第111話 窮鼠猫を噛む
「ありがとうよ! あんたが長話し好きでさ!」
悠斗がニヤリと笑顔になったその時、ナルシャを人質にとっている兵士に向かってどこからかみずてっぽうが発射された。
「ギャーー!」
兵士はみずてっぽうを顔面に受けてしまい、そのまま吹き飛んでいく。
人質に捕られていたナルシャは前方へ投げだされる。
「キャッ!」
ナルシャを連れ戻そうとアブラの指示で兵が動こうとするのだが、ナルシャと彼らを遮るように、炎の壁が展開される。
「「シュタ!」」
着地音を声に出しながら、二人の幼女が悠斗達に向かって話しかける。
「待たせたの!」
「ダーリン待ったのだ?」
二人の幼女こと水の大精霊リーエルと火の大精霊ミラが颯爽と現れたのだ。
「ああ、ちょー待ってた!」
彼女たちがここへ来ることが分かっていたかの様に、悠斗は驚くこともなくニカッと笑顔で出迎えた。
「大精霊……様?」
困惑しているナルシャの声に反応したリーエルとミラは彼女の顔を見ると、心配そうな顔をして彼女に声をかける。
「うぬ、大丈夫であったか?」
「何処も怪我してないのだ?」
リーエルとミラはナルシャに駆け寄って、手を差し出す。
彼女たちの手を取って起き上がったナルシャは。
「はっはい! ありがとうございます!」
頭を低くしてお礼を言うナルシャの元へ悠斗とふじこも駆けつける。
「大丈夫か? ナルシャ」
「うん! ありがとうユートお兄ちゃん。ナルシャは元気だよ? えへへ」
心配そうに声をかけた悠斗へギュッと抱きついたナルシャ。
元気といいつつも、怖かったのかその目には涙を受けべており、身体は震えていた。
ふじこも心配だったのかナルシャへ近づいてはギュッと抱きついた。
それを見たリーエルとミラも「わしも!」「ボクも!」と言いながら抱きついてはお団子状態となる。
そんなナルシャとの感動の再会をしていると、アブラ達との間を遮っていた炎の壁も消えてなくなっていく。
炎の壁が消えた先にはリーエルとミラの姿があり、それを見たアブラは驚愕の表情となる。
「どっどうしてここに大精霊様……いや、お前達がここに!?」
「そんなもの契約者の危機だからに決まっておるだろうに」
何を当たり前のことを……と言う様な顔をしてアブラを見るリーエルとミラ。
「そんなことを言っているわけじゃない! ここへ来るのにどれだけの距離があると思っている!」
リーエルとミラがいたであろう都市中央部と、現在いる場所は離れており、大人でもそれなりに時間がかかる。
大精霊とはいえ、幼女の姿形であろう者であれば余計に時間がかかる。
僅かものの数分数十分程度で駆けつけるは不可能だ。
それ故アブラが驚愕するのも無理はないのだが、そんな彼の疑問へリーエルは当たり前の様に応える。
「契約した精霊は契約主の元へ一瞬で行けるんじゃぞ? 知らなかったのかの?」
「………………は?」
アブラが理解できるのに数分はかかった。
だが、理解できると憤慨するように声を荒らげる。
「そんな馬鹿な話があってたまるか……!」
アブラの叫びに思わず悠斗もこれには思わず同意しかけてしまう。
大精霊の常識など知っている人間なぞいないため、これにはさすがの悠斗も同情しそうになったのだ。
しかし、またもや想定外のことが起きており、アブラの頭は混乱しきっている。
「いや、そもそも一体どこから作戦が――」
アブラの口から漏れ出た独り言に悠斗がその疑問へ答える。
「そもそも最初から……っていうかあんたが間者を入れてるだろうということを予想していた人物がいたんだよ」
「誰が…………………………っは! まさか!」
アブラが思い浮かべた人物。その表情と表に出た感情で悠斗も察したのだろう。
「そう、フーゴ爺さんだよ」
「フーゴぉぉぉぉぉぉ!」
「あんたとフーゴ爺さんって昔からの関係だったんだろ? 爺さんが言うには、あんたのことだから間者か何かが紛れ込んでいる可能性もあるから用心するように……って教えてもらってたんだよ」
「はっはは………………」
フーゴとアブラの付き合いは、革命が起きる前である『サウガダナン王朝』の時代から。
だからこそ、フーゴはアブラのことを熟知していた。
それはアブラも同じではあるが、しかし今では堕ちた者だと思っていた。
だからこそフーゴに一手掴まされたことに憤慨したものの、脱力してしまう。
「はは! 私は最初から踊らされていたのか………………」
「もう終わりだ。もう集落の人や弱い人々を奴隷にするようなことは辞めよう」
アブラを諭すに話す悠斗は、和解しようと手を伸ばして。
「あんたが何もしないなら、俺達はもうあんたに手を出さないし、フーゴ爺さんも許すと言ってた。…………ラドゥールさんはちょっとわからないけどさ、俺とフーゴ爺さんで頑張って説得するからさ…………」
悠斗の言う通り、彼はナルシャを取り戻せさえできればよかった。
フーゴも全部無かったことにはできないが奴隷売買に手を出すこと、そして火の大精霊への扱い。
こうした暗躍を辞めて、真っ当に組織運営をしてくれるなら許してもいいと事前に悠斗へ話していた。
だからこそここでアブラがその手を握ればこれ以上争うこともなかったはずであった。
……しかし、アブラはその手を跳ね除ける。
「まだ終わってはいない!」
アブラが声を出して叫ぶと、兵士に指示を出すと悠斗に背を見せて逃げていく。
「あっ! おい、待て!」
追いかけようとするのだが、アブラの私兵が悠斗達の行く手を阻んだ。
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