりの中に倒れた巨大な獣は、そのまま息絶えていった。
「うし！ 俺たちの勝ちだな！」
「んっ！」
「うぬ！ 儂らの力が合わさればこんなものじゃ！」
「わーい！ 勝ったのだー！」
「ユートお兄ちゃんすごい！」
悠斗たちが勝利の余韻に浸っている中、巨大な獣であった死体にそろそろと近づく者がいた。
「――――わっ……私の大精霊が…………」
アブラは巨大な獣の死体に前で膝をつく。
衣服が血で染まろうとも気にもかけず、そのまま放心状態のまま死体となった巨大な獣を見続けた。
巨大な獣の力を信じていたからこそアブラはここまで足掻いていた。
しかし、それも悠斗達……本物の大精霊の力の前で無力であった。
「アブラ……もうこれで終わりにしよう」
一言、悠斗はそれだけ呟くと剣を収める。
王朝を裏切り、多くの奴隷を排出し、本物の火の大精霊であるミラから力を吸い取り続けた結果、悠斗たちに破れたアブラ。
悠斗は自身の手でアブラを裁こうとは思っていない。
裁くのかどうかはこの国の人間が決めることであり、部外者にすぎない自分が手を下すことではないと思っているからだ。
大きな戦闘でもあって騒がしくかったのだが、静かになったことで兵士や一般市民が野次馬の如く戻ってくる。
倒れた巨大な獣を見て同様する者達が多くザワザワと騒がしくなる。
そんな中、ある兵は放心しているアブラが心配になり声をかけた。
「アブラ様……？」
反応がないアブラの肩を揺さぶろうと手を肩にかけようとした兵士であったが。
「………………るさい」
「えっ？」
「うるさい！」
その手を強引に払いのけるアブラ。
「ヒッ！」
その表情は鬼の様な形相で目は血走り、恨みのこもった顔をしている。
普段の表情を知っているその兵士は、変化に驚いて後ずさってしまう。
その様子に気づいた悠斗はアブラを見ると、彼もグルリと素早く顔を悠斗へ向ける。
ホラー映画を見ているかの様に驚いた悠斗の顔を見て、アブラは不敵な笑みを浮かべる。
「まだです……まだ終わってはいませんよ………………」
そう言ってゆらりと立ち上がると、懐からなにかの小瓶を取り出した。
「使えばよかったんです……最初からこれを使えばよかった…………」
アブラは独り言を呟くと、小瓶の蓋を抜いて口元へ持っていく。
「あっあれはダメなのだ！」
普段から笑顔であるミラが、慌てる様な声を出す。
「いかん！ あやつを止めねば！」
ミラの慌てる声に反応してリーエルもアブラが持っているその小瓶を見ると、すかさずみずてっぽうを放つ。
しかし、間に合わなかったのかみずてっぽうが撃ち抜いたのは空になった小瓶。
重力に従って地面へ落ちた小瓶は、カランコロンと音を鳴らして地面に転がる。
「間に……合わんかったようじゃ……すまぬ」
「どうしたんだ！？ そんな慌て――――」
悠斗がリーエルへ尋ねる前に変化は訪れる。
ドクンっと大きな鼓動の音がアブラから響き渡る。
アブラは胸を抑えて蹲ると、鼓動の音が鳴る度に苦しみだした。
「何がどうなって……おい、大丈――」
「いかん！ 今のあやつに近づくでない！」
駆け寄ろうとした悠斗の手を引っ張って動きを止める。
するとアブラを中心に膨大な赤い魔力が膨れ上がる。
目で確認できる程大きな赤い魔力は、アブラが燃えるが如く包み込んでいく。
鼓動の頻度はどんどん短くなり、アブラが苦しむ度に変化が起きた。
肌の色は赤く、額からは二本の角が生え、背中からは大きな翼が生える。
鼓動の音が鳴り止むと、そこには人の姿を捨てたアブラがいた。
「ハハッ……力ガ漲リマスネ。……最初カラコウスレバヨカッタノデス」
「ばっ化け物に……」
誰が言ったのか、周囲にいる誰かがそう声を漏らす。
アブラであった者は、兵士や野次馬として集まっていた者達に顔を向けると。
「邪魔デスネ」
周囲に飛ぶ蝿を払い退けるように手を降るだけで、前にいた人々は燃え盛り炭となっていった。
突然近くにいた者が燃えた光景を見た人々や兵士は、大きな叫び声を出しながら逃げ去っていく。
アブラは興味がないのか、意にも介さず悠斗の顔を見ると。
「ソレデハ初メマショウカ！」
アブラは大きな魔力を込めると、手に巨大な火球を作り出してそれを悠斗に向けて放った。
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