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第109話 情報の漏洩

 ブロデリック亭を出た悠斗はふじこを抱えて走り出す。


「うわっ差別だ! 俺も抱っこしろよ……のだ!」


「うるせぇクソガキ。これは差別じゃなくて区別だよ」


「何度もクソガキって言いやがって! このザァ~コ♡ザァ~コ♡ ……のだ」


「言われたくなかったら、その取ってつけたような演技をマシにしろ」


「うるせぇ! 始めてやるんだから仕方ねぇだろ!? ……のだ!」


 悠斗とフードの幼女は言いあいながらも人の波をかき分けて進む。

 まだ悠斗のいる地点と煙が上がっている場所は離れており、こちら側にいる人達は悠斗達を除いて異変に気付いていない。

 向かっている場所はナルシャがいるであろう宮殿だ。

 その宮殿まであとわずかという所で突然カーン! カーン! と大きな鐘が鳴る。


「ここまで騒ぎが知れ渡ったみたいだな……急ぐぞ!」


 革命祭を楽しんでいた周囲の人々も異変に気付き、悲鳴を上げながら逃げていく。

 そんな中、目的地である宮殿まであと僅かという所で悠斗達を阻む者が現れた。


「お待ちしておりましたよ、精霊の契約者様方」


 多数の奴隷と兵士を連れたアブラが悠斗待ち構えていたのだ。

 さらに、彼の隣にはナルシャの姿が見られた。


「ナルシャ!」


「お兄ちゃん!」


 ナルシャの元へ駆けつけようとする悠斗であったが、それをアブラが静止させる。


「おっと、そこまでです」


 アブラが右手で指示を出すと、ナルシャを人質にとっている兵士は剣の刃をナルシャの首元に当てる。

 駆けつけたかった悠斗であったが、アブラの指示に従わざるを得なかった。

 悠斗はアブラを睨みつけながら言葉を発する。


「くっ……何故ここにあんたが!」


「おやおや、そんなに怖い顔をして……少々傷ついてしまいそうです」


 わざとらしい演技をするアブラを見て腸が煮えくり返る悠斗であったが、その感情を飲み込んで踏みとどまる。

 思わず出てきそうな負の感情を奥底に押し込んで、悠斗はアブラと向き合うと。


「そんなことはどうでもいい。なぜあんたがここにいるんだ!」


「おや? 私は大精霊様をお守りする立場にいるのですから、ここにいるのはごく自然なことですが?」


「そんなことを聞いているわけじゃねぇ!」


 悠斗が本当に聞きたいことがわかっているのだろう。アブラはニヤニヤと笑いながらも、あえて分かっていないフリをしていた。

 本当に分かっていないのであれば、一々ナルシャを人質に取りながら悠斗を待ち構えていたりはしない。

 その証拠に、アブラの様子に慌てている所が見られなかった。


「くふふ。大精霊の契約者と在ろうお方が、こうして私に手も足も出せない所を見る気分は実にいいものですね」


 アブラは悠斗の感情を逆撫でる様に言葉を捲し立てる。

 さすがの悠斗も自然と罵倒が口に出てしまう。


「クソ野郎が!」


 本来であれば多数の兵士に囲まれていようが、ふじこさえいればどうにでも対処ができる。 しかし、ナルシャを人質に取られていればどうしようもない。

 アブラもそのことが分かっているからこそ、未だ余裕を見せている。

 悠斗もそのことを自覚しているからこそ、睨みつけるだけに留まっていた。

 両者の中で緊迫した空気が流れる中、そんなことなぞ気にもしていないようにわざとらしい演技をしてこうアブラは口を開く。


「おお怖い怖い。こんなにも歓迎しているのにも関わらず、敵意なぞ向けられては怖くて夜も寝られないですね」


 アブラは「くふふ」と笑いながら自身の兵士に指示を出す。

 その指示へ従うように、兵士達はアブラを守るよう陣形を組み、多数の奴隷達は悠斗を囲む様に動くと矛を向ける。

 主な奴隷達は年齢・性別もバラバラで、彼ら彼女らの表情は暗い。

 女性や子供・老人といった立場の弱い者達も多く、その矛先がガタガタと揺れ動く程あきらかに戦いとは無縁の様子の者達もいる。

 彼ら彼女たちは奴隷であるため逆らうことができない。

 仮に逆らうことができたとしても、多大な痛みが伴うか、もしくは死が待っている。

 だからこそ彼らの表情は死人と然程変わらない程に暗い表情をしていた。


 さすがの悠斗もこうして多数の者達に刃を向けられて囲まれてしまえば、剣を抜かざるを得ない。

 剣を構え、いつでも動けるよう体制を整える度にその一挙一動を見て周囲に緊張が走る。


「おっと、()()()()()()()()()()ためにわざわざここまで来たのではないのですか? それなのにこの者達へ剣を向けると?」


「何でお前がそのことを知っているんだ!」


 悠斗がナルシャを助けに来ることはアブラも知っているはずなのだが、()()()()()()()()というのは作戦の内容だ。

 であるからこそアブラが知っているはずがないのだ。


「くふふ。ようやくそれを聞いていただけましたか――――――それは勿論! 貴方達の中に()()がいたからですよ」


「なっ!」


「精霊様の一柱率いる本隊が陽動をしている間に、貴方達が混乱に乗じて彼女(ナルシャ)を救出ですかね?」


 苦虫を噛みしめる様な顔をした悠斗の顔を見て、気分が増々高揚するのか悦に浸るアブラ。

 その口は止まることなく饒舌に語り続ける。


「その後、中央広場に合流して精霊様達とそこのクソガキ(ふじこ)三人力を合わせて奴隷解放の儀を行うでしたか。……どうです? 私の回答は」


「……っ!」


「作戦がバレてしまったお陰で貴方は彼女(ナルシャ)を助ける事もできず、本隊と合流できないので奴隷解放の儀を行うことができない……どうですか。今の気分は?」


「――――――ああ、最低最悪だよ」


 作戦がバレてしまっているのであれば継続することが難しい。

 悠斗は力を抜いて剣の矛先を下げる。

 作戦が露呈してしまっているのであれば、刃を向けても無意味だ。

 アブラは悠斗の行動を見て増々上機嫌に笑うと。


「そうですそうです。理解が早いですね! 賢い者は好きですよ?」


「お前の好意なんていらねぇよ」


「そんなこと言わずにこれから仲良くしましょうよ……これからは私の奴隷として、ですがね!」


「くそっ……」


「ああ、精霊の契約者を奴隷として使えるなんて……これは世界を牛耳れるのではないでしょうか? こいつらの力があれば()()()()なぞ……!」


 アブラはこれからの展開を妄想して悦に浸っていた。

 悠斗を奴隷として使えるのであれば、彼を通して大精霊達へ命令させることができる。

 そうすれば実質的に自身がその力を存分に振るうのと同義である。

 さらにはその力を使いこの国どころか周辺国を制圧することや、精霊を信仰する人が多いこの世界で、人心のコントロールも可能となる。

 いくらでも使い道があり、アブラの中でこの後の展望が大きく膨れ上がるが、今は妄想に浸っている場合ではない。

 そういうのはこの後考えればいいと冷静さを取り戻したアブラは、すぐさま兵士に指示を出すと悠斗達を自身の前まで連行させた。


「さて、邪魔が入っては困りますし、さっそく仲良しの義(奴隷契約)でも始めましょうか」


 ニッコリと笑うアブラの魔の手が悠斗を襲う……。

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